第一部「悪い夢」
※人類が覚醒し、スピリチュアル系が今よりも信じられている世界。(かも)
[リョウさん]とのメッセージ履歴
<ちょっと遅れる]
[寝坊すか?>
<ヤバい夢みた]
始まりは、待ち合わせ場所でのこんなやり取り。ダイキがスマホから顔を上げて、あっくんを振り返る。
「リョウさん、ちょっと遅れるって」
「え、てっちゃんじゃなくて?」
「うん、リョウさん。ヤバい夢見たって」
いつも早くに来てることの多いリョウさんが、恐らく史上初の遅刻申請。
*
「お待たせー!悪い、10分遅れた!」
集合時間から15分くらい遅れて、リョウさんが情けない顔で到着。
「リョウさん、ヤバい夢見たんすか?」
その3分前に来ていたてっちゃんが、真っ先に聞いた。
「えっ、ヤバい夢?ああ…そういや見たな。怖かった」
「うなされてたんすか?」
「ベッドから落ちて目え覚めた。アラームも鳴ったのに聞こえてなくてさ。そんなことある?」
「まあ、眠りが深かったとか…」
「てか、今から行く場所と何か関係あるんすかね?」
「気になるんで、内容教えてくださいよー」
「えー?もういいよ、そういう話は!思い出したくねーし」
序盤からそれとなく不穏な空気を感じつつも、いつも通りに撮影の段取りを確認して、レンタカーで目的地に向かう。今回向かうのは、不気味な怨念が漂うという森の中の廃墟、その名も「怨霊館(おんりょうかん)」。
‡ ‡
古い町の跡が点々と残る、広い森の中に、その建物はぽつんとある。かつては立派な建物だったようで、「館」という呼び名がついた。
この建物が有名になったのは、作りが立派だからではなく、廃墟マニアの間で「あそこには人を襲う怨霊が住んでいる」というヤバい噂が流れ始めたからだ。
あの館の周辺でだけ、黒い影に追われたり、頭上から物が落ちてきたり、何もない場所で服が破れたり、見えない何かにぶつかって転んだり…身の毛もよだつ体験をした者が続出しているらしい。
そんな聞くだけでビビってしまうヤバい噂の真相を確かめるべく、勇敢なミステリー調査隊は気合十分で調査に向かった。
‡ ‡
しかしその道中から、既に怖いことが起き始める。
メンバーに「どーしても!」と話をせがまれたリョウさんが、渋々今朝見たヤバい夢について語り始めると、車内の空気がまるでエアコンでも点けたように、すーっと冷たくなっていく。
「とりあえず何かから逃げてて、実家に逃げ込んだのよ。でも俺は実家と思ってるけど、全然違うの。もう壁が一面黒くて、天井も真っ黒で…何か、焼け跡みたいな?で、もっと怖いのが…」
「ん、焼け…?え、マジで匂わない?焦げてるっていうか…」
「え…うわ、ホントだ!まさか車のエンジン燃えてる!?」
「ちょ、一旦停めよう!どっか空いてる場所見つけて!」
予想外の事態に大パニックになりながら、車の通らない場所に避難してボンネットを開けて、エンジンを確認する。でも、開けてみるとエンジンの異常どころか、焦げた臭いひとつしなかった。
「よかったー…とりあえず車は無事だよ」
「臭いも収まったっぽいっす、けど…確実に霊障起きてるっすね」
「多分、リョウさんが夢の話してから…だよね?」
「実家が黒焦げとか笑えないっすよ…」
「もしかして、行くの止められてんのかな?何か怖くなってきたんだけど」
「マジでヤバそうなら、延期とかも考えましょう。事故ったら洒落ならないんで…」
不安を胸に運転を再開するが、その後は何事もなく進んで、皆も安心した。やがて広い道から外れ、カーナビが「廃ホテルへの近道」として示した古い林道に入ったとたん、急に霧が濃くなってきた。ついさっきまで、遠くの橋を渡る電車の紫色が鮮やかに見えるほど、空は青く澄み渡っていたのに。時刻はまだ昼過ぎだが、辺りはまるで夜のように暗い。言いようのない不安が車内を覆っていく…その時だった。
「…え、何だ?窓ガラスに…わ、マジかよ!夢で見たやつじゃん!」
突如怯え始めるリョウさん。この時、まだ話していなかった「あるもの」が窓ガラスに浮き出して見えていた。まさにその時、ヘッドライトの光円の中にゆらりと影が浮かび上がった。見上げるほど高い。木?いや、足がある、多分人だ。そう認識した時には、もうすぐそこの距離だった。ブレーキを踏んでも間に合うかどうかだ。なのにその主は立ち止まったまま、逃げもせず、ここではないどこか一点を見つめている。その目が赤く光って…?
「わーっ!カミサマ!」
「ぶつかるっ!!」
……
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