小説 | ナノ

▼ 狂気
※黒病みナルト
ナルトファン注意
ドロドロ微エロ



脱出に、成功したと思ったのだ。

ナルトと一緒に今日位楽しく腹を割って飲もうと酒を飲み交わし、こっそり手に入れた睡眠薬を隙をついて入れた。
ありきたりの常套手段だが確かにナルトは全く気づいていなかったし抜かりはなかった。ナルトが眠りに落ちた所も見届けた。
なのに。

夜道を全力で走っていると路地に急に引きずり込まれ、腕の先の加害者を見るとさっき寝ていたナルトである事にぎょっとする。

「何してんだよサスケ」
「お前、さっき・・」
「ああ、あれ?影分身だってばよ。術解くとおれも眠くなっちまうけど。お前今日様子がおかしかったから念のため分身にしといたんだってば。それより何処行くんだよ」
「・・ってめぇの知ったことか!・・はなせ!」
「また木の葉抜けんの?」
「・・・・っはなせ!」

言い返す威力を失いながらもどう逃れようか思考を巡らせていると、首の後ろに激痛が走った。
手刀でやられたんだと気付いた時にはもう体のどこも動かなくなっていて、すぐに意識を手放した。




頭がクラクラする。
うすぼんやり瞼を開くとまたナルトの部屋だった。

「あ、起きた?」

覚醒しきらない頭を押さえ、向こうで何か用事をしているナルトを見つけると、ナルトはすぐにそれに気付いて声をかけた。


窓には床まで届くカーテンがぴったりと閉められ、深夜の2時だけあって近所からは物音一つしない。
代わりにその部屋の主の裸足のぺたぺたした足音と、コトンと机に置いたカップの音がよく響いた。

月の代わりに高そうな白熱灯が部屋の隅々を照らす。
先日片付けたせいで綺麗に整った広い部屋のフローリングを踏んで、ナルトはソファーの前にもたれ掛かる捕まえたものに近づくと目線を合わせるようにしゃがんだ。

「お前バレバレ。もっと上手くやれよ」

フンと笑ってそう言うナルトはそれから目を少し伏せ、悲しそうな顔をしてその後を続けた。

「逃げねぇって言ったくせに・・」

感情の静かな起伏に僅かに身構える。
そんな事オレがいつ言った。
聞こえたのならそれはお前の幻聴だ。

ナルトが膝を抱えた。
怒り出すのか泣き出すのか分からない。
次の行動を待っているとナルトが口を開いた。

「なぁ、お前一回でも考えた事あんの?里抜け止められなかった時のおれの気持ちとか、その後三年間どんな思いで修行したかとか・・・お前が居なくなるって考えただけで・・・・狂いそうなんだよぉ・・・・」

膝に頭を押さえつけたせいで語尾が潰れた声でナルトが呻いた。

考えた事があるも何も、訳が分からない。
一体こいつはオレの何にそんなに惹かれて何に期待しているんだ。
どうせ初めての仲間だったとか、オレのちょっと見せた優しさに異様に思い込みを膨らませて、馬車馬のように狭い視野が修正を利かなくさせているだけだ。

「逃げないなんて一言も言ってねぇんだよ。お前がうざかったんだ。監視が必要ならもう監視役を代えろ。・・・分からないならはっきり言ってやろうか。オレはな、お前が嫌いなんだよ」

黄色い後頭部がピクリと動いてゆっくり顔を上げた。
真っ赤な嘘を口にした気がして、でもまんざら完全に嘘でもなかった。
人の気持ちなんて言葉一つでどれくらい伝わるんだろう。
言葉通り受け取って欲しいようで分かって欲しいようで、でももういい、早く見放して諦めろと思う。

ナルトがどう受け取ったのかと見ると、意外に傷ついた様子も見せずに言った。

「でもお前どうせ監視役代えたって逃げんだろ」
「逃げるって言ったら?」

正直に返してしまった事を後悔しかけた時、ナルトが言った。

「殺してやるよ」

表情が全く変わらなかったせいで、言葉の意味を汲み取るのに少し時間がかかった。

「お前をまた失う位なら殺してやるってばよ」

言葉ひとりだけが重かった。
無意識に後退すると腕がつっぱり、いつの間にか左手を掴まれていた事に気付く。
引っ張ってもピクリとも掴む手を動かさない、ナルトの顔が近い。

「はなせ・・」

言う事を全く聞かないのが分かっていて言うと声が上擦ってくる。

「はなせってんだよナルト!」

逃げたい。この場から早く離れたい。
その事ばかりが頭を支配する。
もう限界だ。うんざりだ。
殺す事も殺される事も怖くはないのに今はナルトの途方もなく膨れ上がった感情の方が重くて、それはぶつける場所を求めて目の前でさ迷っていた。

「もぅ・・」

涙声になったのが分かって目を逸らす。

「また泣いてんの?サスケ。最近泣き虫になったなぁ。前は涙なんて死んでも見せねぇって位お高くとまってたのに、何かしおらしくなっちゃってさ。・・な、サスケ・・前みたいに、されたい?」

宝石のように光るブルーの瞳にそう囁かれて、ゾクリと千鳥でも水でもない何かが全身の皮膚の表面をビリビリと走った。



くるってる。

狂いそうだとナルトは言った。

大丈夫だナルト。お前はもう既に正気じゃない。
お前の方こそ昔はそんなんじゃなかった。
人の為に戦うと強くなれるんだと、敵との間に立ちはだかって背を向けるお前はあの頃のオレにとって、口には出さなかったけれど、嫉妬する位格好良かったんだぜ。
お前は力だけ異様に強くなって心は酷く弱くなった。
仲間だと言った奴を傷つける、お前はそんな奴じゃなかった。

なぁ、お前は今のこの状況を見てもまだあの頃に戻れると思ってんのか?

「二度と手に入らねぇ物はあるんだよ。イタチのように・・てめぇら木の葉が嬲り殺したイタチのようにな・・」

自分の言葉のせいで憎しみの湧き上がってきた声でそう言うと、一瞬驚いた顔をしたナルトに何もされないかと思ったのも束の間、避ける間もなく勢いよく肩を掴まれて床に叩きつけられた。
打ち付けた後頭部の痛さに目を瞑ってから開くと、そこには怒りで我を忘れたかのようなナルトが居た。

「うるせぇってばよ!もう復讐なんかうんざりだ!そんなに復讐がしたきゃあな!・・木の葉でも火影でもおれでも、好きに殺しゃあいいだろ!」
「は・・っん!」

歯が唇に当たって痛い位の口付けだった。
侵入した舌に蹂躙されてぐぢゅという唾液の音が響く。
乱暴すぎるそれに抵抗しようと思ってもその勢いに抗えなかった。
空いた手で殴りつけると暫くもみ合いになるが、上を取られた状態からは優位には立てない。

押さえ付けられた腕が痛い。
蹴り返されたスネもジンジンして、両手首は血が止まってるんじゃないかと思った。

ナルトは怒りをぶつけているというより恐怖から必死に逃げているように見えた。


何が欲しい。
オレは何も持っていない。

餓死寸前の奴が狂おしく届かない食料に手を伸ばすように何かを必死で求めているのは分かっていて、でもそれをオレに求めている限り決して手に入らない事もオレには分かっていた。

ナルトはこんな奴じゃなかった。
オレの言う筋合いでもないけれど。
だって元凶はオレだ。

力じゃどうにもならなくて、でも言葉でもどうしようもない。

ふわりと柔らかい金の髪が顔に触れる。
ナルトが歯で服を引き千切るとビリビリと布の裂ける音が生々しく部屋に響いて、恐怖心にそれを聞きながら白い天井を見上げているとはだけた首筋を強く噛まれた。

「ぃ・・あっ」


治らないんじゃないかと思う。
狂ったようにオレを追い求めるナルトに、完全に掴まってしまったら危ないと分かっていたのに。

「サスケ、もう任務には行かなくていいってばよ。抜けようとした事、ばーちゃんにも報告しとくから・・」
「・・・っ」


ここに昔のオレは居ないように、昔のナルトはもうここには居なかった。

何がそんなに変わったんだ。
たった3、4年の事なのに。













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