「PC版サイト」にチェックを入れて閲覧推奨


☆SANATSUMA☆なミステリーの世界 | ナノ

「名前のない町」


レーシングカーよろしく、派手なブレーキ音を響かせて急停車する。ぶつかった感触はなかった。すぐさまメンバー全員の無事を確認し、ほっとしたのも束の間。あっくんは運転席で真っ青な顔をしている。

「どうしよう…ま、まさか、ひいた?」
「いや、でも衝撃なんてなかった…ですよね?」
「うん、大丈夫だよほら、フロントガラスも無事だし、ボンネットも凹んでない」
「じゃあ、さっきの…人?は?どこ行ったの?」
「まさか、幽霊…?いや、そんなわけない、か…」
「…一回、降りて確かめましょうか」

意を決して全員で車を降り、さっきの影の主を探すが、人どころか鳥一羽いる様子はなく、霧はますます深くなっていく。このままでは、近くにいてもはぐれてしまいそうだ。慌ててライトを点け、車体のシルエットを頼りに車に戻ろうとした時、全員が違和感に気づいた。車がやけに色褪せて見える。気のせいかとも思ったが、明らかにさっきまでと様子が違う。まるで、車を降りていた数分の間に何年も経過したかのように、車体が古ぼけてしまっていたのだ。

「え…なになに、待って、待って、え、これって俺の勘違い?誰か気のせいって言って?」
「いや、気のせい…じゃないと思います。めっちゃ汚くなってる」
「大丈夫、任せてください。俺がちゃちゃっと掃除するんで」
「いや、掃除で解決する問題!?」

先輩たちのツッコミも右から左。最年少にして、誰よりも肝の据わったてっちゃんが冷静に車体の背後に回って、トランクを開ける。中には車体を綺麗にするための備品が揃っているのだが、その中に、明らかに違和感のある「黒いもの」を見つけた。デカい虫かと思って一瞬身構えたが、よく見ると薄っぺらい。

「びっ…くりした、虫かと思った…何だこれ?」
「え、なに、何か怪しいものあった?」
「怪しいっていうか…気味は悪いですね…」
「もう今の状況で気味悪くないものがないけどね、まず」

リョウさんが青い顔でもっともな事を言う。ダイキがカメラ片手に観察すると、「黒いもの」の質感はしわしわで、古い紙みたいだった。なにか文字のような、顔のような、意味ありげな彫り込みも見える。単なるゴミとか、カケラには見えない。これ自体が何かの意図を持って作られたのか、何かの部品だったのか…とにかく、見ただけで触るのをためらってしまうような造形だ。
しかし、ここでてっちゃんが、またしてもとんでもないことを言い出す。

「これ、一応持っときますか」
「は?まず触るのがアウト…っておいおい!」
「いや、一応で持っとくようなもんじゃないよ!捨てときなって、その辺に!」
「でも、トランクの中にあったんで…捨てたら余計呪われそうじゃないすか。だったらいっそのこと、肌見放さず持っとけば…」
「お守りじゃないんだから…確かにそれっぽくも見えるけどさ。むしろ呪物系じゃないの?」

何となく気味が悪くて、車の外で話し合いを始めた。てっちゃんが「お守り」を手に持ってるのが気になるけど…改めて、リョウさんがさっき口走った「夢で見たやつ」の正体について聞いてみた。
リョウさんが見たもの…それは、壁一面に描かれた巨大な絵だった。イメージは絵画というより、凸凹の岩肌に描かれた壁画みたいで、とても古くて、それだけに呪われた感じが否めない。しかも、部屋全体が焼け焦げたように黒く、ほとんど光がないその中でも、なぜか浮き上がるようにその絵だけが見え、そこにはおびただしい数の手や目…に思えてしまう「すごく嫌な感じのマーク」が至る所に見える…らしい。

「それが、今朝見た夢。で、その絵がさっき、窓ガラス一面に映って見えたんだよ…死ぬかと思った」
「いや、それは死にますわ…てか、普通にヤバい夢っすよね?心配になるわ」
「まさかとは思うけど…今行こうとしてる場所に関係してる?」
「さもありなんですよ。だってこのタイミングでそんな絵が見えて、車が急ブレーキ…」

皆で、ヘッドライトに浮かび上がった人影を思い出してぞっとする。幻覚とは思えないほど、全員にはっきりと見えていた。

「どうしよう…とりあえず、引き返す?この車動けばいいけど…」
「動かなかったらもう、置いてきましょう。背に腹は代えられないっすよ」

この林道に入る前の広い道まで戻ることを目標に、全員で勇気を振り絞って車に乗り込んだ。幸い、中はそこまで傷んではいない。
エンジンがかかればいいが…あっくんが祈りながらキーを回すと、何も操作しないのにひとりでに車が進みだした。進行方向そのままだから、帰り道とは逆方向だ。焦ってブレーキを踏んでも止まらず、それどころかハンドル操作もできない。思いきってアクセルを踏んでみても全く加速せず、ただ不気味なほどにゆっくりと、古ぼけた車体は青白い霧の中に向かって進んでいく…

「あっくん、冗談でしょ?冗談でやってんでしょ?ねえ?」
「違う、ちげーよ!マジで勝手に動いてんだよ!」

あっくんがガチで泣きそうなので、いよいよ車内はパニックになる。こんな現象エグすぎる!窓の外は霧で何も見えないし、車のドアも開かない。もしこのまま崖にでも向かったら、それこそ一巻の終わりだ!

「やだよ、俺まだ死にたくない…」
「シッ!外、誰かいる…!」

ダイキが車外の気配に気づく。姿は見えないが、車のすぐ側、青白い霧の中に誰かがいる。それも一人じゃない。ぐるっと取り囲まれてる。

「もしかして…車、押されてる?」
「まさか、ガチの誘拐…とかないよね?」
「いったいどこへ連れてく気なんだよ、チクショー…!」
「もうこの際、死ななきゃ何でもいいっすよ…」

黒い「お守り」を握りしめたてっちゃんが、祈るように呟く。その思いが通じたのか、車は崖から落ちることはなく、少しずつ、カーナビが設定した目的地に向かって進んでいった。
やがて霧の向こうに、小さな町が見えてきた。カーナビに町名は表示されていないが、人の住んでいる気配がある。住宅はまばらだ。向こうには畑が広がっている。相変わらず霧がかっていて、全体はよく見えないけど、建物と自然が調和したような、山間(やまあい)の小さな町だった。
確か、廃ホテル「怨霊館」も、こんな山間部にあったはずだ。となると、場所は間違ってないんだろうか…?

名もなき町の入口に着くと、車は自然に停まり、それきり動かなくなった。カーナビを見ても、ここが終点らしい。
意を決して外に出てみるが、車の周りには誰もいない。足跡らしきものもない。それどころか、確かに後ろから押されていたはずの車体にも、手形一つ残っていなかった。

「…何だったんだ、今の?」
「絶対、押されてたよね…?映像で伝わるかは分かんないけど…あっくん、車は動きそう?」
「いや、ダメだ。全然動かない…魂抜けちゃった感じだよ」
「車の修理工場…とかは近くにはなさそうだよな。じゃあ、とりあえず歩くしかないか…」
「そうですね。この町を探索して、可能なら聞き込みもしてみましょう。位置的には廃ホテルの近くだし、あの場所についても、何か分かるかも」

期待と不安に胸を膨らませつつ、僕らは探索の一歩を踏み出した。

 *

舗装された道を歩いて、人の姿を探すが、道には工事中の通行止めが多く、なぜか誰にも出会わない。確かに人の気配はするのだが…姿はどこにも見えないのだ。

「この町…何かおかしくないっすか…?」
「だよね…やっぱりそうだよね?」
「えっ、リョウさんも思います?」
「うん、気のせいかと思ったんだけど…ここ、電話がずっと圏外なんだよ。近くに電線はあるのに。そんなことある?」
「はっ…?ほんとだ!まじで圏外じゃん!」
「偶然…ではないっすよね…?」

リョウさんの言葉に、皆でスマホを確認して青くなる。

「あ!じゃあ、あそこの電話は…?」

ふと、近くの電話ボックスが目に留まる。ちゃんと灯りも点いていて使えそうだ。物は試しで、リョウさんを先頭に中に入り、黒い色の受話器を取ってみる。と、まだ何もしていないのに、勝手に音声が流れた。恐る恐る耳を近づけてみると、こんな言葉が聞こえた。

『この区域は現在、工事中です…来訪者の方々には、ご不便をおかけいたします…』

「わっ、何!何だよ!?誰か喋ってる!ごめんなさい!」
「えっ、どうしました!?何か聞こえたんすか?」

怖すぎてとりあえず謝ってしまうのはリョウさんのクセだ。他のメンバーも一緒に耳を近づけて聞いてみると、どうやらこの地域一帯についてのガイダンスらしい。とりあえず呪いの言葉とかではなくて、ちょっと安心した…。
「安全性の確認について」が知りたくて「1」を押してみると、工事の影響で交通機関はおおむね利用できず、足元が悪い場所も多々あるらしい。でも、「クロノイシ」の力があれば、安全に通れるとか…?

「クロノイシ?って何だ…?」
「黒は多分…色の黒?だよね…」
「イントネーション的には、石、よりも、医者の"医師"?」
「あとは、思いの"意思"とか…」
「うーん…」

と、皆で考えているうちに、ガイダンスは切れてしまったのか、もうボタンを押しても反応がない。

「今の、何だったんだろう…」
「もしかして、裏世界 みたいな場所と繋がった、とか?」
「ある意味、貴重な体験っすけど…」

どこか他の場所にも繋がらないかと電話帳を探してみると、代わりにメモが見つかった。誰かの書き置きみたいだ。どこかで見たことあるような字で、サナツ Tel 321-909-909 と書いてある。

「これ…救急の番号とかかな?」
「見た感じ、この辺りの番号ではなさそうですけど…とりあえず、かけてみます」

ここでも勇敢なてっちゃんが率先して、メモを見ながら番号を押してみる…と、てっちゃんが親指を立てる。繋がった!

「…ど、どう…?どんな感じ?」
「はい、"しばらくお待ち下さい"って…」
「そっか…じゃあ待とう…」

皆で息を潜めて、しばらく待っていると、電話ボックスの外の道を、ふっと誰かが横切った気がした。霧でよく見えないけど、一人ではなく、数人の気配が、この先の町の中へと入っていったみたいだ。

「ど、どうしよう…追いかけます?」
「え、電話は?まだ反応ない?」
「はい、うんともすんとも…やっぱ工事中だからっすかね?正直、このまま待ってても…」
「そうだね、とりあえず番号は控えたから、また戻ってきてかけよう!」
「了解っす!」
「今は人に会いたいしね…」
「ほんとに人、だといいっすけどね…」





← 16/17 →
|index|


"@A9_Memories" is Link Free




|Play again?|
(*´┏_┓`*)


×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -