恋滲む、日本晴れ。

「ごめんください!」

「まあ。こんにちは、名前さん。」

「先生のお使いに来ました!」

「いつもありがとうございます。ご苦労様です。」

お忙しい先生からお使いを頼まれて蝶屋敷に来た。
ここ数日は雨が続いていたけど今日はとてもお天気がいい。蝶屋敷にお使いに来るのは初めてではないし、私が怪我をしたとき、炭治郎たちが怪我をしたと聞いたときも蝶屋敷にはよくお邪魔する。カナヲに会いにも来る。だから蝶屋敷にはよく出入りする機会がある。蝶屋敷にお邪魔するときは決まってお天気がいい気がする。しのぶさんはお天気と同じくらい暖かい笑顔で私を迎え入れてくれた。
先生から頼まれたお使いを済ませた私に、しのぶさんが机の上に置いてあった、綺麗な瓶に詰まった飴玉を一つ取り出して差し出した。

「はい、あーん」

「!」

言葉の通り口を開けて待つと飴玉がころりと入ってきた。頬張ると甘くて優しい味がした。
しのぶさんはいつも私がお使いにくるとこうして飴玉を下さるのだ。決してこのためにお使いに来ているわけではないけど、とても幸せな気持ちになるから少しだけいつも期待をしてしまう。
頂いた飴玉を噛むことなく丁寧に口のなかで溶かしていく。飴玉の味を楽しむ私を見てしのぶさんがふふふと笑った。

「今日は随分可愛らしい髪紐を着けていますね」

「!あ、ありがとうございます…!」

お天気がやっと良くなったから、とお使いに出る前お忙しい先生が少し時間を作って結ってくれた髪に、やっと義勇さんから頂いた髪紐を着けてもらったのをしのぶさんが気づいてくれた。

義勇さんと炭治郎がお屋敷まで送ってくれたあと先生に髪紐を義勇さんが下さったことを慌てて報告したときから先生はずっとこの髪紐を着ける機会を探してくれていた。最近お天気がよくなかったし、小さな任務に出たり稽古を着けてもらっていたりしていた。早く髪紐を使いたい気持ちと汚したり失くしたりしたくない気持ちで今日までずっと先生と一緒に我慢していた。
今日は前もって頼まれていたお使いの日だったから、お天気が良かったら今日にしようと先生が言ってくれたのだ。先生はお忙しいのに、朝ご自身の支度をすぐ終わらせて私に時間をくれた。私が自分でやれば良かった話だけど、私は先生に髪を結ってもらうのが好きだから、申し訳ない気持ちを持ちつつも甘えてしまった。
私のことなのに、自分のことのように一緒に喜んで私と同じように考えて、わくわくしたり我慢してくれたりする先生。私には勿体ないくらい素敵な先生だ。思い出すと先生が大好きな気持ちで一杯になる。

しのぶさんに気づいてもらえて嬉しくて、自分の髪を少しだけいじった。義勇さんに貰った髪紐、私に似合ってるだろうか。そう見えているといいのだけど。
そんなことを考えていたら私の頬から飴玉が溶けてなくなってしまった。それと同時に、しのぶさんがまじまじと私の髪紐を見て笑った。
不思議に思って首をかしげた。

「冨岡さんからですね?」

「っえ!?」

「ふふふ、お顔にぜーんぶ、書いてありますよ。」

しのぶさんが髪紐を指しながら悪戯っぽく言った。
私、この髪紐を貰った話は先生にしかしてないのに。炭治郎が言ったのかな。義勇さんが言うとは思えないし、もしかして先生が言ったのかな。
吃驚してしまって少しだけ大きな声が出てしまった。それに対してまたしのぶさんがまた笑った。

「誰かに聞いたんですか…?」

「あら、やっぱり冨岡さんなんですね?当たりですね。名前さん、わかりやすいですから簡単でした。それにしても冨岡さんも贈り物ができるような人だったなんて、驚きです。」

しのぶさんは相変わらず笑いながら続けた。どうやら誰から聞いたわけでもないようで私は開いた口が締まらなかった。
お口、開いてますよ。としのぶさんが更に笑うものだから恥ずかしくなって顔が熱くなってしまった。

「ご自分じゃわからないかもしれないですね。名前さん、冨岡さんの前だととっても可愛らしいお顔をされるんですよ。だから解っちゃいました。」

「か、かわ…!?」

「ええ、さっきも冨岡さんのことを考えてますと言わんばかりに、可愛らしいお顔だったので。」

しのぶさんの言葉にどんどん体温が上がって熱が顔に昇ってくる。そんなつもりはないし、一体どんな顔のことを言われているのか見当もつかない。そんなにわかりやすいのだろうか、だとしたら義勇さんには一体どんな風に思われてしまってるのだろうとぐるぐる考えが巡る。恥ずかしさが爆発してしまいそうだ。
火照る頬を思わず手のひらで包んでしのぶさんから顔を反らし俯いた。

「隠さなくったっていいじゃないですか。私は褒めているんですよ。」

「や、やめてください…!恥ずかしくて死んでしまいそうです…!」

「あらあら。可愛らしいんですから。」

しのぶさんは楽しそうに笑うのをやめなかった。
しのぶさんに限らず、先生も炭治郎たちも、他の柱の皆さんも、私が義勇さんが大好きだって知ってる。それどころか意中の人、義勇さんだって、知ってることなのに。
こんな風にそれをつつかれることはなかったから自分でも驚くほど恥ずかしくなってしまった。
隠しきれやしないから隠すことなんかしないけれど、自分で理解しているよりももっとずっと、私は義勇さんが好きで、滲み出てしまっているのかもしれない。
はしたないだろうか、どう思われているんだろうか、なんだか急に自分が恥ずかしい子な気がしてきてしまった。

「冨岡さんは贅沢な人ですね。少し羨ましくなってしまいます。こんなに可愛い子に、こんなに真っ直ぐ想われて。」

しのぶさんが急に私の頭にぽんと手のひらをおいてよしよしと撫でてくれた。
からかうように笑っていたしのぶさんは、私に優しく言った。熱を出したときと同じくらい優しい声で、安心させるような声で。
またわかりやすい顔をしていたのだろうか、それともしのぶさんは心が読めたりするんだろうか、私の少しの不安に寄り添うような言葉に顔を上げてしのぶさんを見た。
なんだろう、見守るような、それでいて楽しそうな笑顔だった。

「冨岡さんは任務に出られていたんでしたっけ?まだ見せてないのでしょう?冨岡さんもきっと、よく似合うと言って下さいますよ。」

「!そ、そうでしょうか…」

「もし何も言ってこないようなら私から一言、言ってやりますからね。」

「し、しのぶさん…ふ、ふふ、ありがとうございます!」

しのぶさんは握った拳を軽くぶんと振って見せた。お淑やかで優しいのに、強くて頼もしい女性のしのぶさんが好きだ。先生とはまた違う、素敵な人だ。

「実はまだ一番似合う髪型を先生と模索中で」

「あら、そうなんですか?私もお手伝いできますか?」

「!是非…!蝶屋敷の子たちは皆可愛い髪飾りをつけてるから…何かご教授いただけたら…!」

お使いに来ただけなのに、話はどんどん弾んだ。
夜会巻きをしているしのぶさんから女性の髪型についてたくさん話を聞いて、お部屋に入ってきたアオイちゃんを始め、なほちゃんきよちゃん、すみちゃんと、カナヲを巻き込んで女の子のお洒落事情にわいわい花を咲かせた。
歳の近い女の子とこんなお話をするのは一体いつぶりだったかわからなくて時間も忘れて話し込んでしまった。
途中しのぶさんに用があったらしく蝶屋敷に来た不死川さんに義勇さんからもらった髪紐を自慢するととっても顔をしかめられた。
そんな私をアオイちゃんたちが何故か必死で止めに入ってきたのを見てしのぶさんはまた笑っていた。

義勇さん、似合うって言ってくれるかな。
きっと炭治郎はいつもみたく可愛いって言ってくれるから、義勇さんにもそう思ってもらえるようには頑張らなくちゃいけないな。もっといっぱい試してみよう。この髪紐に恥じない女の子になろう。
義勇さんに見合う、素敵な女の子に私もなりたい。
もっと強くなって、綺麗になって。
義勇さんを思うと何もかもが楽しくなるから、恋をするってとっても素敵なことだ。明日もお天気だったらお洒落をしたい。
嗚呼、ときめいて仕方ない。


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