恋を共に歩んでいるようだ

「名前ちゃん、もう少しお顔上げてくれる?」

「こう、ですか?」

「ありがとう!」

あんなに連日雨続きだったのに、最近は暖かい陽気が続いている。今日は朝から先生に稽古をつけてもらい、さっきお昼にご飯を済ませた私と先生は櫛と手鏡、いくつかの髪紐を机に広げていた。
先生が可愛い編みかたを教えてもらったらしく休憩がてら私の髪を結ってくれると言う。勿論私は義勇さんにもらった髪紐を持って先生の前に正座していた。
先生の優しい指が私の髪を分けていく。お腹が一杯なのと陽気も相まってなんだか心地がよくなってしまう。

「こうして…ここを、こうだったはず!」

先生が手を動かしながら呟く言葉に耳を傾けつつ手に持つ髪紐をくるくると指に絡めていた。
この髪紐を頂いてから色んな髪型を試した。先生の真似をしたり、しのぶさんの真似をしたり、色々。先生に色んな髪型を髪型に結ってもらいどれの方が似合うとか、髪紐がよく見えるとか、二人で試行錯誤したりした。
先生はとっても流行に詳しい。私も可愛くなりたい一心で先生に色んなことを教えてもらう。
まだ義勇さんに髪紐をつけた姿は見てもらってない。しばらく会えてないけれど、次会えるときに可愛いと思ってもらいたいからいつも感じる寂しさとか恋しさは随分と薄く感じた。
むしろ毎日が短くて短くて、次会う日までにこの髪紐に似合う女の子にならなくちゃならないと思うと1日1日時間が足りなかった。
別に義勇さんに会う予定はないし、お互い任務ですれ違って全然会えないときもあるのだけど、いつくるかわからない次を考えると1日がすごく早いのだ。

「はい、どうかな!?」

先生が私の肩を叩いて完成を告げた。
私はわくわくと側にあった手鏡を手に取り自分を見ると私にはどう編まれているのかわからない、器用に結われた髪に驚いてしまった。

「わあ!す、すごい、先生どうやったんですか!」

「私にも見せて見せて!」

先生に促されるまま、後ろに座っている先生に向き直ると先生がぱっと笑った。
私の横髪をそっと撫でて耳にかけるとまじまじと私を見る。

「思った通り〜!可愛い!すっごく似合う!名前ちゃんにぴったり!」

「ほ、ほんとですか…!」

「これなら冨岡さんもきっと喜ぶはず!!!」

先生はぐっと胸の前で拳を握りこんで私に勢いよく言った。
義勇さんの名前に顔が熱くなる。
私は手元の髪紐に視線を移して思わず義勇さんの顔を思い浮かべてしまった。
それを見ていたのか先生が私の手に手を重ねて笑った。
視線を先生に戻すとニコニコと微笑む先生が私を見ていた。

「せっかくだから、ね?着けてみましょ!」

「っはい!」

先生に髪紐を手渡すと慣れた手つきで私の髪に飾るように髪紐を結んでくれた。
しゅるしゅると髪紐が擦れる音がする。この音さえ心地がいい。
先生がはい、と私に声をかけて手鏡を見せてくれる。
覗きこむと、お天気のいい陽の光を吸っているのか眩しく光るガラス珠が見えた。
とってもきれいで、少しだけきゅんとした。

「っありがとうございます!」

「どういたしまして!」

「…本当に、私に似合いますか?」

手鏡から目を離し改めて先生に聞く。
本当に可愛く、綺麗に結ってもらって私の気分は最高だった。それでもいざ、義勇さんのことを思うと不安になってしまった。義勇さんが思っていた通りだろうか、義勇さんに少しでも良く思われたいけれど背伸びをしすぎて身の丈に合っていなかったりしないかと。
先生は一瞬きょとんとされたけど、すぐにいつものにこにこに戻って私の手を取ってぎゅっと握った。

「名前ちゃんは!可愛いわ!私の継子だもの!誰よりよく似合うわ!」

先生の手はとても暖かい。その暖かさは先生の紡ぐ言葉全部にも共通していて私の不安を溶かすようだった。胸の奥がぽかぽかとしてきて、じんわりと滲みた。
私は強くて優しくて、こんなに素敵な先生の継子なのだ。その先生が可愛いと、似合うと言ってくれるのだから、きっとそうなんだ。
なんだか不安も馬鹿らしくなってきて先生と一緒に吹き出して笑ってしまった。

「そうですよね!私、先生の継子ですから!当然ですよね!」

「ええ!そうよ!師範の私が言うんだから!間違いないわ!」

先生はいつも義勇さんに恋をする私の背中を押してくれるんだ。鬼殺として育ててくれる傍ら、恋をしている私をとってもよく見てくれている。先生がこれだけ私に手を貸してくれたのだから、義勇さんだってきっと可愛いと思ってくれる。そう思うとやっぱり義勇さんに会える日が来るのが楽しみで仕方がなくなってきた。

「決めました!私、これで義勇さんに会いたいです!」

「賛成!それがいいわ!」

大きく腕を振り上げて先生に言うと先生も同じように手をあげてくれた。決まりね、と先生と手を合わせた。
義勇さん、いつお帰りになるんだろうか。私とすれ違いになりませんように。
義勇さんが戻るまで、しっかり鍛練を詰んで、それから少しでも可愛い女の子になれるようにもっと何かできることはないか探しておこう。

色んなことに思考を巡らせていると玄関の方から私たちを訪ねる声が聞こえた。先生と一緒に出ると玄弥が悲鳴嶼さんのお使いで来たという。私は玄弥に先生に結ってもらったばかりの髪を見せ感想をねだった。玄弥は似合うと頬を掻きながら困ったように笑ってくれた。

ああ、待ち遠しいなあ。義勇さん、どうかお変わりなく無事帰って来てくれますように。

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