生きた証



あれから俺はなまえが使っていた立体機動を持って調査兵団が集まっている場所へと向かった。

「リヴァイ!なまえちゃんは……」
ハンジが俺に気が付いて声を掛けてきた。
俺は振り返って首を横に振った。
「………は?ちょっ、何首振ってるんだよ!意味分からない行動しないでく……」
ハンジは俺が持っている立体機動に気が付いた。
「それ…なまえちゃんが使ってた立体機動?」
「あぁ…」
「それだけ残されてたのか?」
「……あいつは多分自分の世界に戻ったんじゃねぇかなって思う」
「いや、まさか?そんなことある?……でも今まで巨人に食べられて立体機動だけ残されてた例は今までに一度もない……。確かにリヴァイの言う通りその確率はあるかもしれない」
ハンジは立体機動を見つめながら言った。

俺はただなまえが巨人に食われたという事実を認めたくないだけでそう言っているのかもしれない。
でも周りには俺の班のメンバーが死んでいた。
なまえだけがいないのはやはりおかしい。

「……リヴァイ、もしなまえちゃんが自分の住んでいた世界に戻ったならもしかしたらまた戻ってくるかもしれない。きっと…大丈夫だ」
ハンジが俺の肩に手を置いた。
「……いや、あいつはこの世界より自分の住んでいた世界にいるべきだ。…それが正解なんだよ」
俺はため息混じりに小さな声で呟き、ハンジから離れて俺の部下の亡骸の元へと向かった。


俺は目の前に包まれる遺体の前に立つ。
あの時離れなければこいつらも助かったかもしれない。
俺はしゃがみ込み、遺体の布を少し開ける。
団服に付いている調査兵団のワッペン。
俺は丁寧に剥がしてそのワッペンを見つめる。
ポケットに片付けて俺はそのままその場を離れた。


俺はエルヴィン達がいる場所へと向かった。
エルヴィンの姿が見えたと思えば、同じ兵団の奴らが騒いでいるのが目に入った。

「回収すべきです!イヴァンの死体はすぐ目の前にあったのに!」
「巨人がすぐ横にいただろう!二次被害になる恐れがある」
「襲ってきたら倒せばいいではないですか!」
「イヴァンは同郷で幼馴染なんです。あいつの親も知っています。せめて連れて帰ってやりたいんです!」
「我が儘を言うな!」

俺はため息をしてその場へと歩みを進めた。
「ガキの喧嘩か?」
「リヴァイ兵長!」
「死亡を確認したなら、それで十分だろ。遺体があろうがなかろうが死亡は死亡だ。何も変わることはない」
「そんな……」
兵団二人の絶望的な顔が見えた。

「イヴァン達は行方不明として処理する。これは決定事項だ。諦めろ…」
エルヴィンの言葉を聞き、俺はエルヴィンの後ろを歩いてついて行った。
「お…お二人には人間らしい気持ちというのがないんですかぁぁぁ!」
「おい!言葉が過ぎるぞ!」
「ちっ…」

兵団の声に耳を傾けながら俺は静かにその場を去った。



俺たちは馬を走らせて来た道をひたすら戻る。
その時だ、後ろから赤の煙弾が放たれたのが見えた。
「後列が巨人を発見!」

「全速で移動!」
エルヴィンが叫んだ。
「大きな木もなければ建物も見えない。思うように戦えないな」
俺は呟いた。
「壁まで逃げ切る方が早い」
「ちっ…」
エルヴィンはスピードを上げた。
俺は少し下がり、後列に合流するためスピードを落とした。

巨人は何人かを兵団を捕まえ口に運ぶ。
「駄目だ!追いつかれる!」
「俺があいつの後ろに回る。ひとまず気を逸らしてその隙に…」
「やめておけ!」
俺は遺体を積んだ荷馬車に乗る兵団2人に言った。
「それより遺体を捨てろ。追いつかれる」
「しかし…」
「遺体を持ち帰らなかった連中は過去にはごまんといた。そいつらだけが特別な訳じゃない」
「やるんですか?…本当にやるんですか?」
荷馬車に乗っていた1人の男が叫んだ。

「くっそ…」
俺は小さく呟いて先ほど捻った足を触る。
せめてこの足が痛まなければ…。
俺があの巨人を倒すことができたのかもしれない。
「……やるしかないだろ!!」
荷馬車の後ろの柵を下ろして遺体を転がした。
「あぁ……くっ…」
荷馬車に乗る奴らは悔しそうに顔を歪めた。

俺は投げられる遺体を見ながら唇を噛み締めた。
俺には何一つしてやれることはなかった。

「いいぞ!そのまま進め!」
荷馬車は先ほどよりスピードが上がり、巨人から距離をとっていった。




だいぶ進み、巨人の影も見えなくなった所で俺たちは休憩のため歩みを止めた。
しかし、警戒は怠らない。いつどこで巨人が襲ってくるのか分からない。

俺はさっき見たイヴァンという男を見つけて馬を止め、その場に降りた。
「……リヴァイ兵長、自分は…」
俺はポケットにしまっていた物を取り出した。
「これが奴らの生きた証だ。俺にとってはな…」
イヴァンはそれを受け取り驚いた顔をする。
「…イヴァンの物だ」
俺は調査兵団の証であるワッペンを渡した。
「……兵長っ…」
俺は泣き出した兵団の元をそのまま馬に乗り立ち去った。

"生きた証"
なまえが生きた証がない。
…あいつは生きている。
俺はそう信じている。
首元にかかるネックレスの重みを少し感じながら俺は小さくため息をした。

「出発するぞ!」
出発を知らせる大声が聞こえたため俺はエルヴィンがいる場所へと馬を走らせた。



そして俺たちは多大なる犠牲を出して壁の中へと帰ってきた。
……俺の部下はもういない。
失くしたものは大きい。

どうか…なまえが無事であるように。





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