ペルソナ トリニティ・ソウル 神郷慎
最終回らへんの話







「おかえり」
「…ただいま」
「慎…諒さんは」
「………くじらの所に、行った」
「………」


慎は帰ってきた。
一人で、神郷の家の玄関に座り込んで、動こうとしない。


戦いは終わって、アヤネはいなくなった。
たぶん、もうリバース事件も無気力症も起こらない。
でもその代償として、いろんな人がいなくなった。

結祈も、マレビト達も、慎達の両親も、映子さんも、叶鳴も…諒さんも。



いなくなった。



戦いを終えて家に帰ってきた慎はボロボロで、目元が赤く腫れて憔悴しきっていた。
洵がいなかったけど、大事をとって今日は病院に入院らしい。
真田さんの指示だ。
全部終わった後、神郷の家で三兄弟の帰りを待っている私に真田さんから電話で教えてもらった。
諒さんがくじらの所に行って、いなくなってしまったことも本当は知っていたけれど…慎から聞くまでは信じたくなかった。


…諒さん、あなたの大切なものは守れたけど。あなたがいない。
それはとても悲しい。
それはとても、私にとって、あなた達三兄弟が揃っているのが幸せだった私にとって、辛く悲しい。



「名前…」

座り込んだまま動かなかった慎は、すぐ後ろにいる私の方に座ったまま振り返るとすがるように手を伸ばす。
私は抵抗しないで、そのまま慎にされるがまま。

「慎…」
「いるよな、名前は、名前はちゃんと、今、ここにいるよな」
「…いるよ」

泣き虫な慎はまた目元に涙をためて、溢れさせて、止まらなくなって、グシャグシャの顔になって。

たまらなくなって、慎にすがって、抱きしめて、涙があふれてきた。
二人で泣いて泣いて泣いて、涙が枯れるまで、二人で抱きしめ合ってずっと泣いた。




私達は結局、世界の大きな大きな力に抗うことはできない。
ペルソナという異質な力を持っていても、死から逃れることはできずに。
互いに身を寄せて、やがて訪れる死を迎えるまで。
地べたを這いずり回って、泥水を啜って、がむしゃらになって、命の焔が尽きるまで、生きていくしかないのだ。




神様なんていやしない




いつのまにか傍におちていたくじらの羽は、触れた瞬間に淡く消えていった。