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Mistery_of_SANATSUMA.mov | ナノ

SANATSUMA -神秘の土地に眠る歴史-


--Sanatsumagou as Liminal Field

黒い森を抱くこの地域一帯はサナツマゴウ(早苗津間郷)と呼ばれ、原住民の言葉で「湖の底」という意味を持つ。サナ、サナツマ、マゴ等、様々な略称・愛称がある。その名の通り、かつては巨大な湖であり、多様な海洋生物が暮らす楽園のような場所だった。
千年ほど続いた古代の高温期においては、環境の変化から生物を守る巨大なシェルターとなったが、その過程で熱により水位が下がった。その後、地盤の変動によって水脈が枝分かれし、主に地下を通じて世界各地に広がっていき、無数の河川と合流し、徐々に湖としての体積は減っていった。
現在でも「広大な湖」として知られ、水深は300メートルもあるといわれる。湖の周辺には、独自の生態系を持つ木が自生することでも知られ、湖が巨大であった頃から、水中に生えていた可能性があるという。
湖の姿は神秘的で、それ自体が巨大な一つの生き物のようである。龍に似ているという人もいる。深い黒を内包する青色の水は、朝は鏡のように美しく輝き、夜には月の光も跳ね返さぬ漆黒の器となる。その佇まいは人々を魅了し、古くから祈りの対象として神聖視されてきた歴史がある。
文明化が進んだ近代では、一度は訪れたい観光スポットとしても名が挙がるが、神聖な場所であるため、岸辺での宴会や、至近距離での写真撮影は禁止されている。
湖の周囲に生える古い木々をよく観察すると、古の人々が刻んだと思しき模様や、儀式の際に使われた文字の跡が見つかることがある。これらの木も国の文化遺産であり、触れることは原則禁止である。小さな子供が無邪気に近づくと、なぜか木に妙に懐いたり、逆に何かに怯えたように激しく泣き出すことがあるという。
また、この地にはかつて奇妙な伝統があり、真夜中の湖で古の言語を使った儀式を行い、聖職者を「神界への使者」として湖に沈めていたというが…今となっては、伝説の域を出ない。
この仄暗い説話と関連するかは不明だが、観光庁指定のルールを破り、湖のすぐそばで火を起こしてキャンプを楽しんでいた数人の若者グループのうち、男女二人が行方不明になり、翌年に「真新しい水死体」となって発見されるという恐ろしい事件も過去に起きている。
単なるパワースポットとしての美しいイメージだけでは語れない、ミステリアスな場所である。


--History of Sanatsuma

サナツマゴウの黒い森には、「クモ族」と呼ばれる褐色の民が住んでいた。人々は大地の恵みを司る「黒の神」を崇拝し、小規模な独自の規律を守り、外界との接触を避けて暮らしていた。そこへ当時最先端の文明を持つ「白の民」の一団が、住みよい土地を求めて、険しい海と山々を越境してきた。
後から来たその人々は、色が白く、細身で小柄な体、小さい者は褐色の民より一回りほども小さかったが、彼らの組織力と生産力、そして忍耐強さは強力なものだった。

果たして、異郷の地に足を踏み入れた白き民の支族長・ラモ司教は、慣例に従い、現地民の"長"との面会を求めた。しかし、この褐色の民の中に階級制度は存在せず、「我々と対話したくば、我らを統べる神に謁見せよ」とのことだった。友好的とは言い難い態度だったが、白の民はひとまずこれを受け入れた。
ラモ司教は、幼い頃から強い霊視力の持ち主であり、現地民の信仰する巨大な黒木を一目見るなり「これは木の姿を借りた、紛れもない神である。しかし、我々の信仰する神とはまるで違う。見るも恐ろしい姿をしており、荒々しく、凶暴な波動をまとっている。これは"魔神"なるものである」と大いに恐れた。
白の民はすぐさま結束し、異郷の神との"対話の印"として、白き神の力が宿る白木を用いた"九十九の松明"で大木を照らし、荒ぶる神の鎮静を試みた…しかしこの行為は、白の民の出身地である極寒の地でこそ、冷たい穢れを祓う効果を発揮したが、もとより気候が温暖なこの森においては、むしろ要らぬ邪気を寄せ付けてしまい、神をより怒らせてしまった。当然のように、原地民からも猛烈な怒りと反発を買い、暴動から火事も起き、儀式は無残にも失敗に終わった。

異郷の民の怒りに触れ、恐怖した白き人々は、これ以上の衝突を避けるべく、一旦は森の外へと退避した。それでも彼らは、ようやく辿り着いた異郷の地での神との対話を諦めず、今度はより日数をかけた大規模な計画を立てた。
彼らはまず、白色に輝く大きな石を探し出し、それらを九つに斬り分け、丈夫な盾のようにした。次に、表面を鏡のように美しく磨き上げ、白の民の結束の証である「白の紋章」をそこに刻み、巨木の周囲を取り囲んだのだ。それはある種の「封印の儀式」だった。これによって、黒の神の放つ荒々しい"魔の波動"は確かに抑えられ、白の民はその周囲に、新たな祈りの場を建設することを考えた。つまり、景観を美しく整え、より居心地の良い場所にしようと努めた。現地民からは不満の声も聞かれたが、概ね建設には協力的で、双方の対話の場となった。研究熱心な白の民は、異郷の民の使う言葉に強い関心を示し、自らの文化にも取り入れようとした。果たして、双方の言葉が混ざった新たな言語が生まれていった。
この新しい祈りの場には、現地の森の木を用いた儀式的な装飾がされ、褐色の民が祈る際に使う様々な楽器が、供物のように並べ置かれた。
ラモ司教は、「これはあくまでも"神との対話の場の建設"であり、民族の覇権を分けるものではない」と神の前で誓いを立てた。



白き神は厳しい極寒の地で生まれ、若き日は白く巨大なワニのような姿で、冷たい湖の底に一人で棲んでいた。寒さに凍える人々が、白木の松明で水面を照らし、祈りを捧げると、湖の底から姿を表し、自身を尊ぶ者達に知恵を授けた。彼らは白き神の庇護の下に繁栄し、協力して美しい街を作った。やがて信徒達は結束し、自らを「白き民」と名乗った。
白き民の長に選ばれた若者は、容姿端麗で博識であったが、「白の神に選ばれし我らこそが至高の存在であり、その他のものは皆愚かで、黙って我らに従うべきで存在ある」と断じ、非常に強い支配力を行使した。日ごとに力を増す彼のカリスマ性により、彼らの街はやがて氷の帝国となり、大きく繁栄していった。
…しかし、同郷の中には、ラモ司教の一団のように、彼の掲げる厳しい教義に従えない者もいた。何よりも、白の神がそれを望まなかったからである。
白の神は母を知らず、常に母の面影を求めていた。ある吹雪の夜、子供を亡くした若い母親が、氷った湖の上にひざまずいて祈りを捧げ、やがて一塊の氷の結晶となった。白き神はその姿をたいそう愛おしみ、彼女の魂を自身の中に住まわせてやると、神は人間の姿を得た…この出来事は、神にとっても思いがけないことだった。
今日に知られる白の神は、面立ちが大変美しく、それでいて、男とも女ともつかない。一説には、「両性を司る存在」ともいわれる。白き神は、頭部だけが象徴的に描かれることもあり、信者達は、神の美しい顔だけを夢に記憶することも多かった。



新たな祈りの場の建設によって、二つの民族の間には、ようやく一定の秩序と平穏がもたらされたように見えた。
しかし、問題は全く別の領域で起きた。元来、極寒の地で寒さに耐えてきた白き民の体は、湿度が高く温暖なこの森の気候に適応できず、次々と気候病を発症したのである。
それは現代でいう、熱中症に近い"排熱異常"の症状だった。彼らが生きるために獲得した、"少しでも多くの熱を溜め込もうとする"性質が、一転して彼らをひどく苦しめることとなった。彼らが初めて黒き神と対峙した時、世にも恐ろしい姿に見えたのは、実はこうした切実な事情も関係していた。
しかし悲しいかな、当の彼らにそんな科学的な事実が分かるはずもなく、故郷の地では起きなかった説明のつかない熱の症状を、"これは異郷の神の魔力だ"と恐れる声が次第に大きくなっていく。特に知識の豊富な年長者の間で衝突が起き、地域一帯が不穏な空気に包まれていった。
そんなある時、白き民の識者の一人は、黒の巨木の根の中に、物々しい表情をした褐色の民の一団が消えていくのを見た。ただならぬ気配を感じた識者は、彼らの後を追いかけると、木の根の間に隠された入口を見つけ、そっと忍び込んだ。そして、悲鳴を上げそうになった。
そこには禍々しいオーラを放つ巨大な黒色の顔があり、恐らく木の根が人の顔のように変形したものを、そのまま祭壇として祀ってあるようだった。その祭壇を中心に十数人ほどが集まれる広間のような空間があった。太い木の根に守られ、白の紋章の光が届かぬこの場所には、見るも奇怪な装飾が一面に施され、それぞれに不気味な表情でこちらを睨む仮面が、20も30も壁に掲げられている。そこで褐色の民は奇妙な道具を用いて、解読不能な言葉を唱え、呪術的な儀式を行っているように見えた。
これは邪悪な呪いの儀式である」と識者は直感し、命からがらこの場から逃げ出すと、直ちにラモ司教にこのことを伝えた。

褐色の民が我々を裏切り、隠された祭壇にて、密かに呪いの儀を行っておりました!

顔面蒼白の識者から、信じがたい報告を受けたラモ司教は、自身も病みがちの身であったが、同じく病める民達のために気力を奮い起こし、民族の威信をかけた抵抗を試みた。まだ動ける者たちで小隊を組み、松明を持って儀式の間に奇襲をかけたのだ。
かくして争いは起こるべくして起こり、森はかつてない大混乱に陥った。危機を察知した褐色の民の女たちが、身を投げ出して祭壇への侵入を防ぎ、辛うじて儀式の間は守られたが、女たちの傷ついた姿を見て、黒き神はかつてないほどに怒り、大木から凄まじい熱波を発して、ごく一部の女・子供を除いた白き民のほとんどを、森の外へと追いやってしまった。そして、二度と森に立ち入ることを許さなかった。
実はこの時、儀式の間では、まさに「異郷の民たちの病を癒やすための呪文」が熱心に唱えられていたのだった。皮肉にもその呪文が功を奏し、白き民に「儀式の間を襲撃する気力」を与えてしまった…いつの世も、すれ違いとは恐ろしいものである。

以来、二者の関係は修復されることはなく、白き民は森の外に静かな信仰の街を作り、その砦を守り続けた。褐色の民との接触は長きに渡って禁じられていたが、時には神の目を盗んで、まことしやかな密会が行われることもあったという。


--Woods of The Forest

褐色の民の信仰する黒い巨木をはじめ、早苗津間の森を構成する木々は「神々の腕」と呼ばれ、他地域に見られる木とは異なる性質を持つ。幹と葉は黒々と輝き、光の加減によって透明に見えることもある。木々は独自の規則性をもって群生し、木と木の間には、必ず大人の獣が通れるほどの隙間が空いている。そして、地上にある木全てが地下茎で一つに繋がっているという。その中心部は、湖の地下深くにあるとも言われる。
幹と枝はすらりと細く、葉は髪のように長く枝垂れており、とても軽いので風によくなびき、人が囁くような音がする。木の内側は程よい温度と湿度が保たれ、木と同じ色をした黒蝶の住処になっていることが多い。
木の中には、幼虫、蛹、成虫の三形態が自然に同居し、まるで家族のようだという。一説では、住処ではなく、実際に"木から蝶が生まれている"とも言われる。幼虫が蛹になる時、上質な糸を口から吐いて全身を覆い、蝶に変化する。褐色の民はこの糸を用いて、衣服や様々な道具を作っていた。
学術的に見れば、"独特の生態系を持ち、木材に適さない性質の木"である。元々湖の側に生えているためか、非常に質が柔らかく、それが木材として一般に流通しなかった理由である。今では国の天然記念物に指定され、厳重に保護されている種である。

失われた技術:
褐色の民の伝統的な工具には、音を巧みに操り、振動によって「神々の腕」を綿のように優しく斬り取る技術があったという。
クモ族の伝統的な工芸品として、神々の腕を"頂いて"作った家具や楽器、神の姿を象った個性的な彫刻などがあり、最も古いものでは、三千年も前の縦笛が現存する。弦楽器の弦には、神々の腕に住む黒蝶の蛹の糸が使われ、独特な音色を奏でた。
大変技術力に秀でた白き民といえども、彼らのこの秘術めいた伝統事業だけは、模倣することができなかったという。


--Gods of Sanatsuma

森の魂である黒き神は、人によって様々な姿に見える。その中でも共通して、「大きく立派な腕」を持つ神は、その年に新しく生まれたクモ族の子供達を、その腕に等しく抱き、夢の中で祝福を与えたという。
クモ族は、「私は神の子である」という共通のアイデンティティを持っていた。
クモ族の描く神・あるいは親子の姿には、形が不明瞭なものが多く、中には人とかけ離れた「異形」と呼べる姿もある。クモ族にとってはこの上ない美と尊敬の象徴であったが、現代の美意識に照らせばいささか不気味であり、近年では「人ならぬ異形の民がいた!?」と都市伝説的に面白おかしく語られることもある。

クモ族の伝説:
銀の満月が輝く夜 湖から黒い船がやってきた
それは船の姿をした神であった
音もなく陸に乗り上げた船
そこから 黒い人々が下りてきた
黒き民の始まり 我らの始祖である
黒い船は地中深くに根を下ろし 民を守る黒い巨木となった


2026(C)Sanatsuma.mov


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