パラレルワールドのハッピーエンドが見たかった
鍵を挿して捻ればガチャンと大きな音がした。焦凍が後ろにいると思うとどんな物音も立てちゃならないような気がして、毎日聞いてるはずなのにその音の大きさに驚いてしまった。だって後ろにプロヒーローが居るんだもん。他の部屋の人に気づかれたらどうしようと本能的にハラハラしてしまった。
「入って」
「……お邪魔します」
暗い玄関の照明をつけようと靴を脱ぎながら手探りでスイッチを探す。バタンと扉が閉まる音がして、焦凍が扉をくぐって部屋に入ったことを知る。壁紙を這わせた指先に、ひんやりと冷たいものがこつりとあたってそれが何かと考えずとも玄関照明のスイッチだとわかる。
「……なあ」
「ん?」
「アイツ、なのか」
ぱちんとスイッチを押し込めば程なくして玄関が明るく照らされる。それと同時に口を開いた焦凍の声は震えていた。
「え……?」
「……お前が言ってた……好きな人って、アイツ、なのか……?」
焦凍の問いかけにそっと振り返る。眉間をぐっと寄せて目を細めて私を見つめる焦凍は、私への問いかけを言い切ると下唇を噛んだ。
どくりと心臓が跳ねてぎゅっと締め付けられる。大方、焦凍からの話は別れたことに関する話だと想像はついていた。別れるにあたって精査しておくものがあったかと言われると焦凍がうちに置いていった私物くらいだったけど、雪の中わざわざ私の帰りを待っていたのだから、それなりに大切なことなのだろうと。
焦凍の問いかけに頭を動かす。そう言えば、そう言ったんだった。彼に何でと聞かれて、咄嗟にそう答えたんだった。
「……ちがうよ。あの人は……仕事相手で、えーと……雄英の、私たちの後輩なんだって。私が今日傘持ってなかったから、送ってもらったの」
「……そう、なのか……」
「うん、とってもいい子だよ。私のファンだったんだって!」
靴を脱いで部屋に上がり、「タオル持ってくるから待ってて」と焦凍に声をかけて部屋の奥へ進む。見られて困るものはないか、散らかってないかをさっと確認しながらタオルを手に急ぎ足で玄関に戻る。一人暮らしの私の部屋に、十代の頃より更に大きくなった焦凍は窮屈そうに見えた。
「はいこれ使っ、ひゃ……!?」
差し出した腕を引かれ、タオルが宙を舞う。気づいた時には大きな腕に身体を抱きすくめられていた。
「しょ、しょうと」
「やっぱり、やっぱり別れたくねえ……っ」
その腕の強さに驚いてしまう。何が起こっているのか状況整理が上手く出来なかった。できるだけ、可能な限りコンマ数ミリの距離すら縮めるように焦凍は私を強く強く抱きしめる。踵が浮いてつま先でどうにか身体を支える。その腕が私をさらに引き寄せるから離れようにも踏ん張ることが出来なかった。
「なあ……っ好きだ、俺はお前じゃなきゃだめなのに、なんで……っ」
うわ言のような言葉が私の耳元で紡がれていく。焦凍の震える声は泣いているようにも聞こえた。
息ができない。あまりにも強く抱きしめられているからか、それとも彼の言葉に、息の仕方を忘れてしまったからなのか。
「……苦しいよ、離して」
「嫌だ。離したくねえ。離したら、どっかに行っちまうかもしれねえ」
「行かないよ、ここ私のお家なんだから」
「嫌だ。絶対、いやだ」
「風邪引いちゃうから、お願い」
子供のように駄々をこねる焦凍の冷たさに驚きながらどうにか身をよじる。焦凍が全身濡れているのが服越しでもよくわかった。一体いつからあそこに居たんだろう。どうして、今更別れたくないだなんて。
焦凍は黙りこくったあと、渋々とゆっくり腕の力を抜いて私を解放した。落ちてしまったタオルを拾って、「暖房つけるから上がって」と言えば私の手を掴んで頷いた。
掴まれた腕を引いて部屋の奥に進む。普段なら気にならない床の軋みも私の緊張を無駄に煽った。
「新しいタオル持ってくるから座ってて」
「いらねえ」
「いーるーの!」
頑なな焦凍の腕をどうにか振り払おうとしたものの、その力には敵わなかった。いつも暖かかったのに、私の腕を掴む焦凍の手は冷たい。手際よく暖房をいれて焦凍をソファーに座らせる。
「……ちゃんと焦凍の話聞くから、とりあえず暖かくしよう?」
「…………、わかった」
するりと私の腕からその手が滑り落ちていく。スイッチをいれた暖房が僅かに機械音をたてながら部屋の気温を高めようと動く。新しいタオルを取りに戻れば、今更焦凍の言葉が頭の中で響いていった。
別れたくないと縋り付くような焦凍の声が反響する。あの時だって、焦凍は悪い所があったなら直すからと言っていた。焦凍は最初から、私が切り出した別れに納得していなかった。
多分、あの時ちゃんとわかってた。焦凍がまだ、ちゃんと私のことを好きでいてくれているって。わかっていたけど、焦凍がヒーローである限り、私がヒーローになれない限り、きっとこの関係に正しい答えは見つからないと思って決意を変えることはしなかった。
焦凍が恋人じゃない日常も、ちゃんと生きてしまえた。それが当たり前の日常になっていた。きっとちゃんと忘れられると思ったのに。
嘘をついたことに対する罰なのか。神様はそう簡単には見逃してくれなかった。
「はい、タオル使って。必要ならドライヤーも使って」
「……悪い」
「そう思うなら今後は気をつけて!」
できるだけ以前のように、昔のように、私と焦凍が友達だった頃のように、心のざわめきや揺らぎを悟られないように。話すことでこれ以上、泥沼に嵌ってしまわないように努めて声をかける。重い雰囲気を纏う焦凍のかわりに気丈に振る舞う。
焦凍が濡れた帽子を脱いでタオルを頭にかける。濡れて色が変わったコートを受け取るために近くにあったハンガーを手に取れば焦凍はまた「悪い」と言った。
「暖かいものいれよっか」
「いい」
「でも身体冷えてるじゃん」
「いいから」
少しずつ部屋の気温が温まってきて、その場しのぎのやり取りを焦凍が遮る。時間稼ぎとばかりに世話を焼く私を焦凍は必要ないと頭を振った。
再び腕を掴まれて私が座らせたソファーへと引きずり込まれる。もう抵抗することはできなくて、大人しく焦凍の隣に座った。焦凍の表情はずっと難しいままだった。
「……写真、全部片付けたのか」
「……え、と……」
「あそこに飾ってくれてた、俺が渡したぬいぐるみも、俺のって置いてくれてたマグカップも、……全部もう、ねえのか」
「あ……」
「……っなあ、なんで、なんで……」
問い詰められた言葉に心臓がバクバクと早鐘を打つ。悪事がバレてしまったような危機感に嫌な汗が噴き出てきた。全部クローゼットの奥にしまいこんだそれらが頭に過ぎっていく。傷ついたように表情を歪めた焦凍の声は、大事なおもちゃを失くした子供みたいだった。
「しょうと、」
「わかってる……っ別れてんだから、お前は何にも悪くねえ、悪くねえけど、でも」
今にも泣き出しそうな焦凍を目の前に込み上げる罪悪感が私を襲う。どんな言葉をかけるべきかわからないけど、とにかく謝らなければと気持ちが焦る。
焦凍の瞳にじんわりと涙が滲んでいくのを初めて見た。それに釘付けになっていたら焦凍は私の肩に頭を預けるように倒れ込んできた。
「俺はまだ、なんにも捨てられねえのに……忘れられねえのに、置いてかないでくれ……っ」
「っ……」
焦凍の髪が私の首筋をくすぐって、焦凍の声が私の鼓膜を震わせる。
誰にこんな言葉を教えてもらったんだと疑ってしまうくらいの殺し文句だった。彼にこんなふうに縋りつかれたら、誰だってきっと心を許してしまうだろう。現に私の気持ちは揺れはじめている。だって好きだから、好きだったから別れを選んでしまったのだから。
ここで折れるのは簡単だった。でもここで折れちゃ何にも解決にはならなくて、結局またあの日々に戻るのだ。焦凍を思うほど雁字搦めになってしまう途方もない自己嫌悪と無い物ねだりの堂々巡りに。彼を理解したい私が、恋故にワガママになってしまう私に嫌悪して、理解のある私で居ればいるほど、この先未来永劫やってこないもしもの話に心を馳せてしまうから、身の丈にあった恋をしようと決めたのだ。
するりと焦凍の手が私の腕を這っていく。それはまるで抱きしめて欲しいと強請っているようだった。
「好きだ、どうしたらいいかわかんねえくらい好きだ、お前が……お前が他の奴のことを好きになったって、俺はお前しか」
「焦凍にはもっと素敵な人が見つかるよ」
「っそんな無責任なこと言うなよ……!」
心を鬼にして発した言葉に焦凍は声を荒らげた。私の腕を這っていた手にぐっと肩を掴まれて身体を揺さぶられる。私の顔を覗くように身体を丸めた焦凍と目が合っても、焦凍が悲しんでいるのか怒っているのかわからなかった。
「お前が好きでこんなに苦しいのに、っそんな言葉で突き放さないでくれ……!」
「でも、だって、だって……」
「そこまで言うならこの気持ちごと殺してくれよ……! 俺には、お前を忘れる方法がわかんねえよ……!」
「……焦凍……」
「……なんとか、してくれよ……」
怒鳴るように私を捲し立てた焦凍は肩を落として泣いていた。ぽたぽたと落ちていく雫は私にもよく見えた。誰よりも素直な彼が怒っている。誰よりも素直な彼が泣いている。取り繕えない彼が零した言葉も涙もきっと、包みこめるものが見つからなかった本心なんだと思う。
なんとかしてくれと私に願うように言った焦凍にぎゅうと胸が締め付けられて痛かった。きっと私はとんでもなく彼を傷つけている。そんなことはわかっていたはずなのに、今更現実として突きつけられているみたいだった。
「……ごめんね」
「……嫌だ」
「ごめん」
「やだって言ってんだろ」
「ごめんね」
「だから……!」
「本当に、ごめんね」
ああダメだ、私まで泣いてしまう。
焦凍の目から零れる涙は止まらない。つられるように私の視界が滲み出す。焦凍の言葉に、涙に感情を揺さぶられてしまう。
謝る言葉しか出てこなかった。嘘をついたことも、傷つけたことも、焦凍の気持ちに応えてしまえないのも、全部謝ることしか出来なかった。
私の謝罪に焦凍は涙を流しながら顔をくしゃくしゃにした。私の言葉を拒否しているのか、信じないと拒絶しているのか、嫌だ嫌だと言葉にならないのか、ふるふると頭を振る焦凍の髪が濡れた頬に張り付く。
「諦めねえ、絶対……なあ、もう一回……もう一回頑張らせてくれ」
「……ありがとう、でも、もうやめておこう?」
「俺がお前のことを好きだから、俺ががんばるだけだ。お前は別に何も」
「もう、もうやめようよ。ね、焦凍……!」
「っ好きで居ることもダメなのか……!?」
「だってそんなの時間の無駄だよ……!」
「無駄なんて思わねえ! もう一回お前に好きだって、好きだって……言って貰うために、諦めなきゃならなくなる前に……! 頑張らせてくれよ……っ」
時折焦凍の嗚咽が混じって鼻をすする音がする。感情のボルテージが焦凍の声の緩急で伝わる。怒っているようにも、悲しんでいるようにも聞こえるそれは、きっと混乱だ。焦凍が私を思って、優先して、譲歩して、必死に糸を手繰ろうとしてくれているのに、私がそれをどうにか千切ろうとするからめちゃくちゃになっているんだ。
わかっているのに突き放してごめんね。たくさん泣かせてごめんね。罪悪感に満ちているのに、私は焦凍の涙を拭ってあげることすら出来なかった。触れたら最後、きっと私もめちゃくちゃになっちゃうと思ったから。
「……俺、お前に何しちまったんだ……? いつの間に、そんなにお前のことを傷つけたんだ……っ」
「……」
「わからなくて、悪い……わからないことも悪いとこだって、ちゃんとわかってる……謝りてえから、教えてくれ……っ」
素直で優しい焦凍のことが好きだった。思い当たる節もないのに、謝りたいから教えてくれだなんて、彼の優しさが痛くて胸がじゅくじゅくと膿んでいく。
何も悪くない焦凍が私のせいでどんどん悪者になっていく。数多の人を助けた焦凍が、皆のヒーローの焦凍が、こんなに優しい焦凍が。
「……焦凍は何にも悪くないんだよ」
「……でも、俺の事を好きじゃなくなった理由があるんだろ……」
「……ないよ、そんなの」
「でも」
「ないんだよ。……だってまだ、焦凍のことが好きだもん」
「……は……?」
罪悪感に取り繕った全ては粉々になった。これ以上は上手に突き放せなかった。私の意思は彼の真っ直ぐな言葉に弱かった。
本当のことを話したって、彼が悪者になってしまうのに。何をどう伝えたって全部彼への不平不満になってしまうと、必死に嘘をついたのに。
いつだって嘘つきは痛い目を見るんだ。そう決まってたんだ。
「……ごめん、傷つけて。でもこんな嘘しかつけなかった」
「嘘、ってなんだよ……お前が、別れたいって」
「うん、別れたかった。自分のために」
「自分の、ため……?」
焦凍の涙は引っ込んでしまったみたいにぴたりと止まっていた。その表情は驚きに満ちていて、見開かれた目からは疑問が窺えた。
「ヒーローになった焦凍に、私はもう釣り合わなくなっちゃったって……気づいちゃった」
「……なんだよ、それ」
「私が一番理解してあげられると思ってた、のに」
話し出せば案外言葉はするりと滑るように出ていく。私の肩を掴んでいた手は私の言葉をきっかけにその力を緩めた。脱力するように緩んだその手は腕を伝って肩を滑り落ちていく。
「ヒーローの忙しさも、大変さも一番わかってあげられると思ってた……焦凍の活躍を一番、一番喜んであげられると思ってた……」
私をじっと見つめる焦凍の目は少し充血していた。その視線が私を突き刺すようで居心地悪くて顔を伏せて目を逸らした。
暖房が機能して暖まった部屋で私の手先だけはまだ悴んでいた。まるで作り物みたいに冷たい指先には力が入らなかった。
「ごめんから始まるメッセージが嫌だった。焦凍なんにも悪いことしてないのに、いつも謝るのは焦凍だった。謝らせるようなことしてる私もやだった」
「……俺は、そんなつもりじゃ」
「わかってる、わかってるけど、私が何かアクションを起こせば焦凍はいつも謝る羽目になってた。っ私を待たせたって、優しい焦凍は絶対謝ってくれたでしょ……!私はっこんなにすごいヒーローに、何を謝らせてるんだろうって……!」
喉の奥がぎゅっと詰まってこめかみがツンと痛くなり、いよいよ視えているもの全ての輪郭がぼやけて歪み出した。ここで泣くのは卑怯だと、こんな話をしながら泣けば焦凍がまた私のせいでもっと悪者になってしまうと、そう思うのにどうにもならずに瞼から涙がこぼれ落ちてしまった。
声が震えて話すことが苦しい。どうして人は泣くと胸が痛くなるんだろう。傷つけたのは私で、傷ついているのは焦凍なのに。どうして私が。
「……私が何をしても、焦凍をっ謝らせてしまうから、何も出来なかった……ッ」
自分の涙声に不快感を覚えるのはこれが初めてじゃない。裏返る声もひくついて途切れる言葉も嫌い。泣いたって何も変わらないのに勝手に涙は溢れるし、涙が頬を伝うとむず痒くて気持ちが悪い。
零れる涙を止めたくて必死に拭った。今ここで泣いていいのは私じゃないのに、涙はそう簡単には止まらなかった。その涙に急かされるように私は言葉を吐いていた。
涙は私の冷静さを欠いていく。これ以上焦凍を傷つけたくないと思うのに、彼のために言葉を選ぶための余裕がどこにも無かった。
「っあ、会いたいも、寂しいも、言えなかった……!」
涙を拭う手は濡れていくばかりで、止まらない涙に為す術がなくなっていく。怖いわけでもなければ、悲しくもないのに、どうして涙は出るんだろう。思ったことをありのまま話すのは、どうして涙が伴うんだろう。私は今、一体何にこんなに涙を零しているんだろう。
嗚咽が混ざり出した私の声は駄々をこねる子供みたいだった。でももう止まらなかった。
「私のわがままは、焦凍への不満になっちゃうから言えなかった……! 焦凍はこんなに、こんなに頑張ってるのに……! 会えないのも、っ連絡取れないのも……っちゃんとわかってたはずなのに……!」
会いたいと言えば会えなくてごめんと言われる。寂しいと言えば寂しい思いをさせてごめんと言われる。言うまでもなく、そう思わせたことに焦凍が謝るなんてわかってた。私が会いたい寂しいと言えば焦凍はきっとどうにかしようとしてくれる。でもそれは忙しい焦凍の負担になる。少しでも休むべきだって思うのに心がついていかなくなっていって、わがままだけは立派に大きく膨らんだ。
「身体は大事にして欲しいって、無理しないで欲しいって思うのに、寂しいのがぜんぜん……っ全然止まんなくて……!」
焦凍の活躍を喜んで、頑張ってる焦凍をただ必死に応援できると思っていたのに。実際の私は焦凍の活躍を見る度に、会いたいなと孤独を感じるばかりになっていって、ヒーローの彼を目にする度に私とは違う世界を生きていると思わされるばかりになっていった。
「……テレビで見る焦凍は……映画の主人公、みたいで……っかっこいいって思うのに! 喜びきれない私が嫌で、っ」
自分で言葉にするほど、どうしてか少しずつ、少しずつ悲しくなっていった。誰も悪くない、私一人で勝手に傷ついて涙を零して悲しんでいる。
焦凍の活躍が誇らしかったのに、遠くにいる彼に対して喜びより寂しさが私を占拠するのが嫌だった。彼を一番近くで賞賛して認めてあげたかったのに、素直にそうできない自分が嫌だった。
「わ、たしが……わたしが……」
ぼろぼろ零れる涙を拭うのはもうやめた。涙が海を作る前に、零れていく涙を受け止めるように両手で顔を覆う。焦凍は何も言わなかった。俯いている私には、彼がどんな顔をしているのかはわからなかった。
ぐるぐるとずっと考えていたことが喉の奥で出番を待っている。誰にも言わなかった言葉が、窮屈だと放たれることを願っている。言っちゃダメだとずっと堪えてきたはずなのに、吐き出してしまいたくて胸のあたりが気持ち悪くなった。
「……わたしが、ヒーローだったら良かったのに……」
無いものを強請るなんて滑稽だ。それでももしそうだったなら違う私がここに居たかもしれないのにって思うから考えることを辞められなかった。もし私が同じヒーローだったなら、もっときっと焦凍のことを理解してあげられたかもしれない。一緒に切磋琢磨して、賞賛しあって、同じだけの忙しさに疲弊して労りあえたかもしれない。寂しいなんて思う暇も無かったかもしれない。自分は焦凍に相応しいと自信を持てたかもしれない。
吐き出したって苦しみから解放されはしなかった。残ったのは罪悪感と嫌悪感、そして確かな虚無感だった。