届かない声



今日はため息を何度しただろうか。
もう数え切れない程ため息をした気がする。
パソコンの画面に映る文字もなんだか遠く見える。

「なまえ、本当に大丈夫?さっきからため息ばっかりだし…。まだ風邪治ってないんでしょ?」
隣に座る奈緒が心配そうにこちらを見て言う。
「…そうかも。うん、多分病み上がりだからだと思うよ」
「あまり辛いなら課長に言って帰ったら?」
奈緒の言葉にふとあっちの世界にいた時の夢の出来事を思い出す。

あれはまだ私があっちの世界に行ったばかりの頃。
リヴァイさんが何故か私達の上司で夢に出てきた。
それが今、現実に起きて欲しいと思ってしまう自分に少し苦笑いをした。

「ありがとう。ちょっと休憩室で休んでくる」
私はそう言うと椅子から立ち上がり、休憩室へと向かった。


休憩室の椅子に座って天井を見上げる。
私はあっちの世界で3年間も過ごしていた。
こちらへ戻ってくれば3日しか経っていない。
ってことは…こちらでは1日過ぎたらあっちの世界は1年過ぎてしまう。
「……ありえない。戻るなら早く戻らなきゃ…。リヴァイさん絶対怒ってる」
私は独り言を呟いてまたため息が出る。


エレンやミカサ、104期のメンバー達は突然私がいなくなって死んだって思ってる。
アルミンとは必ず無事に帰るって約束してる。
マルコの時のように悲しい顔させたくない。

この際だから私が異世界から来たってこともうみんなに話しちゃったかもしれないな。
話してくれた方が死んでないって思ってくれるかな?

もう頭に浮かぶのはみんなの姿。


私は休憩室から出て自分のディスクの前に立てばパソコンを片付け始めた。
「ごめん、奈緒。やっぱり今日は帰る…。課長出先行っちゃってるみたいだから帰ってきたら伝えておいて」
チラリと課長が座るディスクを見てから言う。
「大丈夫?課長には伝えておくから、無理しないでゆっくり休みなよ!」
奈緒が微笑んで言ってくれた。

風邪なんてまっぴら嘘だけど、本当にごめん。
「ありがとう。じゃまた明日!」
私は鞄を持って会社を出た。



自宅にはそのまま向かわずに駅前にある漫画喫茶に寄った。
しばらくたくさんある漫画の前をウロウロしながら目的の漫画を探す。
「……あった!」
"進撃の巨人"と書いてある漫画を手に取り、ページをめくる。

それは104期訓練兵が訓練をしているシーンだった。
私は漫画を閉じてもうしばらく進んだ巻を手に取る。
開いた瞬間突然の目眩に襲われる。
「………っ!!」
よろけてそのまま漫画を下に落とした。

漫画が下に落ちた時、目眩は治り私はその場に座り込む。
「やっぱり…続きは見せてくれないのか。ペトラさん達あの後どうなったの?やっぱり…女型の巨人に殺されちゃったのかな…」
下に落ちた漫画を拾い、元の場所に戻す。

何も情報が得られないまま私は漫画喫茶を出た。


電車に揺られて自分の家へと向かう。
電車の窓から見える光景は全く違う世界。
まるでこちらの異世界に迷い込んだ気分になった。
もうあちらの世界に慣れ始めていた自分がいた。
「………リヴァイさん…」
私は小さな声で呟いて首元にかかるネックレスを握り締めた。

こんなに寂しいなんて思わなかった。
いつかこちらの世界に戻るなんて分かっているつもりだった。
リヴァイさんやハンジさん、エルヴィン団長、ペトラさん達…エレン、ミカサ、アルミン…104期のメンバー私にとってこんな大きな存在になるなんて思わなかった。

もう一度会いたい。



家の前に着き、鍵を開ける。
部屋に入れば団服が目に入った。
"自由の翼"

私は団服を手に取り、その場に座り込んだ。
「……会いたいよ。みんな…」
溢れ出す涙は止まらなかった。

届くはずがない私の声。
部屋は私の泣き声だけが響いていた。




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