企画飛沫さんに参加しました。



身長が高くて、身体が大きな真琴君。
でも彼は優しそうな外見ではあるが怖がりで小心者。
ホラーが苦手で怖い時はだいたい幼馴染の七瀬君の後ろに隠れてる。

「ね、ねぇ名前ちゃん…出口まだ…?」
「まだ」
「そんな…ひぃっ!!!」

こんな感じで。


「部員の親睦を深めるために、遊園地に行こうよ!」と、最初に言いだしたのは一年生の葉月君。
県大会に出場するために日々練習に励んでいる岩鳶高校水泳部の面々だが、身体のためには休息も必要だとマネージャーの松岡さんが休みの日を設定してくれた。その休みに全員で遊びに行きたいらしい。
松岡さんと私は喜んで賛成したのだが、案の定七瀬君と竜ヶ崎君が渋った。しかしそこは幼馴染とクラスメイト。真琴君と葉月君が言いくるめて結局全員で遊園地に行く事になった。

「まず何乗ろっかー!定番のジェットコースター?」
「俺はなんでもいい」
「渚君、最初からジェットコースターというのはナンセンスです。まずはこの遊園地の地図から見てゲートから右回りに回って最初はやはりあそこの…」
「私、メリーゴーランドに乗りたいです!」

一年生のパワーとテンションが凄い。私は今日一日あの集団についていけるのだろうか…。
そういえば、隣に立っている真琴君から乗りたいものを聞いていないと思い見上げると、パチリと目があった。

「名前ちゃんは何に乗りたい?」
「え、うーん…急に言われても…真琴君は?」
「俺はなんでも良いかな。早く言わないと渚達に連れまわされるよ?」

優しく微笑んで私の希望を促す真琴君。ああ今日もその笑顔が素敵です。
特に乗りたいと思うものも無かったので、最初は一年生組の乗りたいものに付き合って回ることになった。
竜ヶ崎君が一人だけ「非効率的だ!」と憤慨していたけど押しの強い葉月君と松岡さんに負けてしまっては仕方が無い。
先に近い方のメリーゴーランドに乗って、次にジェットコースターに乗る事になった。馬に乗るような歳でもないから一人だけ先に馬車に陣取って座ると当然のように真琴君も大きな身体をちぢこませて隣に座る。

「真琴君、馬に乗らないの?」
「名前ちゃんこそ乗らないの?こうちゃんみたいに」

ほら、と言って指を差された方をチラと見るとなるほど松岡さんが可愛らしく馬に横座りしてわくわくした様子で動き出すのを待っている。

「馬に乗るような歳でもないかなって」
「それ天ちゃん先生が聞いたら怒るよ?」
「あ・な・た・た・ちって?」
「やめろよそれ軽くトラウマなんだから!」
「アハハハ!!」
「名前ちゃん!」
「ごめんごめん」
「あれー?二人とも馬に乗らないの?」
「俺達はここに乗ってるから、渚達は好きな所に乗ってきな」
「俺も別に馬に乗らなくていい」
「はーいハルちゃんはこっち!」
「おい!服を引っ張るな渚!!」
「お二人でごゆっくり〜」

ひょこっと顔を覗かせた葉月君は同乗しそうになった七瀬君を引っ張って更にウインクを一つして馬の方に去って行った。気を使わせてしまったことに気がついてオロオロしていると係員のアナウンスとブザーの音とともにメリーゴーランドが動き出して強制的に座ることになってしまう。

「さっきの、葉月君に気を使わせちゃった…?」
「大丈夫、渚は聡い子だから」
「…というか私達付き合ってるってみんなに言ってないけど…」
「あの様子じゃ渚はもう気づいてるって」
「うっ…」

そうなのだ。実は私達はお付き合いをしているわけだが、なんとなく言うタイミングを逃してきてそのままきてしまっている。
でも真琴君がいうには葉月君はもう気づいてしまっているらしい。
うう…他の人に自分の恋愛関係を知られるのは思ったより恥ずかしい…。
せっかくのメリーゴーランドは景色を楽しむ余裕は無く苦笑する真琴君の隣で風を感じながら必死に頬の火照りを収めることになってしまった。


さてお次は葉月君御所望のジェットコースター。目玉アトラクションとあって他の乗り物より行列ができている。今度は隣にいるのはさっきのメリーゴーランドでテンションが上がった松岡さんで、真琴君は七瀬くんの隣に立っている。ああ、違う。隣のスプラッシュコースターのプールに入らないように七瀬君を抑えている。
前から一年組、二年組、女子といった並びだ。楽しそうに笑顔全快で話す松岡さんはとても可愛らしい。正直御馳走さまです。

「楽しいですね名字先輩!」
「そうだね、松岡さんはメリーゴーランド好きなんだね」
「はい!小さい時から好きなんです!…あ、そういえば」
「うん?」
「……さっきの先輩達、すっごくお似合いでしたよ…!」
「!?」

口に手を当てて内緒話をするような松岡さんに耳を傾けるとポソッと爆弾発言をかまされた。驚いてバッと松岡さんの顔を見ると心なしか目元がニヤついていて、その顔は鮫柄にいる兄の松岡凛を彷彿とさせる。恐るべしマネージャーの観察眼。

「大丈夫です、まだ誰にも言ってませんから…!」
「そ、そう…」

なんとなくいたたまれなくなって前に視線を戻すと真琴君とバッチリ目があって思わず勢いよく逸らしてしまった。隣の松岡さんといえば私達の様子を見てくすくすと押し殺した笑いが漏れている…。
…というか、真琴君のほうもくすくす笑っていて全く隠せていない。
なんなんだ!真琴君も笑ってるなんて!
これは、ちょっと、おしおきが必要だろうか?

ジェットコースターを待っている間顔はそむけたまま真琴君への小さな復讐を考える事にして、二人のくすくす笑いは耳に入らないようにシャットアウト。ジェットコースターはもちろん楽しく堪能した。


「はい!次はお化け屋敷に行こう!」
「ええ!?」
「楽しそう!」
「いいねー!お化け屋敷!」
「非科学的です」
「…泳ぎたい…」

ジェットコースターの出口で次のアトラクションの提案をしたのはもちろん私…内容はお化け屋敷。
小心者でホラーが苦手な真琴君にささやかな復讐を考えた結果である。
非難の声を上げたのは案の定真琴君。次に松岡さんと葉月君がワクワクしながら私に賛同してくれて、否定はするけど行かないとは言わない竜ヶ崎と、ブレない七瀬君。
民主主義の決定の方法、多数決により次はお化け屋敷にいくことが決定した。

「お、俺はここで待ってるよ…」
「だめだよマコちゃん!マコちゃんは名前ちゃんと!」
「ええー…」


もちろん嫌がる真琴君も強制参加である。ふんだ。


「……ね、ねえ…」
「……なあに」
「やっぱ、やめない?」
「やめない」
「そんなぁ…ヒッ!!」
「真琴君、これただの映像」
「………うぅ…」

おどろおどろしいBGMと効果音とセット、薄暗い室内、そして、いつ脅かしに来るかわからないお化け。そんなこんなにおびえながら真琴君は私の後ろを私の左手をしっかりと握りしめながら歩いている。二人っきりというレアなシチュエーションではあるものの相当怖いのか、最初は片手で握るだけだったのに今では両手で離すものかというぐらいがっちりつかんでいる。ちなみに七瀬君と葉月君ペアが一番、竜ヶ崎君と松岡さんペアが二番、真琴君と私のペアが最後の三番目。

「怖い…?」
「こ、こわくな……怖い!!」

後ろにいる真琴君に振り返り問いかけるとギュッと閉じていた目をうっすら開けてまた閉じた。相当怖いらしい。でもこれは私の小さな復讐なので。やめません。

「俺、名前ちゃんの彼氏なのに、こんな感じで情けない…」
「そうは思わないけど…」
「だって普通こういうのって怖がってる女の子を彼氏が守るものじゃないの…」
「それは世間一般のセオリーでしょう?」
「俺だって…」
「ん?」
「俺だって、名前ちゃんを守りたい」

いつも柔らかな表情で微笑んでいる真琴君ではなくて、レース直前の集中している時のような、とても凛々しい顔で、そんなことを言われた。
真琴君の苦手な、お化け屋敷の中で。
その真剣な表情から真琴君が心からそう思っていることが手に取るようにわかる。それにこんな所で分からないほど私は鈍くはないつもりだ。
顔の熱が上がる。今ここがお化け屋敷の中で薄暗くて本当に良かった。
繋がれた左手が汗ばんで、私の胸で大きく跳ねた心臓が脈となって真琴君に伝わってしまいそう。



「そ…その顔、ずるい…」



ぽそりと、照れて思考がショートしている私の口からはそんな言葉しか出てこなかった。