ミステリーツアー 序章
賑やかな午後の街中に、高速道路を走る一台の車。中には四人の仲間たち。でも、この中で目的地を知ってるのは、運転手の爽やかな彼だけ。今日はミステリーツアーと題して、リョウさんがこっそり選んだ場所へ探検に向かう。カーナビも覗き見禁止で、ただいま秘密のマップを横断中だ。
…とはいえ、実際に窓から見える景色といえば、どこまでも続くガードレール、時々すれ違う対向車、なぜか歩道を行儀よく並んで歩いてる牛…(まあ北国だからなぁ)そろそろ助手席のショウちゃんのあくびが出る頃、小さなパーキングエリアにたどり着いた。
「いやー疲れた疲れた。ちょっとアイスでも食ってくかぁ」
「リョウちゃんおつかれー。この辺森が多いけど、このままもっと奥まで行くの?ちゃんと夜までに帰れるだろうね…?」
「はは、タカ兄は心配性だなぁ。遅くなるなんていつものことじゃん、大丈夫だよ」
「近くにキャンプ場とかあるかな?遅くなりそうなら、帰りに泊まってくかい?ちょっと暑そうだけど、いざとなったら車があるし」
「そうだねー、蚊取り線香の予備まだあったかな?」
旅のお供といえば、パーキングエリアの三色アイスが定番だ。鳥のさえずりが聞こえるテラス席で、何気ないいつもの会話を楽しむ仲良し四人組。すると、先にチョコアイスを食べ終わったリョウさんが、何かいたずらを思いついたようにニヤッと笑って言った。
「そうだ、ちょっとヒヤっとする話しようか?この国って、大昔は土葬だったじゃん。その頃はね、"不幸なしに方をした人が、土の中で目を覚まして外に這い出てきて、生きてる人を一緒にあの世へ引きずり込もうとする"って信じられてたって。実際、葬式の翌日に、同じ村の誰かが土に顔が埋まった状態で死んでたりとかがあって。だから、お葬式の時は、故人が絶対に動き出さないように布でしっかり巻いたり、手足を縛ったりしてたんだって。それでも、具合悪くなる人が出たりして」
「えっ…!それ、マジの話?この国であったの?」
とんでもない話に、一瞬で空気が凍り付く。リョウさんは涼しい顔して笑ってるから、それが余計に怖い。口元に付いたチョコアイスが、ちょっと血みたいに見えるし…
「襲われるのは、故人に見た目が似てる人って言われてて。だから皆、知らない人のお葬式でも出かけて行って、その人が自分と似てないか確かめたらしいよ。その頃から、"鏡"が流行りだしたんだって」
ここで、察しのいい年下のヒロトがさっと手を上げて発言する。
「待って!まさか、今でもお葬式の時に遺影を大きく飾ったり、遺影のそばに"姿見"を置いとくのって…その名残り?」
「フフ、勘のいい子は嫌いだよ。ちなみに、教えてくれたのは単なる歴史マニアの友達だから、本当かどうかは分かんないけど。ほんっとに大昔の話だし。それでも、聞いた時は結構ヒヤッとしたね」
「いやいや、ヒヤッどころじゃないし…南極だよもー」
「昔話にしても、エグすぎる…よくこんな話知ってるね?」
「ハハ、なんか怖い話の方から寄ってくんだよねー」
ビビりまくる三人を前に、リョウさんは朗らかに笑った。
パーキングエリアを出発し、高速道路を更に進んだ一行は、とある森の入り口に到着。確かにキャンプには丁度良さそうだが、何となく薄暗い雰囲気だし、やっぱり夜になると怖そうだ。道が狭いので、ここからは車を降りて歩いていくことになる。しっかりとロックをかけ、車から離れてしばらくすると、自然児のショウちゃんは呑気に石蹴りをはじめた。
「大昔は、遺体が森に捨てられることも多かったって聞くよね。特に、こんなよく生い茂った森には…」
「や、やめてよ…進めなくなるじゃん」
リョウさんが笑いながら脅かすと、カメラマンのくせにビビりなタカシが分かりやすく尻込みする。
「何で木が沢山あるかっていうと、実は土が栄養たっぷりで、そこに昔の人が沢山埋まってるからって話もあるよね」
「えっ、今誰か通らなかった?背の高い、人みたいな…!」
タカシが目を見開いて、おしゃべりを遮った。どうやらその奇妙な姿はタカシにしか見えていないらしい…カメラにも映ってないようだ。
「タカシって霊感あるじゃん?これから行く場所と関係してるかもよ。待ちきれなくて、迎えに来たのかも」
「勘弁してよぉ」
リョウさんは怖いムードを出すのが抜群に上手い。タカシはすっかりビビってしまい、リョウさんの背中にぴったりくっついて歩き出した。
「あ、見えた。あの橋の向こうだよ」
森に入ってしばらくすると、川の音が聞こえてきて、リョウさんの指差す先に立派な朱塗りの橋が見えた。いかにもこの先に何かありそうって雰囲気だ。
その手前に、すらっとした神様の像が立っていた。黒い蝶のような帽子を頭にかぶって、目は薄らと開いていて、何だか意味ありげな姿だ。像の前まで来ると、ヒロトが黙って手を合わせるので、皆も何となくつられてお祈りしておいた。
顔を上げると、ヒロトが話しだした。
「これ、話したことあったっけ?子供の頃、俺バイクで誘拐されそうになって。全速力で逃げてたら、橋の手前でゴロンッてコケたんだよ。もうダメだと思ったら、橋の向こうから別のバイクがガーってきて、誘拐犯とぶつかったの。もう、すんごい音がしてさ。立ち上がって逃げる時にふと横見たら、すぐそこに、こんな神様の像があったんだよ。俺、思いっきり転んだはずなのに、ケガもしてなかったんだ。守ってくれたのかな?って。だから、今でもこういう像を見たら、手を合わせてあの時のお礼してる」
「マジかよ…それは聞いたことなかった。捕まってたらヤバかったな」
「ヒロトっていつも危なっかしいから、神様も心配してるんじゃない?ないとは思うけど、この橋の手すりに飛び乗ったりしないでよ?」
「分かってるよ!ちょっと乗りたいとは思ったけど」
ヒロトと肩を叩き合って冗談を飛ばしながら、先頭で橋を渡り始めるリョウさん。橋の両側には、すぐ近くまで木が生い茂っていて、まるで緑のトンネルみたいだ。一列に並んで、橋を渡りながら見上げると、向こうも僕らを見下ろしている気がした。多分目の錯覚だとは思うが、連なった葉が人の顔に見えて、タカシは身震いした。そのすぐ手前で、石蹴りに失敗したショウちゃんがあっと小さく声を上げた。コントロールを誤った小石は、そのまま音もなく川に向かってダイブしていった。
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