第二部「町を探検」
ひとまず人が集まりそうな場所を探して歩いていると、どこからかキイキイと何かの軋む音…そこは町の広場だった。自然の地形をそのまま使った、シンプルな空間。中央に、少し大きい東屋が一つだけ建ってるけど、やっぱり中に人はいない。
謎の音はまだキイキイと鳴ってる。音の出どころを探して進んでいく。
低木にぐるりと囲まれたエリアには、子供の遊具が並んでる。懐かしいブランコに、シーソーが二台、足跡のついた砂場…さっきまで、遊んでたみたいな感じ。
そして、シーソーの横には、ひっくり返ったままの赤い三輪車が一台。その前輪だけが、キイキイと音を立てて回っていた。
「わ、この音か…子どもの三輪車…」
「てか、何で回ってんだよ、風もないのに…」
皆がビビって近づかない中、ダイキは恐る恐るカメラを構えて近づいた。
「うわっ!これ、またある…!」
その瞬間、サドルの上に黒いものが乗ってるのを見て後退った。何となく、さっき車の中にあった「お守り」っぽい何かに似てる。
ダイキは勇気を出してそれを摘んで、手のひらに乗せてみた。やっぱり、何か文字が書いてあるように見える。じっと見ていると、何だか不思議な気持ちになってくる…
「どう…どんな感じ?あんまり顔近づけんなよ?」
リョウさんが心配そうに横から覗き込むと、ダイキは思いのほか穏やかな顔で振り向いた。
「意外と…大丈夫かもしれないっす」
「…マジで言ってる?」
そうして、全員が「黒い」イメージを頭に思い浮かべていたせいか…僕らはそれを見つけた。広場の片隅に、小さな黒十字のモニュメント。その周りには、見たこともない奇妙な花が生えていた。まるで、地面から生えた手みたいな姿。色は緑に、赤い斑点、茎と葉っぱは黒い。花の真ん中には虫の顔みたいな模様がある…灰色がかった町の中で、この花だけが鮮やかな色をしていた。
「おわっ、何だこれ!」
「か、顔あるじゃんこの花!絶対呪われてるって!」
「しかも十字架って…これ、絶対映さないほうがいいよ。誰かのお墓かもしれないし」
「でも、こんな広場みたいな場所にぽつんと…墓なんてある?」
「ていうか、この十字架…"これ"が集まってできてません?」
てっちゃんが、手の中の黒い「お守り」を見せると、皆固まった。確かに、よく見たらそのまんまだ。やけに意味ありげな形をしてたのは、こうして組み合わせるためだったのか…。
「これ…ここに置いときましょうか?十字架の一部かもしれないし…」
「そ、そうだね…ここなら呪われたりしないっしょ…」
何となく、背後に視線を感じながら、お守りを「返却」して広場を後にした。
しばらく小道を進むと、行く手に大きな商店の看板が見えてきた。見たところ、この辺りでは一番大きな建物だ。
「すいませーん」
思いきって声をかけてみても、返事はない。中を覗くと、店内に人影もない。代わりに、誰かの靴跡が床の上に点々と付いて、店の奥まで続いてる。靴のサイズが小さいから、きっと子供のものだろう。泥んこ遊びでもしたのか、妙に黒くはっきりした靴跡だ。朝のうちに雨でも降ったんだろうか?
「入ってみる…?」
「う、ん…えっ?!」
アハ、と子供の笑ったような気配を感じ、皆で後ろを振り返ると、道の真ん中に赤い三輪車が置いてあった。あの広場に倒れていた三輪車だ。いや違う、ただ色と形が似てるだけだ、さっきからそこに置いてあったのに気づかなかっただけだ…!
凍り付くような恐怖に足を震わせながら、逃げるように店の中へと踏み込んだ。
*
中は見た目より広くて、古いアーケードゲームや、ジュースの自販機も置いてある。都会ではめったに見ない、自分でレバーを回すタイプの販売機だ。レジにはお客が代金を入れるための箱が置いてあった。誰かが買い物をしたのか、中にはお札と硬貨が少し入ってる。
「見た感じ、治安は良さそうっすね」
「そうだね…ちょっと安心したわ」
「安心したら、ちょっと喉渇いたなー。自販機あるけど、何か飲んでく?」
リョウさんが気前よく財布を出すと、あっくんは今日も真っ先に手を上げた。
「じゃ俺レモンソーダ!」
「あっくんレモン好きねー。えーと100円…ちゃんと動くか?これ」
リョウさんが笑いながらコインを入れてレバーを回すと、古い機械はちゃんと動いて、取り出し口にジュース缶が落ちてきた。はい、とリョウさんが拾って渡そうとすると、缶の中でガシャン、と硬い音がした。思わず手が止まった。
「ちょっと待って。なにこの音?」
中にジュースが入ってるとは思えない音だった。耳を澄ませてもう一度缶を振ってみると、確かな重みと共に、ジャラジャラと中で何かがぶつかる音がする。
「え?もう恐怖でしかないんだけど。なにこれ?何が入ってんの?石?」
「ど、どうしよう…とりあえず、開ける?」
「あ、開けてみよ…っか」
「ほら、あっくん開けてみ?」
「お、俺っすかあー!?」
リョウさんからポイされて、あっくんが罰ゲーム当たったみたいな顔をする。開けた瞬間、中から虫が飛び出して…!なんてことはなく、とりあえず一安心。次は下に向けて振ってみると、ジャラジャラの音の正体が黒い鎖だと分かった。細長い、ネックレスみたいな形。しかも、振れば振るほど出るわ出るわ…ここにいる全員で電車ごっこできそうな長さまで出続けてる。
「いやいや…おかしいって、この長さは。もう止まらないとダメだって!」
「いや、どうやってもこんな中に入り切らないでしょ…あっ!」
そして、ついに終わりが来た。長ーい鎖の先に付いていたのは、古い鍵だった。
持ち手に黒い十字架の付いた、柄の長い、鉄製の鍵。
「この十字架…さっき広場で見たやつに似てるっすね」
「これきっと、倉庫とかに使うやつだよ。もしかしたら、あそこの…」
あっくんが指さす先には、南京錠のかかった重そうな扉。よく見ると、子供の足跡がその前まで続いてる。南京錠には黒い十字架のマーク。さっき出てきた鍵と同じだ…。
「一応、お金払ったし…いいか」
あっくんが、ダメ元で鍵を差し込んで回してみるが、やっぱり開かない。途中でリョウさんが代わってみると…
「あれ…?あ、開いた!開いたかもしんない!」
「マジすか!」
(つづく!)
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