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☆SANATSUMA☆なミステリーの世界 | ナノ

【ある建物の歴史】


とある時代。時の王が甥の成人祝いに贈った、美しい湖畔の別邸「トリアン」は、城と同じように頑丈な建物であった。若く美男だった王の甥は、地域の貧しい子供達を屋敷に招いて遊ばせ、慈善家としても大変に有名だったが、その裏で多くの子供達を虐待していた。この忌まわしい歴史はその後も繰り返されることになる。

やがて王家は衰退し、館も手放されることになった。館は時の教団の持ち物となり、孤児院「シズ」と名を変えて、半世紀ほど続いた。その間、預かった子供の数は1万人を超えた。
しかし子供の数が増えるにつれて、逃げ出す子供も増え、孤児院についての悪い噂がそこかしこで囁かれるようになる。果ては引き取った子供を洗脳し、食肉に使っているとまで。ついには成人した元孤児達の集団訴訟により、おぞましい児童虐待の数々が明らかになり、経営難から瞬く間に閉鎖へと追い込まれた。
当時の世を騒がせた「呪われた孤児院」として、シズの名は古い文献にも記載が見られる。

孤児院は閉鎖となったが、建物自体は立派であったので、閉鎖後間もなく買い手が現れ、療養所「ナオリ」へと姿を変えた。そこは療養所とは名ばかりで、心を病んだ患者の多くは個室に閉じ込められ、ろくに世話もされなかった。奇怪な笑い声や雄叫びがそこかしこで響き、さながら場末の刑務所のようである。暴れる患者は女だろうが職員達が殴り倒して鎮静剤を打ち、大人しくさせる光景が日常茶飯事だった。勢い余って殺してしまうこともあったが、そんな"些細な間違い"を気にする者は誰もいなかった。
施設での容赦ない暴力を扇動したのは、当時のオーナーであった。彼自身も子供の頃に耐え難い暴力を経験し、大人になってからも強権的な父の存在に怯えていた。頭は良かったが、萎縮した性格の為に大成しなかったことも大きなコンプレックスになっていた。誰に顧みられることもない者が、誰に顧みられることもない者達を虐待し、ささやかな楽しみとしていたのだ。

この呪われた歴史を持つ建物は、療養所閉鎖の直接の原因となった大火災にも耐え、現代にまで当時の建物の基礎を残した。近代にも一度改修され、湖畔のリゾートホテルとなるなど、自然に侵食されることもなく、己の領域を護り続けたのである。

「廃リゾートホテル:S」が現在の"彼"の姿である。営業当時から怪奇現象が発生するホテルとして知られ、怖いもの見たさの宿泊客も多かったというが、ある日突然オーナーが蒸発し、連絡が取れないまま廃業した。それが十数年前のことである。
現在は「歴史的廃墟」としての文化的価値もさることながら、「辿り着くのが難しい心霊スポット」としても有名であり、今日まで多くのオカルト雑誌に掲載された。例え地図を見て進んだとしても、たどり着けるどうかは運次第だという。怖いもの見たさの若者よりも、たまたま湖畔にバカンスに訪れた人々が迷い込むことが多いと言われている。
あるオカルト誌の記載によれば、建物の内部は表現しがたい異様な雰囲気に包まれており、時にはリゾートホテルらしからぬ、それより遥か以前の時代にまつわると思しき部屋が幾つも現れるという。この廃墟で「普通ではない部屋」を見つけたら、一歩も立ち入らず、何も調べず、一目散に逃げなければならないと言われている。
鉄柵に囲われた広い敷地内では、「セラミック」と呼ばれる子供の姿も目撃されている。彼らは口を開かず、人形のように無表情で、肌は硬い質感で青白く光っており、一見して普通の子供ではないと分かるという。こちらに危害を加えることはないが、怖いもの見たさに子供に近づいた者が精神に異常をきたし、殺傷事件を起こしたという不穏な噂もある。



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