選ぶ道筋



私の横から後ろから悲痛に声をあげるみんながいる。
私は真っ直ぐリヴァイさんを見ていた。
するとリヴァイさんがこっちを振り返り、一瞬目が合った。
まるでさっき私が呟いた声が届いていたのだろうか。
そんな訳はない。あんな小さな声は届かない。
しばらく目が合うとリヴァイさんは私から視線を外した。

「全員耳を塞げ!」
リヴァイさんの突然の言葉に驚いたが私は急いで耳を塞ぐ。
するとリヴァイさんは信煙弾の銃を空に構えて放った。

辺りに「キーン」とする音が響いた。
リヴァイさんが放ったのは音響弾だ。
横の方で耳を塞ぐのが遅れたのかオルオさんが今にも倒れそうになっている。

「音響弾?」
エレンの驚いた声が隣からした。
「お前らの仕事はなんだ?その時々の感情に身を任せるだけだ。そうじゃなかったはずだ。この班の使命はそこのクソガキに傷一つ付けさせないよう尽くすことだ。命の限り…」
リヴァイさんはそのまま前を見て馬を走らせている。

"命の限り"
その言葉は私に深く突き刺さった。
そう、私達リヴァイ班の使命はエレンを守ること。
私が新兵でもエレンを守るという使命は変わらない。リヴァイ班にいるということはそういうことなのだ。

「俺達はこのまま馬で駆ける。いいな?」
リヴァイさんの声で私は愛馬の手綱をギュッと握った。
「了解です!」
最初に返事をしたのはペトラさんだ。
「駆けるって一体どこまで!?…それに奴はすぐそこまで…はっ…また、増援です!!早く援護しなければまたやられます!」
エレンは振り返って叫んだ。

「エレン!前を向け!」
「グンタさん!」
「歩調を乱すな!最高速度を保て!」
「エルドさん!……なぜ?リヴァイ班がやらなくて誰があいつを止められるんですか!?」
エレンの声が響いている。

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
後ろから女型の巨人を狙って増援班が突っ込んで行く声が聞こえた。
私は思わず振り返ると、突っ込んでいった人は女型の巨人に木に叩き潰された。
私は目を見開いて、そのまま視線を外して前を向く。

見てはいけない…見てはいけない…。
ひたらすら自分に暗示をかけながら愛馬を走らせる。

「っ…は!!また死んだ!助けられたかもしれないのに……」
隣からエレンの悲痛な叫びが聞こえる。

また後ろから立体機動のワイヤーを巻く音が聞こえる。
「まだ1人戦ってます!今ならまだ間に合う!」
「エレン!前を向いて走りなさい!」
ペトラさんの顔は真剣だ。
「戦いから目を背けろと言うんですか!?仲間を見殺しにして逃げろということですか!?」
「えぇ、そうよ!兵長の指示に従いなさい!」
「見殺しにする理由が分かりません!それを説明しない理由も分からない!なぜです?」
「兵長が説明すべきでないと判断したからだ!それが分からないのはお前がまだひよっこだからだ!」
「………っ」
「分かったら従え!」
オルオさんの言葉にエレンは唇を噛み締めた。


するとエレンはブレードをしまって自分の手を見つめていた。
そして口を開けて手を噛もうとする。
それはエレンが巨人になるときにする自傷行為。

「エレン!!」
「何をしてるの、エレン!」
私の声とペトラさんの声が同時だった。
「それが許されるのは貴方の命が危うくなったときだけ。私達と約束したでしょ?」
「エレン!」
私も思わず声をあげた時だった。
「お前は間違ってない」
前方から声が聞こえて視線をそちらへ向ければ前を向いたまま言う兵長の声だった。

「…やりたきゃやれ。俺には分かる。こいつは本物の化け物だ。巨人の力とは無関係にな…。どんなに力で抑えようとも、どんな檻に閉じ込めようとも、こいつの意識を服従させることは誰にもできない。……エレン、お前と俺達の判断の相違は経験則に基づくものだ。だがな…そんなもんに当てにしなくていい。…選べ。自分を信じるか、俺やこいつら調査兵団組織を信じるかだ。……俺には分からない。ずっとそうだ。自分の力を信じても、信頼する仲間の選択を信じても、結果は誰にも分からなかった。だからまぁせいぜい悔いが残らない方を自分で選べ……」

エレンはリヴァイさんの言葉を聞いて考えている様子だ。
また後ろから立体機動のワイヤーを巻く音がする。
きっと増援だろう。
エレンはその人達を振り返って見ている。
そして前を向いてまた口を開けた。

「エレン!!……信じて」
ペトラさんはエレンを真っ直ぐ見ていた。
「私達を信じて?このリヴァイ班のみんなを…」
私もエレンを真っ直ぐ見て、微笑んだ。

エレンは私達にとって希望の光だ。



「エレン!!ささっと決めろ!」
リヴァイさんがエレンを振り返って言った。
「……進みますっ!!!」
エレンの叫び声が響いた。
全員エレンを見ていた。


「うわぁぁぁぁぁぁっ!離せっ!」
女型の巨人に捕らえられたのかその人はそのまま木に投げられた。
私は唇を噛み締めてひたすら走る。

「目標、加速します!」
後ろからエルドさんの声が聞こえた。
女型の巨人が更にスピードをあげたようだ。
「走れ!このまま逃げ切る!」
リヴァイさんの叫ぶ声が聞こえる。

私は後ろを少し振り返る。
もうすぐ傍まで来ている女型の巨人に身震いする。
何てスピードなんだろうか。
早く…早く…早く…。




「ドンッ!」
後ろからものすごい音が聞こえた。
思わず全員が後ろを振り返った。

「撃てーーーっ!!」
エルヴィン団長の声が森に響いた。
その瞬間、一斉にアンカーがすごい勢いで女型の巨人に突き刺さった。

すごい音と煙だ。
私達は足を止めずそのまま馬を走らせた。

「はっ……」
思わず全員息を飲んだ。
「少し進んだ所で馬を繋いだら立体機動に移れ!俺とは一旦別行動だ。班の指揮はエルドに任せる。…適切な距離であの巨人からエレンを隠せ!馬は任せたぞ!」
そう言うとリヴァイさんはアンカーを飛ばして木に刺してそのまま立体機動で女型の巨人が捕らわれた場所へと向かっていった。

エレンと目が合う。
エレンは全員と目を合わせた。
「どうだ、エレン!見たか!あの巨人を捕らえたんだぞ!」
グンタさんの勝ち誇った声が聞こえた。
「これが調査兵団の力だ!舐めてんじゃねぇぞ、このバカ!どうだ、分かったか!」
オルオさんの罵声が飛ぶ。
「はい!!」
エレンがここで初めて見せた笑顔だった。



私も安心したように肩の力が抜けた。
でも…ここからが本番だ。
私はこの後を知らない。
女型の巨人を捕らえたかもしれないが簡単にはいかないだろう。
何が起こるか検討がつかない。

妙に胸騒ぎを感じた。
どうかこれ以上犠牲者を出さないように。
さっきまで私の前にいたリヴァイさんを想いながらもう少し馬を走らせた。





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