光彩に眩んでしまうよ

「…はい、できた〜!とっても可愛い!よく似合うわ名前ちゃん!」

「わーい!ありがとうございます!」

鏡を手にとってまじまじと自分を見るととっても綺麗に結われた髪にわくわくした。
今日はしばらく単独の小さな任務が続いていたために最近会うことがなかった炭治郎、それから義勇さんと一緒に近くの街まで出て炭治郎が最近ご主人と仲良くなったらしい甘味処に行くのだ。
炭治郎が私が気になると言ったことを憶えていてくれて、義勇さんも誘ってくれた。炭治郎ありがとう、大好き。
義勇さんと炭治郎と出掛けることは別に珍しいことではない。何かのついででどこかに寄ったり、日用品の買い出しに一緒に出たり、頻度は任務に左右されるのでまちまちだけど改まって構えるほどのことでもないかもしれない。
それでも義勇さんが一緒に居るということが私には毎度楽しみで仕方がない。
義勇さんが居れば場所や時間は関係ない。
義勇さんであることが私の全てを高鳴らせるのだ。

先生に綺麗に髪を結ってもらって身支度が整った。炭治郎が迎えに行くと言ってくれてたのを後は待つだけ。
先生も一緒に行きませんかと誘ったけれどどうやら今日は小芭内さんと予定があるらしくそれじゃあ仕方ないとまたの機会の話をした。
先生は流行にとっても敏感で色んなことを知ってる。先生とおでかけするといつも新しいものを知る。先生はとっても強いのにすっごく素敵な女の子だ。私もそうなりたいと思った。
のんびりお話をしていたら玄関から炭治郎の声が聞こえた。

「先生、行ってきます!」

「あんまり遅くなっちゃだめよ、楽しんできてね!」

先生がにこにこと私に手を振って送り出してくれた。
ぱたぱたと玄関を出ると炭治郎と義勇さんが居た。

「お待たせしました!」

「あれ、名前また髪を甘露寺さんに結ってもらったのか?」

「うん!」

「似合ってる、可愛いぞ!」

「ほんと?」

玄関を出るやいなや、挨拶をすっとばして炭治郎が私の髪型について触れてくれた。このやり取りももう何度目か、私は先生の都合がつけば髪を結ってもらっている。その度に炭治郎は褒めてくれる。今日も褒めてくれるかな、と少しいつも期待してしまうのも仕方がないことだと思う。
炭治郎の後ろで義勇さんが炭治郎と私を見ていた。
義勇さんに視線をずらすと目があった。

「義勇さん!お久しぶりです!」

「ああ」

「お天気で良かったですね!私すっごく楽しみにしてたんです!」

「…そうか、」

「はい!だから早速行きましょう!」

義勇さんと炭治郎の腕を引いて歩きだす。義勇さんは何も言わずに着いてきてくれる。炭治郎は少し笑って今から向かう甘味処について話をしてくれた。
馴染みの街に向かうまでは慣れた道を近況報告のような話をたくさんした。戦った鬼のこと、そこで会った人のこと、隊士たちの噂話なんか、それはもう色々。甘味処までの道のりはあっという間に感じた。
炭治郎が言っていた通り、穏やかなご主人が迎えてくれて雰囲気のいい甘味処だった。炭治郎がどうやら今日連れてくることを話していたのか気さくにもてなしてくださった。
ご主人がもなかをおまけに下さって私の気分はここ最近で一番ご機嫌だった。
おいしいお菓子に、穏やかなご主人に、炭治郎と義勇さん。お話はとっても弾んで少し長居してしまった。
義勇さんがお代をまとめて出そうとしたので自分で出すとお金の押し付けあいになった。凄く地味な攻防戦を繰り広げた結果私と炭治郎が負け義勇さんにご馳走になってしまった。どこに行っても義勇さんがこうしてご馳走してくれるものだから今度こそと思っていたのに。

「ご主人、ありがとうございました!次は私の先生を連れてきます!」

「こちらこそ、どうぞご贔屓に」

「また来ます!」

甘味処を後にした私たちは商店が並ぶ道筋を寄り道しつつ帰り道を目指した。
炭治郎が善逸が好きそうだ、禰豆子に似合いそうだ、伊之助にどうだろう、と色んなものを見ながら話す。私はそれに肯定もしたし否定もした。義勇さんはいつも私たちと出掛けるとき私達の後をついてきて話を聞いている。そんな義勇さんと一緒にいると最終的に炭治郎と私で義勇さんに似合うものを探しだしてしまう。たまに炭治郎の選ぶものは独特で義勇さんがわかりやすく顔をしかめたりするのが楽しくて盛り上がるのだ。
今回も同じ流れで炭治郎と一緒に義勇さんにはこれだ、あれだとあっちこっちの店を見て回った。義勇さんはいつも俺はいいと言う。勿論今回もそうだった。そう言われたとて私達の勢いは止まらないのだけれど。

日暮れがそろそろかと感じだし街も一通り見て回ったのでそろそろ帰ろうかと話をせずとも自然と足が帰り道にむき出した頃、1日一緒に居ても話がとまらない私と炭治郎をそこらに義勇さんは立ち止まった。
私は隣に居なくなった義勇さんを不思議に思い振りかえるとじっとなにかを見ていた。

「義勇さん…?」

「何かあったのかな」

私と炭治郎は義勇さんの元に歩み寄った。
どうかしたんですか、と声をかけると義勇さんは目を反らすことなく視線の先に私と炭治郎を置いて歩いていく。
疑問が深まるばかりの私と炭治郎は義勇さんの後に続くときらきらと光る、ガラス細工だろうか、綺麗な雑貨が並ぶ小さなお店だった。

「わあ!綺麗ですね!」

「義勇さん急にお店に吸い込まれてっちゃうから吃驚しました!こんなお店があったんですね」

炭治郎も私も義勇さんが見ていたものがわかると一緒になってお店の商品を見回した。
女性向けの綺麗な雑貨が並び、奥からお店の人がこちらを見て笑っていた。
この街に来るのは初めてではなかったけれどこのお店は今日初めて見た。まじまじとお店を見て回る私と炭治郎をよそに義勇さんはずっと一つを見ていた。
私は義勇さんに近づいて義勇さんの見ているものを探した。

「義勇さん何かいいものがあったんですか?」

「………」

「義勇さん?」

「…これを、」

義勇さんは私の声かけには応じず、奥に居たお店の人の声をかけた。これ、と指差したものは可愛らしい色をした、綺麗なガラス珠のついた髪紐だった。
お店の人が義勇さんの声かけにてきぱきと応じているのを私はじっと見ることしかできなかった。義勇さんはいつも髪を結ってはいるけど、まさかご自分で使われるとは思わない。誰かに贈り物だろうかと眺めることしかできなかった。

「毎度ありがとうございました。」

「世話になった」

考えを巡らせているうちに義勇さんはお代を支払いお買い物を済ませていた。
帰るぞと私と炭治郎に声をかける義勇さんにはっとして後を追うようにお店を出た。お店を出た瞬間また立ち止まった義勇さんの背中にぶつかった。

「っわあ、…義勇さん?次はどうしたんですか?」

「お前に」

「え?」

義勇さんは私に振り返ってさっき購入したばかりの髪紐を私に差し出した。全然状況の掴めない私の横で炭治郎が綺麗ですねと髪紐を見て言っていた。
髪紐から義勇さんに視線を移すと私を見ていたらしい義勇さんと目が合った。

「わ、私に…?」

「…必要なければ処分しろ」

驚く私に髪紐を手渡して義勇さんは一言そう言うと私を置いて帰り道の方に足を動かした。
炭治郎が私によかったな、と笑いかける。
義勇さんが私に。
そんな、まさかと驚きを隠せない。手に乗せられたかわいらしい髪紐についたガラス珠が暮れだした陽に照らされて眩しく光っている。
嬉しい。どうしよう。本当に?本当に、貰ってしまっていいのだろうか。義勇さんからの突然の贈り物に喜びと驚きで混乱しそうだった。
立ち尽くす私に炭治郎が声をかけて意識を引き戻してくれた。
慌てて先を行く義勇さんに追い付くように走った。

「ぎ、義勇さん、いいんですかこれ、貰っちゃって」

「…お前に買ったんだ」

「っ、」

言葉にならなかった。
感謝も驚きも喜びも、全部が一度に押し寄せて喉につっかえたように。貰った髪紐を一瞥して義勇さんをまた見る。これを、義勇さんが、私に。
どうして私にこれを選んでくれたのだろう。どうしてあそこで立ち止まってこれを見つけたんだろう。気になることはたくさんあるけど、そんなことよりも義勇さんからの贈り物がとってもとっても嬉しくて胸の奥がぎゅっとした。
嬉しい。
どうしよう。

「…ありがとう、ございます!…へへ、えへへへ、宝物にします」

「…大袈裟だ」

「ははは、良かったな、名前」

顔が熱い。口許がどうしても緩む。また頬が落ちてしまいそうだ。
先生に結って貰おう。似合うかな。義勇さんが選んだものだから、似合う女の子になりたい。
ガラス珠の反射で遊ぶように髪紐を陽に照らした。きらきらと光って尚更綺麗に見えた。

「ふふふ、嬉しい、とってもとっても嬉しいです!義勇さん!ありがとうございます」

「大したものじゃない」

「嬉しくってどうにかなってしまいそうです!」

居ても立ってもいられなくて義勇さんと炭治郎の前に走り出てしまった。どきどきして、踊り出してしまいそう。全身、喜びで満ちてて落ち着かない。
振り返ったらいつもの義勇さんと、にこにこと私を見つめる炭治郎が居た。
義勇さんたちが私に追い付いたと同時に義勇さんの横にまた並び直し義勇さんの羽織の袖をきゅっと掴んで帰った。

先生になんて報告しようかな。
私また宝物が増えました、先生。
今度これを着けて義勇さんに見て貰おう。
似合うって、言ってくれるかな。可愛いって思ってくれるかな。
ううん、絶対にそう思って貰えるようになろう。
帰ったら先生にいっぱい相談しよう。
女の子って楽しいな。恋って素敵だな。

「義勇さん、大好きです!」

「…そうか」

義勇さんは私の言葉を聞いて安心したように私から顔を反らした。
私はずっと、帰り道義勇さんと髪紐を交互に見ていた。
炭治郎がそれに気づいて声を出して笑っていた。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -