森山の白昼夢の早朝らへんの話。






風を感じて目を開けた。

肌には少しぬるい風を感じて、ぼやける視界には一面の緑とキラキラする光。
それと、誰かの影。

大きな手に額からあたまにかけて撫でられて、気持ちが良い。
たまに首筋に手をピタッとつけられるけど、いやらしい感じじゃなくて、体温を測っているような…
この人は誰なんだろう。


「…誰?」
「葵!気がついたか!?」
「……え」


ポロッと口からこぼれた呟きに反応して聞こえてきたのは良く耳になじんだ森山先輩の声で。ぼやけた視界から回復して上を見上げれば珍しく焦ったような顔をした先輩の顔。
というか先輩の顔が上にあるってどういうことですか…


「あー、気がついて良かったー…肝が冷えた…」
「…あの」
「ん?」
「…今どんな状況で…?」
「覚えてないのか?デート中にお前が倒れたんだよ」


なるほどなるほど。デート中ですか。デート中…デート……


「……デート?」
「デート」
「デートってあれですよね付き合っている彼氏彼女という関係の男女が一緒にお出かけして更に親交を深めあうコマンドのことですよね」
「よくわからんが付き合っている俺達が出かけるのはデートと言うと思うぞ」
「付き合ってる!?」
「ああ」
「…誰と」
「俺と」
「…誰が」
「葵が」


思考停止。頭が真っ白。何も考えられないとはこういうことをいうのだろうか。


「ええええええええ!?」


勢いよくガバリと起き上がれば…というか私は寝ていたのか。
待てよ。寝ていた。寝ていて森山先輩の顔が上にあってちょっと近くて…?そういえば頭の下にはちょっと硬めの感触がしていて……
もしかして膝枕!?私森山先輩に、"あの"女子大好きで通っているスケコマシに膝枕されていた!?
あ、ありえない!アリエナイ!ありえない!!大事だからもう一度言うありえない!!

というか考えたくなかったけど私と!森山先輩が!付き合ってる!?
天地がひっくり返ってもありえない!無い!!冗談じゃない!!
思わず両手を頭にあてて唸る。ありえない。
今来ている服がお出かけする時の一張羅だなんてありえない。
顔を触ればうっすらメイクしているなんてありえない。

だって私は、いつもいつも女子をナンパしまわってエロ本とかTE○GAとか持ってきたり部の評判を落とすようなアホをシバき倒していて恋愛フラグなんてどこのどこにも立ったのを見た事が無い!!
そればかりか、こっこここ告白なんてしてないしされたこともない!!覚えが無い!!

もう一度言う、ありえない!!

心配そうな顔をして「大丈夫か?やっぱり今日は家に帰ってまた出直そう」とか優しく微笑む先輩なんて見た事が無い。し、見たくなかった。
優しく頭をなでてあまつさえ手を握ってくるなんて知らない。ありえない…!
そもそも森山先輩からは水城と名字で呼ばれていたのにいつ葵なんて名前呼びになった…!


「葵」
「はははははい!?」
「こっち向けって」
「ええいやあのですねその」
「いいからこっち向く」
「…ハイ」


有無を言わせない声に思わずベンチに座り直して体を少しだけ森山先輩の方へと向けた。顔は見れないので悪あがきに伏せたままである。
そのまま黙っていれば額にコツンと温かい感触…というか間近に先輩の目が。えっまってどういうこと。


「うーん…熱は無いみたいだが、今日はもう帰ろう。送って行くから」
「あ…はい…」
「…寂しそうな顔するなよ」
「は?」
「今日は短い逢瀬だったが、俺達は結ばれた運命だ。また次のオフに出かけよう」
「………」


正直鳥肌が全身に立ちました。今すぐ目の前の男を張り倒して帰っていいですか。というか運命とかどこの緑頭の化け物シューターですか。混乱の連続でそろそろ我慢の限界なんですがいつになったら手出してもいいですか。今すぐ目の前の森山先輩らしき男を殴ってもいいですか。

頭の中で色々考えを巡らせてどうやってこの男の始末をつけようか考えていて油断した。
いつの間にか後頭部に添えられた手によって私の逃げ場は失われていて、気づいた時には後の祭り。
つまり。

キスされた。


ちょっと待て私ファーストキスなんですが本当にこの男殴りたいんですがそして股間のものを踏みつぶしてやりたいんですがむしろそれだけじゃこの怒り収まるとは思わないんですが今私を止められる人がいないから暴れだしたら止まらなくなりますが良いんですか良いですよねよしこいつ殴るあああああああああああああ!!!!
ぐるぐるとどうやって制裁を下してやろうかと考えれば考えるほどもやがかかって行くようで、最後にはなにも考えられなくなって私の意識はフェードアウトした。






「はっ!!夢!?」


パチンと弾かれたように意識が戻って勢いよく起き上がればそこは見慣れた私の部屋で。つまり今まで見ていたものは夢なのだと瞬時に理解ができた。
理解はできたが、解せない。


「なんっで森山先輩なんかとキスする夢みるかな…」


うわああああああと頭をベッドに押し付けて自己嫌悪に陥る。そんなに私は男に欲求不満なのだろうか。むしろ男にはこりごりしているはずなのに。
ちらりと時計を見ればそろそろ起きる予定の時間だ。今日も重労働の部活が待っている。
意識を切り替えていつものように学校に行かなくては。……ただ、夢の中でやらかしてくれた森山先輩には悪いが今日のシバきは2倍になるかもしれない。



----------
フォロワさんのサイト200万打のお祝いに贈ったものです。

册さんサイト200万打おめでとうございます。
そしていつもいつも素敵な小説を読ませていただきありがとうございます。
吸血鬼パロや企画のネタなど一部こちらの完全な無茶振りにも応えてくださる册さん、これからもどうか仲良くしていただけたらな、と思います。
top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -