懐かしさ
[しょうちゃん視点]
山間に残る小さな家並みは、今ではすっかり草に埋もれてしまってる。昔はこんな所に人が住んでたんだよな…どんな暮らしをしてたんだろう?個人的には、キャンプみたいなイメージだけど。
今は都市部に人が集まってて便利だけど、その分パースナルスペースが狭くなって、ストレスではあるんだよな。
辛うじて残っている歩道のあちこちに、こじんまりとした瓦の屋根が並んで見える。どれも古い時代のものだ。まだ機械なんてなかった時代の、とても手作り感のある家。それだけに、当時の人が住んでいた感じがリアルに残っていて、入るのをためらってしまう。
「おじゃましまーす…あれ…?」
黒い門をくぐって中に入ると、家の中は不思議と片付いていて、荒れた感じもない。台所の洗い場に食器が並んでたり、書き物机の上に使いさしの筆が残ってたりした。玄関には昔のサンダルが綺麗に並べられてる。本当に、人が住んでないのがおかしいくらい。
古い洋服ダンスの横には、小さな子供の靴下と、木箱に入った裁縫セットが置いてあった。ちくちくした針山を見ると、子供の頃、「危ないから触っちゃダメ」って母さんに言われたの思い出して、懐かしい気持ちになる。
古いストーブの傍には、手作り感のある木製の手押し車が転がってた。きっとこの家の家族が、子供のために作ってあげたんだろう。僕も子供の頃、父さんに木を削った飛行機とか、クルマとか作ってもらったな…多分その影響で、今もプラモデルが好きなんだ。
「ん…?」
オモチャの傍に、見慣れないものが落ちていた。この時代には似つかわしくない質感、カラカラに乾いたビニールみたいな…気になって顔を近づけると、表面に繊細な網目模様が見えた。これは、爬虫類の皮膚によく見られるものだ…
「え?これ、ヘビの抜け殻じゃない…?怖…」
この近くにヘビがいるかもしれない。急に恐ろしくなって、家の中にぺこりと一礼すると、裏手からそそくさと退出した…
家の裏手には、草に覆われた畑の跡があって、すぐそこに、何となく人の気配を感じる。まさかと思いながら恐る恐る視線を向けると、がっつり人の形が見えて、終わったと思った。でも、よく見ると体に縫い目がある。さっきトラックの荷台で見た、麻袋に似た質感の肌…そっか、これはカカシだ。助かった…
でも、何となく変な感じがした。鳥避けのためのカカシにしては、妙に丁寧に細部まで作り込まれていて、取れかかった黒いボタンの目が、じっとこっちを見つめている。カカシっていうより、大事に作られた人形みたいだ。まさか、中に本物が入ってたり…しないよね?
カカシの傍には、畑を耕すためのフォークが地面に刺さったままになっていて、それが更に不気味だった。今にもカカシがフォークを取り上げて、畑仕事を始めるんじゃないか…そんな想像をしてしまう。
とりあえずカカシの視界に入らないように、そっと裏道を通り抜ける。畑の奥にある、小さな蔵の扉が目に留まった。前に立つと、思ったよりも大きい。昔はどこの家にも蔵があったって聞くけど…扉はなぜか開いていて、床には誰かが墨をこぼしたような、黒い跡が見える。あまり詮索するのは良くないと思いつつも、どうしても気になって、中に入ってみた。
その瞬間、何だか懐かしい感じがした。そんなはずはないのに、前に一度来たことがあるような…床の黒い跡は蔵の奥へと続いていて、薄暗い中でも、なぜかくっきりと黒く浮かび上がって見えている。辿って行った先に、古い木の看板が立て掛けてあった。綺麗な質感の木で、縁には草花の装飾も彫り込まれている。とても立派なものだ。字はだいぶ薄くなっていたけど、辛うじて読めた。
「トムラヒ屋、クロダ…」
その名前に、なぜか見覚えがあった。
(続く)
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