私の住む世界



私が最後に聞いた声はエレンが巨人になって叫んだ声だった気がする。
プツリと途切れたのはエレンの叫びの後。




私が目を覚ました時は見知った部屋。
いつもの……違う。
3年前に見ていた見知った部屋だった。

私は驚いて思わずベッドから体を起こした。
「……っ、いった…」
頭と背中が痛い。
きっと女型の巨人に落とされた痛み。
頭を触ったけど血は出ていないが、頭と背中がすごく痛い。
着ている服はそのまま、調査兵団の服。
立体機動装置はない。
思わず首元へと手を持っていく。
しっかりリヴァイさんに貰ったネックレスは首元にあった。
私は安堵する。
……戻ってきてしまった。
私が平和に生きてきた元の世界に………。

ベッドの傍に置いてあるスマートフォンに手を伸ばす。
久しぶりの感覚だ。
電源はついた。
「………えっ?3日しか経ってない…」

そう、私があっちの世界に行ってから3日しか経ってなかったのだ。
「……私、3年もあっちにいたのに…どういうこと?」
するとスマートフォンの画面が着信画面へと変わる。

"奈緒"
久しぶりに見た友人の名前だ。

通話ボタンを押すのを迷ったが、私は電話に出る。
「……もしもし…」
『あー、やっと出た!なまえ何してたの?風邪で寝込んでるって連絡あってからずーーーっと連絡取れないから心配してたんだからね!!死んじゃったのかと思っちゃったじゃん!』
「……あー、ごめん。多分私、死んでたんだと思う」
『でしょうね。風邪で本当死んでたんだね。まぁ良かったよ、無事に連絡取れて。昨日も呼び鈴鳴らしたけど出ないし、管理人さんにドア開けて貰おうか悩んだもん。風邪治ったの?明日から仕事来られそう?』
「……うん。行けると思う」
私は思わず首元のネックレスを握った。
『そう?良かった!じゃ明日会社でね!おやすみー!』
電話が切れた。
しばらく画面を見つめた後、私はスマートフォンをベッドの傍に置いた。


私はベッドから降りて、リビングへと向かう。
急いでテレビの電源を入れて奈緒に借りた進撃の巨人のDVDをセットした。
あの後どうなった?私は再生ボタンを押した。

第57回壁外遠征。
女型の巨人が捕獲された後。
たくさんの巨人を呼んで食べられたこと。
しかし、立体機動装置で逃げた。
……そしてグンタさん、エルドさん、ペトラさん、オルオさんが殺されたこと。
「殺す!」と言ってエレンが巨人になった瞬間…画面が消えた。

「……えっ?故障?」
画面には"DVDは再生できません"という文字が出ていた。
「再生できない…タイミングのいい壊れ方…」
私はため息をしてリモコンを机に置いた。

エレンはあの後どうなった?
アルミンやミカサ、訓練兵だった同期達は無事なんだろうか。
もし、マルコの時のようになったら嫌だ。
そして…リヴァイさん…会いたいよ。

私はそのままソファーで眠ってしまった。


朝の光で目を覚ました。
いつものリビングのソファーの上。
横を向けばテレビが見える。
私がいるのは平和な日常。

私は起き上がり、調査兵団の団服を脱ぐ。
もう着ることはないのだろう。
ソファーの上に団服を置いて、そのまま自分の部屋に行きスーツに着替える。
顔を洗い、化粧をする。
いつもの日常が戻ってきてしまった。

私は体を引きずるようにいつもより早めに家を出た。


電車に揺られて仕事場へと向かう。
これがいつもの日常だ。
これで良かったのかもしれない。
私がいた世界は漫画の中の世界だ。
イレギュラーの私は必要なかったから。
無意識に私は首元のネックレスを握った。

それでも思うのは…………
"リヴァイさんに会いたい"



会社に着いて、席に座る。
朝早いため出社している人はまだ少ない。
私は休憩所に行き、コーヒーを飲もうとしたが何故か紅茶へと手を伸ばしていた。
リヴァイさんが飲んでいる紅茶の匂いとは違う。
私は小さくため息をした。

「あっ!なまえ、おはよう!!風邪大丈夫?」
休憩所に顔を出す親友の姿があった。
「おはよ!…うん、大丈夫だよ。心配かけちゃってごめんね」
「本当だよー!もうビックリしたんだから!」
「あのさ、聞きたいんだけど…進撃の巨人で壁外調査行った時に、ペトラさん達…死んじゃったじゃん……。その後ってどうなったの?」
「えっ?DVD観たらいいじゃん!ほら、貸したやつを!」
「観てたら途中でデッキ壊れて再生できなくなったからさ」
「そうなの?リヴァイ班が死んじゃった後ね…。あの後にエレンが巨人化して………」

突然耳鳴りがした。
奈緒の喋る声が聞こえない程の耳鳴り。
私は眉を寄せた。
「……大丈夫?」
奈緒が私の怪訝な表情に気が付いたのか話をやめた。
話をやめた瞬間耳鳴りが止んだ。
「…大丈夫、ちょっと耳鳴りしちゃって…」
「まぁ病みあがりだから耳鳴りもしちゃうんじゃないの?」
奈緒はそう言って笑い「先に行ってる」と言って休憩所を出て行った。

あの耳鳴りはなんだったんだろう。
進撃の巨人の私が戻って来た所からDVDの再生できない、そして奈緒に今後の展開を聞いた瞬間に起きた耳鳴り。
これはただの偶然なのだろうか?

もしかしたら、リヴァイさん達がいる所に戻れるのかもしれない。
私は首元のネックレスを握り締める。

……私の住む世界はこの世界。
それでも淡い期待が湧く。

もう一度…貴方に会いたいです。。




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