嫌な予感



時間は少し戻る……。

私達、リヴァイ班のメンバーはリヴァイさんに言われた通りしばらく馬を走らせてから木の幹に馬を縄で繋いで適当な場所で立体機動に移った。
木の上に登り、少し体を休めた。

「最初からそれだった……。そういうことですよね?でも俺達みたいな新兵ならともかく、長く調査兵団をやっている先輩達にも知らされてないなんて……」
エレンはさっきの女型の巨人の捕獲作戦のことを疑問に思っていたのか口に出した。
「うるせぇなぁ!」
オルオさんのイライラする声が聞こえた。
「私達は団長や兵長に信用されてないっていうの!!」
ペトラさんは持っていた剣を振ってエレンを睨んでいる。
「えっ、あっいや……でもそういうことになっちゃいますよ?」
「……っく…ペトラ!そいつの歯を抜いてやれ!前歯と奥歯を差し替えてやれ!」
オルオさんが振り返り剣をエレンに突きつけながら言う。
「いや…エレンの言う通りだ。団長には簡単に我々を信用できない理由があったんだと思う」
エルドさんの声で全員がエルドさんを見る。
「どんな?」
グンタさんが尋ねた。
「信用できない理由なんて1つだ。巨人になる人間、もしくはそいつに協力する諜報員みたいな奴が兵団にいる…」
エルドさんの言葉に全員が息を飲んだ。

「諜報員…本当にそんな奴が…」
グンタさんが呟いた。
「少なくとも団長はそう確信しているはずだ。おそらくこの作戦を知らされたのは5年前から生き残っている兵だけだ」
「なるほど…そういうことか」
グンタさんは納得したように言った。

「そうに違いないな!分かったか?エレン、そういうことだ」
オルオさんはまるで自分が最初から分かっていたような口調で言った。
「うん、分かった。そういうことなら仕方ない…」
「はぁ……」
エレンは小さく声を漏らした。

「5年前、つまり最初に壁が壊された時に諜報員が入ってきたと想定して容疑者をそこで線引きしたんじゃないかな?」
「じゃ、ソニーとビーンを殺したのもそいつってことか…」
エルドさんが呟いた。
「はっ…私あの時それを団長に質問されたんだ」
ペトラさんの言葉で私は思い出す。


あの日、ソニーとビーンが殺された日に一緒にいたエレンと私に"君達には何が見える?敵は何だと思う?"
……そうか、あの質問。


「あの質問に答えられていたら本作戦に参加できたのかもしれないな…。…そんな者がいたとは思えないが…」
エルドさんが考えるように手を顎に置いた。
「俺は分かっていたぜ!でもな、そこはあえて答えなかった。お前らにはそれが何故か分かるか?」
オルオさんが言い出す。
「なんで?」
それをペトラさんが冷たく聞く。
「はぁ、なんだ分からないのか?まぁお前ら程度じゃ分からないだろうな。お前らはまだ俺の域に達してないからな」
オルオさんは自信満々に言う。
ペトラさんは呆れたような顔でオルオさんを見る。
「ねぇ、まだリヴァイ兵長の真似してるつもり?兵長はそんなこと言わない!」

オルオさんとペトラさんのやり取りを聞きながらふと視線をエレンへと移すと、唇を噛み締めていた。
「…団長は間違っていたと思うか?」
エルドさんの言葉に私は視線をそちらへ移し、先ほどあった女型の巨人のことを考えた。

確かにあの時、援軍に来てくれた先輩達は呆気なく女型の巨人によって殺された。
でも団長の判断は…私は間違ってないと思う。
団長は、調査兵団の仲間を切り捨ててまで壁の中の住人達を守ろうとしている。
私はエルドさんの言葉に首を振ることしかできなかった。
エルドさんと目が合い、頷いてくれた。

「エレン…お前はまだ知らないだけだがそれも今に分かるだろう。エルヴィン・スミスに人類の希望である調査兵団が託されている理由がな…」
「リヴァイ兵長があれほど信用してるくらいだからね!」
ペトラさんが微笑んで言う。
「それまで、てめぇが生きていればの話だがな」
オルオさんが鼻で笑うように言った。

その時だった……。
「うおおおおおおおぉぉぉっ!!」
生きてきてこんな叫びを聞いたことがない程大きな声が響き渡った。

「なっ…なに?」
突然の叫びに思わず耳を塞いだ。
「なんなんだ!!」
オルオさんが叫ぶ。
もう嫌な予感しか浮かんでこない。
まさか……女型の巨人の叫び?
こんな大きな声、女型の巨人以外に考えられない。

しばらくするとまた静かになった。
「なんだろう…すごく嫌な予感がする」
私は呟いた。
「……あぁ、俺もそんな気がした」
隣にいたエレンも呟いた。



そして青の煙弾が見えた。
撤退の合図だ。
「どうやら終わったようだ。馬に戻るぞ!撤退の準備だ!」
グンタさんが言った。
「だ、そうだ。中身のクソ野郎がどんなツラしてるか拝みに行こうじゃないか」
そう言ってオルオさんが立ち上がった。

私達は木の上でガスと刃の補給を始めた。
「本当に奴の正体が…」
「エレンのおかげでね!」
「俺は特になにも…」
「私達を信じてくれたでしょ?あの時、私達を選んでくれたから今の結果がある。正しい選択をすることって結構難しいことだよ!」
そう言ってペトラさんが笑っているのが見えた。

「おい、あんまり甘やかすんじゃねぇよ、ペトラ!こいつが何したって言うんだ?みっともなくギャーギャー騒いでただけじゃないか。まぁ最初は生きて帰ってくれば上出来かもな。だが、それも作戦が終わるまで評価できん。いいか、ガキンチョ!お家に帰るまでが壁外遠征だからな!」
オルオさんがニヤニヤしながら言う。
「わ、分かりましたって…」
私は困ったようにオルオさんを見て苦笑いをした。



全員が補給を終わった所で私達は立体機動で移動を始めた。
私達の前をグンタさんとエルドさんが飛ぶ。
「オルオ、ペトラ!お前ら2人共初陣でしょんべん漏らして泣いてたくせに立派になったもんだな!」
エルドさんが振り向きながら言った。
その言葉に私とエレンは驚いた顔をする。
「えっ?」
「キャーーーーッ!言うなよ!威厳とかなくなったらどうするの、エルド!!」
ペトラさんは必死の形相だ。
「事実だろ?ちなみに、俺は漏らしてないからな。エレン、なまえ」
「バカめ!俺の方が討伐数とかの実績は上なんだが?上なんだ、バーカ!!」
オルオさんも必死だ。
「討伐数だけで兵士の優劣は語れない!」
「うるせぇ、バーカ!!」
「ペトラさん、空中で撒き散らしたってことですか!?」
エレン…それは女の子に聞いちゃダメだよ。

「いい加減にしろ!お前らピクニックに来たのか?ここは壁外なんだぞ?…ちなみに俺は漏らしてねぇからな…エレン、なまえ」

その時、遠くから緑の煙弾が上がるのが見えた。
「おっと、きっとリヴァイ兵長からの連絡だ。兵長と合流するぞ!続きは帰ってからやれ!」
そう言うとグンタさんは近くの木に止まり、同じように緑の煙弾を空に向かって撃った。

私はリヴァイ兵長が撃ったであろう緑の煙弾を見ながら嫌な予感が更に広がった。
「ペトラさん……何となく嫌な予感がします」
「大丈夫よ!あと少しで壁外遠征も終わるから!兵長と合流するよ!」
ペトラさんは笑顔で私の肩に手を置いてくれた。
私は頷いて立体機動で飛んだ。


もっと早く気が付けば良かった……。




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