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Mistery_of_SANATSUMA.mov | ナノ

黒い人々


「えっ…?この写真、何でこんな場所に?」

どう見ても、僕が子供の頃に遊んでた公園だ。大きくなってからも、18の時に大学寮に引っ越すまで、そこでマンガを読んだり、友達とだべったりして、毎日のように使ってた場所。赤いぐるぐる滑り台と、その向こうに見えるデザインビルのネイビーとホワイトのストライプの壁は、見間違えようもない。手前には、いつも友達と座ってたベンチもちゃんと写ってる。
でも、そのすぐ前に、沢山の"黒い人々"が並んで立っている…。
これはきっと、何かの"集まり"だろう…でも、何の?
辛うじて"人間"だということは認識できるけど…正直、それすらも信じられない。だって彼らの装いは、あまりにも現代にそぐわない。どう見たって、相当古い時代のものだ。しかも、ただ古いだけじゃない。ほとんど輪郭が見えないくらいまで姿を隠した、黒いベールを被った人、恐らく集団の中心人物であろう、どうやってスタイリングしたのか分からない昆虫みたいな髪をした老人、他にも、複雑な剃り込みを入れた坊主頭の子供や、特定の部分にしか髪を生やしてない女性…とにかく、一見して"異様"と分かる集団。これはもう、衣装じゃなく、"装束"と呼んでいい部類だと思う。
これって、今でこそ前衛的なファッションの象徴みたいになってるけど、元は宗教的な意味が強かったはずだ。特定の信仰を持つ人達の集まり、古くは、民族の風習みたいなもの。
こんな人達が、なぜ僕が遊んでた公園に?しかも、たまたましょうちゃんとサイクリング中に見つけたホテルの廃墟で、こんな写真を見つけるなんて…これって、単なる偶然なんだろうか?

「ねえしょうちゃん、ちょっとこの写真見て…って、あれ?しょうちゃーん?」

異様な写真に見入っていたら、いつの間にかしょうちゃんがいなくなってた。彼のことだから、また気ままに一人で探検してるんだろうけど…やっぱり姿が見えないと不安になる。慌てて写真をカウンターの書類の山に戻して、広い廊下を再び歩きだした。

「しょうちゃーん?どっかに足跡でもないかな…?」

昼間でも薄暗い、枯れ葉や紙切れが散らばる床を、ポケットライトで照らしながら進んでいくと、廊下の先から「ああああ」と歌うような声が聞こえた。

「わあっ!な、なにっ…なんか聞こえた…!」

怯えながらライトを振り回して辺りを照らすと、廊下の向こうから、しょうちゃんがひょこっと顔を出した。

「おわあっ!?しょうちゃん、そこにいたの!いつの間に…」
「うえっ!びっくりしたあ…サトちゃんこそどこ行ってたの?」
「どこって…ずっとロビーにいたよ?あそこから動いてないよ」
「え…そうだっけ?」
「もー」

自分からいなくなったのに「どこ行ったの?」て…いかにもしょうちゃんらしいセリフでちょっと笑えるけど、この呑気な感じを見ると、今の怖い声、彼には聞こえてないのかな?

「ねえ、今のあああって声、聞こえた?めっちゃ大きかったけど…」
「ふぇ?声って、サトちゃんの声はデカかったけど…めっちゃ静かだったよ?ちょっと癒やされて、ボーッとしちゃってた…。あと、こんなの見つけたよ。誰が置いてったんだろ?」

そう言って、しょうちゃんは僕に一枚の写真を見せた。それを見た瞬間、心臓が止まりそうになった。

「これ…どこに落ちてたの」
「え?あっちだよ。ベンチがあって、そこに置いてあった。面白い写真だから、持って帰ろうかなって」
「…面白く、ないよ」
「ふえっ?」

よく見なくても分かる。これは、さっき僕が見つけたのと同じ写真だ。怖くて直視できない。二人同時に、全く同じ写真を見つけるなんて…。わざわざこんな写真を焼き増しして、この廃墟に置いた誰かがいたってこと?それとも、まさか写真が自己増殖したとか…?しょうちゃんは相変わらずぽやっとした顔してるけど、彼がこれを持ち帰るのはまずいって直感で思った。

「ねえ、もう一度、その場所案内してくれる?」
「うん、いいよ」

しょうちゃんがいた場所は、廊下よりも明るくて、外の光が入ってきてるみたいだ。
廊下の先の角を曲がると、そこは開けた中庭になっていた。まず目に入ったのは、大きな明り取りの窓のある天井だ。そこに張られていたであろう3枚の窓ガラスは、鉄の枠だけを残して綺麗に無くなっている。でも、割れたガラス片は床のどこにも落ちていない…。きっと、壊れる前に取り外されたんだろう。
まさに絵に描いたような、美しい廃墟の風景だ。けど…そこに、誰かの存在を感じた。
普段、大学の休憩スペースに行った時にも感じるような、僕らの他に"先客がいた"って、当たり前の感覚。

「そう、ここに写真が置いてあって…あれっ?何か、ベンチの位置がさっきと違うかも…気のせいかな?」
「えっ?」

しょうちゃんの戸惑った声で、慌てて視線を壁際に向けると、そこには、古めかしい鉄のベンチが一つ。その周りには、外からこぼれてきたであろう、セピア色の枯れ葉がさくさくと積もっている。綺麗な風景だ。手前に、少し人が歩いた跡があるのは、さっきしょうちゃんが歩いたからだと思う。でも、ベンチの足周りの空間が、どれも不自然に空いてるのはなぜだろう?
気になって、ベンチにカメラを向けた…すると、誰もいない画面の中から、あるはずのない"カメラ目線"を感じた。その瞬間、怖くなって、すぐにピントを外した。

「サトちゃん、どしたの?」
「何か…誰かいる、感じがする」
「えっ?誰かって…ベンチに?」

まさかとは思うけど…そこに誰かが座って、こっちを見てる?
しょうちゃんは特に何も感じていないのか、写真を持ったままキョトンとしてるけど…そうだ、あの写真を見た時も、同じ感じがした。写真の向こう側から"見られてる?"って気がして、怖かったんだ。

「しょうちゃん。その写真、もう一度見せて」
「あ、うん…」

写真に顔を近づけた時、バサバサっと頭上で鳥が飛び立つような音がして、足元の枯れ葉がざわざわと囁くような音を立てて舞い上がった。直感で分かった。これはただの風じゃない。何かが"来てる"。

「出よう、今すぐ」
「へっ?」

相変わらず状況が飲み込めていないしょうちゃんの手を乱暴に掴んで、もと来た廊下に走り出た。エントランスホールの光を目指してダッシュすると、なぜか走れば走るほど、どんどん光が遠ざかり、周りが暗くなっていく気がする。その間に、ざわざわと唸る風の音がすぐ後ろまで迫ってきて…ダメだ、捕まる!って思った時、目の前に白い鳥が現れた。
こんな廃墟の中に鳥が飛んでるなんておかしいけど、でもそれは確かに"鳥"としか形容できないような姿で宙に浮かんでいて、その小さな姿からは想像もできないほど力強い声で、"ピイイ"、と鳴いた。

「「ワアッ!」」

その声は音だけじゃなく、まるで光みたいに眩しくて、思わず二人で目を瞑った。

 …

再び目を開けると、そこは廃墟の外だった。目の前に、二人で停めたマウンテンバイクが並んで置いてある。入る前に見たのと同じ光景だ。

…戻ってきた?


「さっきの、見た?何だったんだろ…」
「うん、鳥?みたいな…ちょっと怖かった…」

さすがのしょうちゃんも怯えながらそう答えて、恐る恐る、僕らの後ろにあるホテルの入り口を見上げている。
一緒になって振り返ると、そこから見える中の景色は、来た時と明らかに違って見えた。
もっとずっと古ぼけていて、それこそ、入るのをためらってしまうような薄暗さ…もちろん、白い鳥なんてどこにもいない。

「ねえ、このホテル、こんなだったっけ…?」
「う、うーん…?もうちょっときれいだったような…?」

やっぱり、さっき来た時と全然違う。訪れてすぐに、ここから外観を撮影したから、デジカメに保存した写真と比べてみようとしたら、なぜかデータが消えていて、どこにも残っていなかった。
これって…まさか、"存在しないものを撮影した"ってこと?

「あっ、そうだ、あの写真…!」

ふと、しょうちゃんがまだ手に持ったままの写真が気になって、もう一度目を落とす。

「あれっ…真っ白だ…!」
「うえっ?ほ、ほんとだ…な、何で…?」

二人で顔を近づけて、もう一度よく見てみる。裏返しても、ひらひらと振ってみても、もうあの時見えていた"黒い人々"の姿は、どこにもなかった。あるのはただ、何も刷られていない、古びた一枚の紙だけだ…

「あ、そうだ…」

と、しょうちゃんが思いついたように地面にしゃがんで、白い紙をごそごそといじり始めた。いったい何をしてるんだろう?気になって見てみると、どうやらツルを折っているらしい。
なるほど、白い紙で白い鳥…この不思議すぎる体験を形にして残すには、いい案かもしれない。

「これをこうして…ここに置いとこう」

しょうちゃんは上手にツルを織り上げると、それをホテルの入口にそっと置いた。両方の羽を広げて、まるで、今にも飛び立っていきそうな姿だ。
それは、僕らが確かにこの場所に来た証であり、あの時、"何かに捕まりそうだった"僕らを守ってくれた、白い鳥への感謝の気持ちでもあったかもしれない。



(おわり+)




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