ふわり。

すん、と軽く鼻から空気を吸うと花の優しい甘い香り…名前が使っている柔軟剤の香りがした。
閉じていたまぶたをゆるゆる開けると、ぼやけた視界の目の前には右側をベッドにつけてこっちを向いて横向きになって目を閉じてすやすやと眠る名前。


ぱちり。ぱちり。まばたき二回。


…確か覚えている限りだと名前はキッチンでご飯を作っていて、時間をもて余していた私はベッドでゴロゴロしていて…そこからの記憶がない。
そうか、私は寝てしまっていたのか。

頭だけ動かして体の方を見ると、私に掛け布団が掛かっているのに名前には掛かっていなくて、むしろ掛け布団の上に寝てしまっている。
多分、布団を掛けた後にコロリと横になっていたらそのまま寝てしまったんだろう。

すぅー、となるべく音がしないようゆっくり、大きく息をすって、音がしないよう、ゆっくり大きく息をはく。体に酸素が行き渡る感じがして気持ち良い。

頭と目が幾分かスッキリしたところで、自分の体を起こして名前の下敷きになっているかわいそうな掛け布団の救出にかかる、同時に三咲がベッドから落ちないよう体を支えるのも忘れずに。
起こさないように慎重に引っ張ると案外簡単に外れて、掛け布団は無事に自由の身になった。名前はというと今だすやすやと眠ったままだ。

お馬鹿さん。心の中でそう呟いて左頬を人差し指でツン、とつついてやる。あら、結構柔らかいのね。クセになりそう。

感触を楽しんでいると名前の体が自分より冷たいことに気がついた。布団をかけていなかったのだから当たり前だ。

再び体をベッドへ横たえて、布団を被る。体が冷えている名前を抱き寄せて足を絡めると冷たさが温まった体を襲う。
布団に入れて、更には温めてあげているのだから、駄賃ぐらい貰ったって別に良いだろう。自分の中でそう勝手に結論づけてさっきその柔らかい感触を楽しんだ頬にちゅ、とキスをする。ハリがあって、柔らかい。
顔を動かして額から順番に鼻筋、鼻の頭、鼻の下、唇、顎、そして最後にもう一度唇に。
濃厚なそれではなく、ただ唇を触れ合わせるだけの、子供のキスのようなスタンプキス。
じわり。唇から移る体温が、とても愛しい。

これだけイタズラをしても、全く起きる気配が無くすやすやと安らかに眠り続けている名前。
机の上には彼女が腕によりをかけて作ってくれた料理が暖かさを失って並べられているだろう。
目が覚めたら、料理が冷めたことに怒るかいつもみたいにふにゃりと笑っておはようと挨拶してくるのか、どんな反応をするだろうか。
クスリ、と吐息だけで笑って、枕元に置いているリモコンで部屋の電気を消した。

朝になったら、冷めた料理は自分が責任をもって完食しよう。味なら大丈夫、彼女が作るものは冷めても美味しいから。
頭の中でプランを立てながら、腕の中のオーロラ姫の唇にもう一度キスをして微睡みに身を委ねた。





春眠暁を覚えず