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☆SANATSUMA☆なミステリーの世界 | ナノ

SANATSUMA -神秘の土地に眠る歴史-


--Liminal Field: Sanatsuma

黒い森を抱くこの地域一帯はサナツマゴウ(早苗津間郷)と呼ばれ、原住民の言葉で「湖の底」という意味を持つ。サナツ、サナツマ、マゴウ等、様々な略称・愛称がある。その名の通り、かつては多様な海洋生物が暮らす巨大な湖だった。
現在でも「広大な湖」として知られるその姿は、当時の10分の1程の大きさだ。湖といっても、地下には細い水脈が幾つも流れ、海洋まで繋がっている。この辺りには、独自の生態系を持つ木が自生することでも知られ、湖が巨大であった頃から、水中に生えていた可能性があるという。
湖の姿は複雑で、それ自体が巨大な一つの生き物のようである。龍に似ているという人もいる。深い黒を内包する青色の水は、朝は鏡のように美しく輝き、夜には月の光も跳ね返さぬ漆黒の器となる。その神秘的な佇まいは人々を魅了し、古くから祈りの場として尊ばれてきた歴史がある。文明化の進んだ近代史では、人気の観光地としても名が挙がる。
公式の歴史書によると、最初にこの地に移住してきた信心深い人々が、湖を臨む森の側に町の礎を築き、現在まで続く有力な一族となった。しかし噂によると、この一族にはかつて奇妙な伝統があり、真夜中の湖で謎の言語を使った儀式を行い、一族出身の聖職者を「神界への使者」として湖に沈めていたという…今となっては、真実を語る者はいない。
この仄暗い噂と関連するかは不明だが、湖のそばで火を起こしてキャンプをした若者たちが行方不明になり、数年後に「真新しい遺体」となって発見されるという恐ろしい事件も起きている。


--History of Sanatsuma

サナツマゴウの黒い森には、かつて「クモ」と呼ばれる黒色の民が住んでいた。人々は大地の恵みを司る「黒の神」を崇拝し、独自の規律を守って平和に暮らしていた。そこへ、当時最先端の文明を持った「白の民」が、新たな領地を求めて険しい山々を越境してきた。彼らは細身で小柄な体で、小さい者はクモ族より一回りほども小さかったが、その組織力と生産力は強大なもので、瞬く間に原住民の生活を圧倒していった。

黒の地にやってきた白の民の支族長・ラモ司教は、クモ達の信仰する巨大な黒い神木を一目見るなり「これは木の姿を借りた魔物だ」と恐れをなし、特殊な白木を使った松明で木を炙り、浄化の儀式を試みた。しかし巨木はびくともしない。当然ながら、この行為は原地民から猛烈な怒りと反発を買い、暴動から火事も起きて、儀式を中断せざるを得なかった。
「悪しき力の抵抗」に遭い、屈辱に燃える司教は、次なる浄化の儀式として、巨木の地下にある「祈りの間」…白の民は「魔術の間」と呼んで恐れた…を封印すべく、「白の神」の紋章が描かれた丈夫な布で巨木の四方を取り囲み、巨大な中庭のある神殿を作った。
その全てが恐るべき人数と統率力で迅速に行われた。クモ族はわけも分からぬまま神殿の建設に協力させられ、その対価として一定の報酬を得ていたが、段々と利用されているだけだと気づき始めた。同じ時期、クモ族の若い娘が「白の神に選ばれた」という名目で連れ去られるなど、誘拐めいた事件も多発し、地域一帯が不穏な空気に包まれていた。

 *

白の民の信仰する神は厳しい極寒の地で生まれ、若き日は白く巨大なワニのような姿で、冷たい湖の底に一人で棲んでいた。寒さに凍える人々が、白の松明で水面を照らし、祈りを捧げると、湖の底から姿を表し、自身を尊ぶ者達に知恵を授けた。彼らは白の神の庇護の下に繁栄し、協力して美しい街を作った。やがて信徒達は結束し、自らを「白の民」と名乗った。彼らの長に選ばれた男は非常に知力が高く、雄弁だが、信仰心の強さゆえ、規律に従わぬ者にはどこまでも冷酷であった。
白の神は母を知らず、常に母の面影を求めていた。ある吹雪の夜、己の運命を嘆いた娘が氷った湖に落ち、霊魂となったのを哀れみ、その魂を自身の中に住まわせると、人間の姿を得た。この出来事は、神にとっても思いがけないことだった。
今日に知られる白の神は、面立ちが大変美しく、中性的で、頭部だけが象徴的に描かれることもある。実際に信徒達は、神の美しい顔だけを夢に記憶することも多かった。

果たして、黒の巨木を封印し、白の神の庇護の象徴として建てられた「白の神殿」には、民族の慣例に倣って、高位な白の神官達が集団で生活を始めたが、彼らは毎晩のように悪夢にうなされた。
その内容は、巨木を封印していた丈夫な布が真っ赤に燃え上がり、中から恐ろしい形相の黒い怪物が姿を現す…祭壇に祀られた白の神の立像が、黒い涙を流して崩れる…神殿の壁に不気味なシミが浮き上がり、そこから黒い液体が流れ出してくる…といった禍々しいもので、中には現実と夢の区別がつかず、何かに取り憑かれたように神殿内で暴れ出す者もいた。
現代においても、白の民の性質を色濃く受け継ぐ者は、黒色の木や生物に近づくと恐れを感じ、もしそれが「黒の意思」を持つものであった場合、怪現象や悪夢に襲われるという。

これら一連の悪夢は、白の神の庇護に仇なすクモ族の呪いだ、と白の民は恐れをなし、原住民への敵意を募らせていく。そしてついに、その時は訪れた。二つの民族の間で、大規模な争いが起きたのだ。
結果は黒の民が破れた。敗因として、彼らはこれまで憎悪の感情を知らず、「相手を徹底的に叩きのめす」という残忍さに欠けていたのだ。
果たしてラモ司教の命により、捕えられた者達は人間以下の扱いを受けた。首輪を付けて畜舎に繋がれ、屈辱的な労働に従事させられたのだ。
これに耐えかねたクモ族は、ついに故郷からの逃亡を決意した。ごく一部の勇敢な者や、白の民の支配に従った者達を除いて、クモは異郷の地へと散り散りに逃げていった。中には森から逃げる途中で力尽きたり、怨念の力で恐ろしい物の怪と化してしまった者もいたという…。

当のクモ達が逃げ出しても、神殿を襲う悪夢の現象は収まる気配すらなかった。いやそれどころか、古より自身を厚く信仰してきた民の存在を失ったことで、黒神はかつてないほどに怒り、荒れ狂った。やがて神官達の中で謎の病がはびこり、一人、また一人と、悪夢に侵されるように死んでいった…
その誰もが、恐ろしい形相で自身を呪う、「白の神」の姿を夢に見たという。

黒神は最初、白の民の行いを赦していた。粗暴で無知な彼らを哀れみ、黒の民との間で衝突があっても、双方の違いゆえ致し方ないと成り行きを見守っていたのだ。
しかし、白の民の行いは明らかに「相違による摩擦」の域を越えていた。数と統率に物を言わせ、文化の融合というにはあまりにも傲慢な、強制支配の広がりを目の当たりにした黒神は、初めての怒りに目を真っ赤にして荒れ狂い、白の神の冷静さと知力をもってしても止めることはできなかった。

果たして、ありとあらゆる祈祷をもって恐るべき呪いを遠ざけようとしたラモ司教も、あえなく同じ病に侵され、急激に衰弱し、息絶えた。
死に際の彼の姿は、干からびた一本の小枝のようだったという。
支族長の悲惨な死によって、白の神殿は完全にその力を失い、森の外へと逃げるように移築された。
神々の怒りを避けるように、森のはずれにひっそりと建てられた教会で、白の民は代々信仰を受け継ぎ、近年まで、教会学校としてその姿を残すことになった。*この歴史ある学校は、町のとある事情から廃れてしまい、現在は心霊スポットとしても不穏な噂が囁かれているようだ…。
呪われた旧神殿跡は、廃墟となって間もなく、封印の白い布だけが朽ちて跡形もなく崩れ、頑丈な黒木の支柱と、中心にそびえ立つ黒の巨木が、再びその姿を現した。木は、全く朽ちていなかったのだ。

後世になると、その巨木は神秘的なシンボルとして再び人々の注目を集め、パワースポットとしても有名になった。
しかし、その巨木の地下に、今もなお封印された「祈りの間」があることは誰も知らない。

一部の霊感の強い者は、その木に大いなる力の存在を感じ、近づきがたい畏怖の念を抱くという。
古のクモ族の霊は、現在も黒の神を敬拝し、聖域を守り続けている。

白の民との合流によって、現地のクモ族のアイデンティティは縮小したが、現代に至るまでその魂は受け継がれている。
クモ族の遺伝的特徴として、自然に人間性を見出し、霊感の強い者が多い。


--Woods of The Forest

クモ族の信仰する黒い巨木をはじめ、早苗津間の森を構成する木々は「神々の腕」と呼ばれ、他地域に見られる木とは異なる性質を持つ。幹と葉は黒々と輝き、光の加減によって透明に見えることもある。木々は独自の規則性をもって群生し、木と木の間には、必ず大人の獣が通れるほどの隙間が空いている。そして、地上にある木全てが地下茎で一つに繋がっているという。その中心部は、湖の地下深くにあるとも言われる。
幹と枝はすらりと細く、葉は髪のように長く枝垂れており、とても軽いので風によくなびき、人が囁くような音がする。木の内側は程よい温度と湿度が保たれ、木と同じ色をした黒蝶の住処になっていることが多い。
木の中には、幼虫、蛹、成虫の三形態が自然に同居し、まるで家族のようだという。*一説では、住処ではなく、実際に木から蝶が生まれているとも言われる。幼虫が蛹になる時、上質な糸を口から吐いて全身を覆い、蝶に変化する。黒の民はこの糸を用いて、衣服や様々な道具を作っていた。
木の幹の外観は滑らかで、一見すると容易に斬り倒せそうだが、どんなに細く小さなものでも、伐採には甚大な労力を要する。国の天然記念物にも指定されており、現在はもちろん伐採禁止だが、技術が未発達な時代には、自然に倒れる以外に伐採の方法がなく、それが木材として流通しなかった最大の要因である。

失われた技術:
自然と心を通わせるクモ族の伝統的な工具には、音を巧みに操り、振動によって「神々の腕」を綿のように優しく斬り取る技術があったという。太古の昔、白の民の立派な神殿が建造できたのは、クモ族の技術のおかげであり、人類史に残る最大の皮肉の一つである。
クモ族の伝統的な工芸品として、神々の腕を「頂いて」作った家具や楽器、神の姿を象った個性的な彫刻などがあり、その多くは子々孫々に受け継がれ、世界各地に現存する。弦楽器の弦には、神々の腕に住む黒蝶の蛹の糸が使われ、独特な音色を奏でた。白の民はこの音色の持つ神秘の力を恐れ、クモ族に楽器の演奏を禁じたという。


--Gods of Sanatsuma

早苗津間の森の魂である黒神は、人によって様々な姿に見える。その中でも共通して、「大きく立派な腕」を持つ黒神は、その年に新しく生まれたクモ族の子供達を、その腕に等しく抱き、夢の中で祝福を与えたという。
クモ族は、「私は神の子である」という共通のアイデンティティを持っていた。
クモ族の描く神・あるいは親子の姿には、形が不明瞭なものが多く、中には人とかけ離れた「異形」とも呼べる姿もある。クモ族にとってはこの上ない美と尊敬の象徴であったが、現代の美意識に照らせばいささか不気味であり、近年では「人ならぬ異形の民がいた!?」と都市伝説的に面白おかしく語られることもある。

森の魂である黒の神は、湖の底に住む土神(ツチガミ)から生まれた。地を総べる巨大な黒龍の姿をした土神は、黒神の母であり、我が子である黒の神の魂を庇護し、育む存在である。
クモ族の伝説によれば、「銀の満月が輝く夜に、湖から黒い船が現れて、音もなく陸に乗り上げ、そこから黒い人々が下りてきた。それが黒の民の始祖である。彼らの乗ってきた黒い船は、そのまま地底深くに根を下ろし、黒の巨木となった」というのである。
母を知らぬ白の神は、黒の神に大いなる母の存在があることを、とてもうらやましく思った。
白の神と黒の神、両者は相容れぬ存在であったが、それは互いの存在を毛嫌いしていたわけではなく、ただ両者の「違いを知っていた」だけのこと。自身を崇拝する民達が、信仰の違いを理由に傷つけ合う姿を見て、神々は彼らの無知を嘆いたという。

黒い嵐と共に現れる黒蛇達は、土神の使いとして現世に現れ、迷える魂を導く存在である。その成り立ちは、この世に未練を残して死んだ哀れな亡者の魂が、土神の元に呼び寄せられ、新たな姿を与えられたものである。
土神の代弁者たる、怒れる蛇の牙によって、大きな痛みを感じるのは、その者が己の罪を後ろめたく感じている証である。
黒蛇の這った跡には、筆で墨を引いたような線が残り、黒蛇の抜け殻は、亡者の強い思いが残る場所に現れる。霊感のある者には、それらの姿が鮮明に観えるという。


2025(C)Sanatsuma Project.


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