言えない言葉



シャワーの音が聞こえる。
俺は小さく舌打ちをした。
そんな小さな舌打ちですらこの部屋では大きく聞こえる。

雨が突然降ってくるとは思わなかった。
ここまで大雨で馬に2人も乗ればびしょ濡れになる。
壁外遠征も近いのに風邪を引く訳にはいかない。
俺はベッドに座ったまま何度目か分からないため息をした。


ただ、俺はあいつの笑顔が見たかった。
わざと俺の休みとなまえの休みを合わせた。
あいつの笑顔を独り占めしたいと思い始めたのはいつの頃だったんだろうか。
手を伸ばせば届く範囲にいてほしいなんて子供じみたこと思うようになってしまったのは…。


「リヴァイさん、シャワー浴び終わったのでリヴァイさんも早くシャワー浴びて下さいね!」
なまえの声が聞こえてそちらを向けば俺は驚いた。
バスローブに身を包むその姿に…。
「……あぁ」
俺はなまえから視線を外して、ベッドから立ち上がりシャワー室へと向かう。
「おい、先に寝てていいからな」
俺はその一言を言えば脱衣所に入った。

服を脱げば脱衣所の扉の横になまえのワンピースがかけてあった。
雨で濡れてしまったのか湿っている。
その横に自分の服をかける。
俺はそのままシャワー室に入り、頭からシャワーを浴びた。

首元にかかるネックレスを俺は握り締めた。
これを買ったのはただの独占欲だったのかもしれない。
お揃いなんて気恥ずかしいのにお互いの名前まで彫って…自己満足なのだろうか。
なまえはどう思ってるのだろうか。

俺はそこで考えるのをやめて簡単に頭と体を洗えばそのままシャワーを止めてシャワー室を出た。

タオルで体を拭いていた時だった
「ゴロゴロゴロ」と大きな雷の音がした。
「キャッ…」と悲鳴が聞こえて俺はバスローブを急いで着て部屋へと戻る。

「おい、大丈夫か?」
俺はなまえの傍へ行くとなまえはベッドの上で縮こまっていた。
「す、すみません。雷苦手なんです。子供じゃないのに…」
なまえは苦笑いをしていた。
俺はなまえの頭に手を伸ばして撫でた。
「本当、お前はガキだな。雷なんて音だけだろうが。別に怖がる必要ねぇぞ」
なまえは「そうなんですけど…」と縮こまったまま言った。
「雷はすぐおさまる。少しの間我慢しろ」
俺は縮こまったままのなまえを後ろから抱き締めた。
「リ、リヴァイさん…あの、これは……」
「ちょっと黙ってろ」

静かになったなまえを俺はギュッと抱き締めた。
雷は鳴り続けていたが音は遠くなっているようだ。

いつか、こいつは突然元の世界へ帰るのかもしれない。
帰らないでくれなんて言えない。
いつ死ぬか分からないこの世界。

"世界は残酷だ"
その言葉が本当に合っている。

なまえは自分の世界で幸せになるべきだ。
…俺の想いは絶対に言えない。


「あの…リヴァイさん?」
おずおずと声を出したなまえに俺は我に返り、なまえを離した。
「悪かった。…もう雷の音も止んだから大丈夫だろう。もう遅い…。ベッドはなまえが使え。俺はその辺で寝る」
俺はベッドから離れようと腰をあげた時だった。
バスローブの腰辺りが掴まれた気がした。
俺は振り向けばなまえが俺のバスローブを握っている。

「あの…その辺なんかで寝たら風邪引きますよ?だから…ベッドで寝て下さい」
「……それは誘ってるのか?」
「ち、違いますよ!!誘ってなんかないです!私がその辺で寝るのでリヴァイさんがベッドを…」
なまえは顔を赤くして焦っている。
そんななまえが可笑しかった。
「…仕方ねぇな」
俺はベッドに横になって半分スペースを空ける。
「ほら、これならいいだろ?」
「……いや、あの…」
なまえは顔を赤くしたまま驚いている。
「何もしねぇよ。早く寝ろ。明日は朝一で帰るからな」
なまえは納得したのかおずおずと俺の横に寝転がった。

「あの…なんかいろいろすみません」
「なんで謝るんだ。謝る必要ないだろ」
俺はなまえに背を向けたまま言った。
「…リヴァイさん、おやすみなさい」
「あぁ…おやすみ」

それからしばらくしたらなまえの寝息が聞こえ始めた。
今日はきっと疲れただろう。
訓練よりもきっと…。

俺はなまえの方へ寝返りをうった。
「男が横に寝てんのに全く危機感はねぇのかよ」
俺は独り言を小さな声で言った。

俺の方を向いて寝ているなまえの頭を撫でた。
「ん…っ」
俺は起こしてしまったかと思ったが身を少しよじろいただけで起きなかった。
俺は安堵して、またなまえの顔を見る。

「俺の前からいなくなるな…」
聞いてないから言える言葉。
俺は静かになまえの額に唇を落とした。





朝、目が覚めると隣にいるなまえはまだ気持ちよさそうに寝ていた。
俺はなまえの顔を見ていれば目が開いた。

「ん…あれ?…リヴァイさん?…おはようございます」
目を擦りながら起き上がれば辺りを見回している。
「目、覚めたか?」
「はい…。えっと…わっ!すみません!」
なまえは自分のバスローブ姿に顔を赤くしてそのままベッドから降りて脱衣所へと走って行った。
俺はそんななまえを見ながら苦笑いをして起き上がり、ベッドの縁に座った。

昨日のワンピースに着替えてなまえが戻ってきた。
「乾いていたか?」
「あっはい、乾いてましたよ」
「そうか…」
俺も着替えようと思い、脱衣所へと向かった。

着替えを済ませて部屋に戻りなまえに声をかける。
「おい、帰るぞ。早めに帰らねぇとあいつらに何言われるか分からん」
部下達のニヤニヤした顔が思い浮かび、ため息しか出ない。
「そうですね。帰りましょう!」

俺達は宿舎から出て、馬が待ってる場所へと向かった。
「なんかいろいろありましたけど、とても楽しかったです。ありがとうございました!」
なまえは笑顔で言った。
「あぁ。俺も楽しかった」
短くそう言えば、なまえは微笑んだ。
「良かった。リヴァイさんが楽しめてたなら安心しました!」
「…つまらなそうだったか?」
「いえ、リヴァイさんってあまり表情に出さないから分からないんですよ」
なまえはクスクス笑いながら言う。
そんなに俺は表情に出せてないのだろうか。
「それは、悪かった…」
「早く帰りましょう!みんなが心配してますよ!」
なまえは俺の手を引っ張り、小走りをする。
「おい…」
掴まれた手に俺は驚いたがギュッと握った。



2人で馬に乗り、古城へ戻ると案の定ニヤニヤしながら俺の部下達が玄関に揃っていた。

「お帰りなさい、リヴァイ兵長!なまえ!」
笑顔で迎えてくれたのはエレンだけだった。
「兵長、夜には帰るって言ってましたよね?」
「まぁペトラ、あの雨じゃ帰れねぇよ」
「無事に帰ってきたんだからいいだろ」
「なまえ後で話聞かせろよ!」

好き勝手に言いやがる俺の部下達にため息をした。
「おい、お前ら早く仕事しろ!」
俺の一言でみんなそれぞれ仕事へと戻って行った。

「全くあいつらは…」
「何となくこんな風になることは想像してましたけどね」
俺はなまえの頭に手を置いた。
「今日はゆっくり休め…」

俺はそのまま頭から手を離して自室へと向かった。


壁外遠征まであともう少し。
俺は残りの仕事をするために自室に籠る。
昨日の出来事を胸にしまって。




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