春が過ぎ去り梅雨へと移行していくこの5月の時期。
今日は久しぶりに太陽が仕事して、授業中に思わずうたた寝してしまうような、ぽかぽか暖かい日であった。
そんななか監督から言い渡された部室&器具庫掃除の令。
なんでも、行事で学校側が体育館を使用していて使えないのと、それに伴って監督も部に顔を出せないからたまには部員総出で掃除でもしておけ、らしい。

掃除は良いことなのだがマネージャー以外回りは男子高校生。
女子マネージャーが普段立ち入らない部室や更衣室は当然汚い。

汚いどころか、去年大掃除した時にはエロ本が見つかった。
伝統と格式のあるバスケ部の神聖なる部室で卑猥物が見つかるなんて本来あってはならない事なのにもかかわらず、だ。
急遽マネージャー主体で寮にも抜き打ち検査をかけてエロ本というエロ本を一冊残らず見つけ出して処分したのはバスケ部の苦い思い出となっている…。

まあ健全な男子高校生達だし、今年は寮の部屋とかプライベートな所なら見逃してあげても良いかなと思いつつ、人海戦術で男共をこき使って器具庫と二軍以下の更衣室の掃除を何事もなく終えた。

残るは一軍、レギュラーの更衣室。





「癒しが欲しいいいい!!!」
「な、何事!?」


順調に掃除が終わって、残るは一つだと機嫌良く軽やかに歩いていると前方の部屋から響いてきたのは叫び声。この先にはレギュラーの更衣室しか無く、声の主はおそらく森山先輩のようだけれど…
隣を歩いていた中村と何事かと顔を見合わせた。


「ねえ中村、あの声って」
「…森山先輩ぽいけど。また黄瀬と騒いでるんじゃねーの?」


またかと思いつつ、二人で足音を潜めて扉の近くまで寄った。
耳を澄ますと部屋のなかの会話がさっきより鮮明に聞こえてきた。


「潤いが!可愛い女の子が足りない!!」
「うるせー黙れ森山。つか女子ならマネージャーの水城がいるだろ」
「水城先輩はノーカンっスよ!可愛い女の子じゃなくて怖い鬼マネージャーっス!」
「黄瀬の言う通りだ。それに笠松も水城には赤面しないだろう」
「あー、何故か他の女子よりは話しやすいな…」
「つま(り)女子カウントに入ってないってことっすね!!」


ミシッ

おっといけない思わず手に持っているバケツの取っ手を潰す所だった。
あの野郎共聞いてれば鬼マネージャーとか女子カウントに入ってないとか言いたい放題言いやがって…
とりあえず後で言い逃れ出来ないように携帯で録音だけしておこう。乙女の心を踏みにじる馬鹿共に同情の余地は無い。
だいたい笠松先輩が私に対して他の女子より話しやすいと思うのは一重に私の努力の賜だ。所作を笠松先輩相手に女を意識させない程度に変えて、そしてしつこく話しかけて一年間かけてやっと慣らしたのだ。それを忘れたとは言わさないぞ笠松許すまじ。

おっとまたバケツの取っ手を潰す所だった。さっきから中村の顔が青くなっていってるのは気にしない気にしない。


「というわけでナンパに行こう!」
「また?まだ懲りてなかったのか」
「チッチッチッ、甘いな小堀。俺は一度や二度の失敗でめげたりはしない」
「失敗って数えきれないぐらい何度もしてるじゃないスか…」
「黙れ小僧!!ホモデルめ!!」
「黄瀬はホモデ(ル)だったのか!」
「違うっス!普通のちゃんとしたモデル!!」
「勝手にしろ、俺は知らん…」
「そう言うなよ笠松ぅー。お前だって可愛い女の子に「先輩!お疲れさまです!」ってタオル渡されたりしたいだろ?」
「裏声キモイ」
「そんぐらいなら俺のファンの子達もやってくれますよ?」
「これだからホモデルは!!」
「黄瀬はホモデ(ル)だったのか!」
「違うっス!!!というかこの流れさっきもやった!!天丼なんて美味しくないっス!」
「黄瀬のファンの女の子達はお前の事しか眼中に無いだろう。俺達はオマケだオマケ。それよりちゃんと俺の事を見てくれる可愛い女の子に癒されたい。そして最終目標は…ヤりたい!!」




メキィッ!!!

おっといけないバケツの取っ手にヒビが入ってしまった。
可愛くタオル渡してもらいたいだあ?
こちとら仕事でタオルやゼッケン洗って干して畳んですぐ使えるようにして休憩に合わせてドリンク作ってボトル洗って大会じゃ個人負担でレモン蜂蜜漬け持ってってその他黄瀬ファンの規制とか雑務その他諸々に奔走してるというのに…

いや、それより最終目標がおかしい。ヤりたい?つまり性欲処理?ただそれだけのために女の子が欲しいだ?
ふざけるなよそのご自慢の棒ちょん切ってすりつぶしてお前のドリンクに混ぜてやろうかこのくそ野郎共!!


「うわ最低っス」
「見損なったぞ森山…」
「うるさいうるさい!黄瀬はともかく笠松!お前だってそういう欲求はあるだろう!!この前お前の部屋で素人もののAVあるの見たぞ俺は」
「は、はぁ!?」
「小堀!お前はメイド系エロ本!早川!お前は新妻系エロ本があるのを俺は見つけた!」
「もももももも(り)山先輩!?」
「いつのまに…」
「つーか早川先輩意外っス…マニアックっスねぇ」
「う、うううう(る)さああああいいい!!!」
「笠松?おーい笠松ー?」
「………」
「森山、笠松動かないんだが」
「ちょうどいい。そのままにしとけ」
「つーか森山先輩!俺はともかくって心外なんスけど!!」
「黙れホモデル!!」
「だから!!ホモデルじゃなくて!!普通のモデルって!!さっきから言ってるじゃないっスか!!ノーマルっスよノーマル!!」
「じゃあなんだ、お前童貞なのか?」
「そ!…そ、れ…は…」
「言え」
「………シたことないっス」
「…………」
「…………」
「………悪かった」
「森山先輩なんて嫌いっスううう!!!」


うわあああんん!!なんて黄瀬の泣き声が聞こえる。大方小堀先輩に泣きついたんだろうな、今笠松先輩フリーズしてるみたいだし。
思いもよらずレギュラーの好みと未経験を知ってしまってなんだか罪悪感が沸いてくる。


「ちなみに中村の好みは?」
「………は?」
「エロ本の好み」
「……言うわけないだろ馬鹿」


罪悪感は沸くけれども溢れる好奇心には負ける。好奇心のままに中村に聞いてみるとペシッと頭をはたかれた。ちょっと痛い。


「そんなお前らに良いものを持ってきた!!」
「もう俺以外まともに聞いてないけど」
「これを見よ!!題して女をオトしてヤれるテク!!」
「……雑誌?」
「エロ本の中にナンパ術の特集があってな」
「…森山、お前去年の騒ぎ忘れたのか?」
「大丈夫だ小堀、ようはマネージャーに見つからなければ良いんだ」
「そういって去年見つかっただろうに…」
「あれは先輩の隠し場所が悪かったんだ。俺は考えた。ロッカーに入れずにこうして鞄の中に入れてタオルを被せておけばさすがにあのマネージャーに見つかることは無い」


ほう。
それは。
それはそれは、良い事を聞いた。

ガチャリ

扉を開けて中に入れば、硬直した笠松先輩と両膝に黄瀬と早川をくっつけた小堀先輩、そして扉が開く音に反応して此方を向いた森山せんぱ…いや女漁り野郎。


「ふーん…」


プライベートな空間は勘弁しようと思ったけど、やっぱりやめた。
今後の部内の風紀の取り締まりの時にでも、鞄の中の隅々まで調べてあげようかな。
あと寮の部屋の抜き打ち検査も絶対やる。やるったらやる。


バサッ。


雑誌が森山先輩の手から滑り落ちた。
先程先輩が熱く語っていた内容と、ちらっと見えた雑誌の煽り文。
これで簡単に女をオトせる!10のテク!ナンパというか、女の子とヤりたい男が買う…エロ本の部類のようだ。
証拠発見。現行犯で逮捕。


「あ、いや、水城、これはだな…!」


弁明の声を無視して視線を床の雑誌から持ち主の男へ。

至極冷やかに。


「つまり先輩は」


ゆっくりと口をひらく。
ゆっくりと、視線の前の獲物へ歩み寄る。


「女はただヤるためにしか見えないと?」


足下の雑誌を掴んで一文を指差す。実体験!簡単に女とヤれました!目の前の顔は青ざめ一言も発しない。
視界の端に写る黄瀬や早川、小堀先輩に笠松先輩も顔を青くして何も言わない。
いや、何も言えない。


「お前ら」


以前もこんなものを発見して大目玉をくらった筈なのに馬鹿共はまだ懲りてないらしい。
にっこりと微笑み掴んだ雑誌の上を両手で持ちそして


「覚悟はできてんだろうなぁ…?」


ブチッ、ビリビリビリッ!!!

渾身の力を込めて雑誌を真ん中から破り捨てる。表紙は巨乳な美人なおねいさんだった。ごめんね、おねいさんに罪は無いんだ。良いおっぱいだね。
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