ただいまと言いたい

「名前ちゃんは何をしてても可愛いなあ、ねえ俺と結婚しない?しよう?」

「あはは善逸ありがとう」

「こーら善逸、ちゃんとやらないと体が鈍るぞ」

「炭治郎は真面目すぎるんだよ〜せっかくの休みだぞ!ちゃんと休めよぅ」

「療養であって休暇じゃないと俺は思うけど…」

「そーいうとこだよ!そーいうとこ!」

藤の花の家紋のお屋敷に着いて数日たったころ、生傷だったものたちは傷口が固まってお屋敷の人たちが呼んでくれたお医者さんのおかげで俺たちもいつもの元気を取り戻しつつあった。
四人での任務は最近では珍しくもなくなって「また四人だー!」と名前が任務の度に手をあげて喜ぶものだから気が緩んでしまいそうになったけど俺たちなりに緊張を解して任務をこなせているのだと思う。
善逸は相変わらず出立前から行きたくない死にたくないと喚き散らしていたけれど「名前ちゃんが行くなら…」と毎回ずるずる名前に引きずられている。
伊之助は伊之助で「俺様についてこい!」と善逸をひきずる名前を子分だと従えてご機嫌のようだったし、良い仲間に恵まれたなと思う。

「善逸も柔軟くらいはやろうよ〜気持ちがいいよ!」

「エッ名前ちゃんが手伝ってくれるの!?んも〜俺超はりきっちゃう!」

「ハッ紋逸お前耳わりいんじゃねえか」

「うっるせーーよ!!お前もいい加減名前覚えろよな!!」

「はは、今日も皆元気だな」

「楽しそうだね混ぜて混ぜて!」

「楽しくないよ!!名前ちゃんは俺と休憩しよ!!?」

善逸は名前のことも大好きなようで日常的に名前に迫っている。
出会ったときはそれにいちいち赤くなってやり場のない恥ずかしさがあったのかそれとも困ってたのか、そんな匂いがしていたけど今となっては善逸に何を言われても素直に喜ぶようにしたらしくニコニコ笑い返している。会うたびに名前が驚くほど善逸が騒ぐものだから俺の後ろに隠れたりしていた名前がこんなにも善逸と仲良くなって…なんだか思い出すと感慨深いものがある。まあ善逸が悪かったんだと思う。名前が善逸に慣れたのが大きいのだと思っている。

「伊之助はすごいねえ〜今日も元気いっぱい」

「当たり前だろ!親分だからな!ガハハ!!」

「思わず元気になっちゃうね、いつもありがとうね」

「ほわ…じゃねえ!ありがたく思え!ガハハハハ!」

伊之助も名前がお気に入りみたいで、よくどこかに連れ出してるのを見る。
こないだなんかどろどろになって帰ってきたと思ったら2人で山を駆けずり回っていたらしい。
「伊之助に置いてかれちゃうかと思った〜」と名前はへらへら笑っていたけど相当大変な思いをしたに違いない。善逸はものすごく怒っていた。それはもう壮絶だった。伊之助は聞いてなかったし、名前も笑ってるだけだったけど。

「炭治郎、そういえばもう体は大丈夫なの?」

「ああ、もう大分よくなったよ」

「よかった〜いっつも無茶するから!」

「名前だってそうだろ?頑張りすぎるんじゃないぞ」

「炭治郎ほどじゃないよ」

「ねえねえ名前ちゃん!炭治郎!おにぎりだよ!」

各々体に影響ない程度に体を動かしていたらお屋敷の方が休憩に握り飯を持ってきてくださった。善逸に声を掛けられ視線を動かすとすでに伊之助は食べていた。俺たちも2人の側に寄るとお米のいい匂いがした。

「もうそろそろ帰れそうかなあ」

「そうだな、傷も大分癒えたし…名前また口についてるぞ」

小さい口にお米を付けて名前が呟いた。名前はここのところ早くお屋敷に帰りたいなと何度か言っていた。
名前の口についた米粒を取ってやると善逸が「何今の!?ちょっと炭治郎何考えてんの!?」とまた騒ぎだした。

「善逸、食べてるときに汚いぞ」

「そーじゃないでしょ!!何今の!?俺がやりたかったんですけど!?」

「何言ってるんだ?善逸の怒るところがたまにわからないぞ」

「あーはいはい!炭治郎はそーやって名前ちゃんのお兄ちゃんにでもなったつもりなんですか!?はー禰豆子ちゃんが居ながら!!この贅沢者が!!」

「うるせえぞ紋逸!!!」

「だから紋逸じゃねーーーっての!!!」

今日何度目かのこのやり取りに慣れっこの名前は動揺することなく握り飯を頬張っていた。
騒ぐ2人をなだめるのも今日何度目か、全く懲りない2人だと思いつつ俺もまだ暖かい握り飯をありがたく頂戴した。

「俺は帰りたくないなー、もうずっとここに居ようよお」

「だめだろ善逸。俺たちは鬼殺隊なんだぞ」

「だってさあー」

「先生、きっと心配してると思うんだよね、だから私は早く帰りたいなあ」

名前は握り飯を二つ平らげてお茶をすすって言った。なんとなく寂しそうな匂いがした。
そんな名前の隣で伊之助は口いっぱいにまだ握り飯を頬張っている。
名前の言う先生とは、恋柱の甘露寺さんのことだ。名前は甘露寺さんの継子で、任務のない時は甘露寺さんのお屋敷で鍛錬に励んでいる、いつも名前が任務に出るとき、甘露寺さんは都合の許す限り見送りをしていた。今回の任務でもそうだった。
そんなことを考えていたら俺は数日前、明け方に名前が冨岡さんに会いたがっていたのを思い出した。
名前は冨岡さんが大好きらしい。それは俺たちの周りで知らない人は居ないんじゃないかというくらい有名な話だ。

「冨岡さんも帰ってるといいな」

「は?炭治郎何言ってんの。今はあの人の話してなかったでしょ」

「ああ、そうなんだけど…名前会いたがってたから、つい」

「…義勇さんにも会いたいし!やっぱり早く戻りたいよー!!ねえ炭治郎ー!!」

「もー!!名前ちゃんほんとあの人のことばっか!!俺は!?ねえ俺は!?」

「おい!いらねえなら俺が食っちまうぞ!!」

「うわちょっとありえないんだけど!!!それ俺が食べようとしてたやつ!!」

伊之助が善逸の握り飯を横取りしているのを見て名前は声を出して笑った。
さっき2人をようやく宥めたところだと言うのにまた始まってしまった。
まあでもこれだけ元気ならきっと大丈夫だろう。

「この調子なら、近いうちに戻れそうだ」

「…そうだね!」

名前はまたにこにこ笑って大きく頷いた。

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