第57回壁外調査



そしていつの間にか壁外遠征の日の前日になった。

「いよいよ明日だな」
オルオさんが紅茶を飲みながら呟いた。
「そうだな。でも今回は行って帰ってくるのが目標だからそんか緊張する必要ないさ」
エルドさんの言葉にグンタさんが頷いた。
「そうだな。まぁ新兵は緊張してるんだろうな」
グンタさんの言葉でエレンと私に視線がいく。

「緊張はそりゃしてますけど…」
エレンは困ったような顔をして言った。
「私も緊張してます…」
「大丈夫!落ち着いてやればいいんだよ。今まで訓練した通りにやればいいんだから!」
ペトラさんの言葉に私は「はい」と言った。

そしてみんな明日のために早めにそれぞれの部屋へと戻った。
私も部屋に戻ればそのままベッドに寝転がる。
「ついに明日か…。明日までの記憶しか私にはないからこの後どうなるか分からないからな。…頑張ろう」
私は独り言を呟いた。

「コンコン」
部屋をノックされた音に気付けば、私は起き上がった。
返事のする前にもう部屋のドアが開く。
誰かはすぐ分かる。
「……リヴァイさん。ノックしてすぐに部屋開けるのやめて下さいよ」
私はリヴァイさんを見て言う。
「まずかったか?」
「今は着替えてなかったので大丈夫ですけど、着替えてたらどうするんですか?」
「…別に俺は気にならないが…」
リヴァイさんの一言にため息をした。
「リヴァイさんは気にならないかもしれませんが、私は気になりますからね!」
「そうか…悪かった」
リヴァイさんきっと悪いなんて思ってない。
今の表情は絶対申し訳ないって顔じゃない。

「もういいです。で、どうしたんですか?」
「あぁ。何となくなまえのことだから寝れねぇんじゃねぇかなと思って覗いた」
「なんですか、それ!私は遠足行く子供みたいに夜更かしなんてしませんって!」
「……えんそく?」
あぁ、ここでは遠足なんて言葉通じない。

「遠足は…なんでもないです!!とりあえず、私は寝れますから大丈夫ですよ!」
もう遠足について説明するのも面倒くさくなり、私はそのままベッドにまた寝転がる。
「…着替えてから寝ろよ」
「分かってますよ。リヴァイさんが部屋から出たら着替えますよ」
私は天井を見上げたまま言った。
「……明日無理するなよ。何かあればすぐ言え。じゃ、おやすみ」
リヴァイさんの言葉に私は起き上がれば、もうリヴァイさんは私の部屋から出て行っていた。

「……優しいんだが、冷たいんだか…。よく分からない人だな。……でも…」
私は首にかかるネックレスを握り締めた。




次の日はいつもより早く起きた。
寝れたけど変に緊張しているのか早めに目が覚めた。
私はいつもの団服に着替えた。
今日は初めての壁外遠征だ。
1人でも助けられるように……。。
私はただそれを願った。



鐘の音が鳴り響いた。
この鐘が鳴れば出陣の合図だ。
「付近の巨人はあら方遠ざけた。開門30秒前…」
私の前にリヴァイさんがいる。
横にはエレン。
私も一応新兵という理由でエレンと2人でリヴァイ班のみんなに囲まれるように真ん中にいる。

ふとエレンが横を向いたため私もそちらへと視線を向ければ小さな男の子と女の子がこちらを見ていた。
2人とも目を輝かせている。
チラリとエレンを横目で見ればエレンは微笑んでいた。
エレンの小さい頃もあんな風に目を輝かせていたのだろう。

「いよいよだ!」
その言葉で私は前を向く。
「これより人類はまた一歩前進する。お前達の成果を見せてくれ!」
「おぉーっ!!!」
手を挙げる者、ブレードを挙げる者。
周りは様々だけど、みんな威勢は一緒だ。

「開門始め!」
その声で前に立っている門が開いていく。
「進めーーーっ!!!」
エルヴィン団長の声で一斉に馬達が走り出した。

「第57回壁外調査を開始する!前進せよーっ!」

リヴァイ班のみんなの馬も走り出す。
私の乗る愛馬、へいちょうも元気良く走り出す。


少し走れば巨人の姿が見えた。
それを援護班が巨人を斬る姿が屋根の隙間から見える。
「オルオさん、あいつら…俺の同期は巨人に勝てますかね?」
エレンが隣にいるオルオさんに聞くのが聞こえた。
「あぁん?てめぇ、この1ヶ月間何してやがった?いいか、クソガキ!壁外調査ってのはな、いかに巨人と戦わないかにかかって……っ!!」
喋っている途中でオルオさんが舌を噛むのが分かった。
私はそれを苦笑いして前方を向く。

私の前を走るリヴァイさんのマントが風で揺れている。
その背中を見つめていた。

市街地を抜けると前の方からエルヴィン団長の声が聞こえた。
「長距離索敵陣形、展開!」
その声でみんなが自分の配置へと移動を始める。

どうかみんな無事で帰れますように。。



しばらく経った気がする。
信煙弾が上がるたびに私は唇を噛み締めた。
あの下では誰かが戦っている。
もう女型の巨人は現れただろうか。
確か女型の巨人に遭遇するのはアルミンだった。
アルミン…大丈夫かな?

「煙弾…緑、オルオお前が撃て」
「了解です!」
リヴァイさんの指示でオルオさんが緑の煙弾を撃った。

「報告します!口頭伝達です!」
右の方から馬に乗った伝達班の人がやってきた。
私はそちらの方へ目線を送る。
「右翼索敵壊滅的打撃!索敵一部機能せず。以上の伝達を左に回して下さい!」

右翼索敵壊滅……アルミンがいる方向だ。
でもアルミンは大丈夫だ。
ストーリー通りに進んでいれば頭を打つくらいだった気がする。

「聞いたか、ペトラ!行けっ!」
「はい!」
リヴァイさんの指示でペトラさんは左に伝えるために私達の場所から離れた。
その時黒の煙弾が上がるのが見えた。

黒の煙弾…奇行種が現れた時に放つ煙弾だ。
「エレン、お前が撃て!」
「はい!」
「なんてザマだ。やけに陣形の深くまで進入させちまったな…」
リヴァイさんの指示でエレンは黒の煙弾を撃った。


しばらく走ると目の前に大きな森が現れた。
「これが…巨大樹の森?」
私は思わず声をあげた。
私はここを進んだ先までしか分からない。
女型の巨人はもうすぐそこまで来ている。

「兵長、リヴァイ兵長!」
「なんだ?」
「なんだって、ここ森ですよ?中列だけこんな森に入ってたら巨人の接近に気付きません!右から何か来ているみたいだし、どうやって巨人を回避したり荷馬車班を守ったりするんですか?」
エレンは悲痛そうな表情だ。
「分かりきったことをピーピー喚くな。もうそんなこと出来るわけねぇだろ」
「えっ…なぜ…そんな…」
「周りをよく見ろ、エレン!無駄にこのくそデカイ木を…。立体機動装置の機能を活かすには絶好の環境だ。そして考えろ!お前のその大したことない頭でな。死にたくなきゃ必死で頭回せ!」
「はい!」
エレンはチラリと見れば必死で考えてる様子だ。

「なんだよこれ…ふざけんなよ」
オルオさんが小さな声で呟いたのが聞こえた。
周りのリヴァイ班のみんなをエレンは見回した。
そして私と目が合う。
「なまえ……」
私はエレンを見て首を振った。

その時黒の煙弾が後ろから上がった。
「黒の煙弾!?」
エレンが叫ぶ。
「すぐ後ろからだ!」
「右から来ていたという何かか?」
エルドさんが言う。
「お前ら、剣を抜け!それが姿を現すなら一瞬だ」
リヴァイさんが剣を抜くのが見えた。

立体機動で攻撃しようとしている同じ調査兵団の人が見えたかと思えば突然現れた巨人によって、その人は吹っ飛ばされた。

「……………!!」
そして走ってくる女型の巨人が現れた。
「走れっ!!」
リヴァイさんの声で馬を走らす、スピードを上げた。

「……っ!!」
私は思わず手が震えた。
そりゃアニメでは見てたけど迫力が全然違う。
すると女型の巨人は横から木をなぎ倒して突っ込んでくる。

私達を追いかけてくる。
「速いっ…。この森の中じゃ退避しづらい」
「追いつかれるぞ!」
グンタさんとエルドさんが叫ぶ。
「兵長!立体機動に移りましょう!…兵長!」
ペトラさんの必死な声がする。

「逃がすかぁー!!」
立体機動に乗った援護班がやってくる。
「背後より増援!」
ペトラさんの声に私も振り返る。

女型の巨人はアンカーをするりと避けてワイヤーを掴んでそのまま投げられた。
血飛沫が見えた。
「……ひっ」
私は思わず声を出して目線を外した。
「わぁぁぁぁぁっ!!」
援護班の人の声が聞こえ、私は震えた。

「兵長っ!指示を!!!」
ペトラさんの悲痛な叫びが聞こえた。
「やりましょう!あいつは危険です!俺達がやるべきです!」
オルオさんも叫ぶ。
「ズタボロにしてやる!」
エルドさんが剣を抜く音が聞こえた。

「兵長!!」
「指示を下さい!兵長!」
「このままじゃ追いつかれます!」
「奴を仕留める。そのためにこの森に入った。そうなんでしょ?兵長!」
「兵長!指示を…!」
「……リヴァイさん」

私から出た言葉はただリヴァイさんの名前だけで、それは誰にも聞こえない小さな声だった。




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