涼太くんはいつも完璧。
容姿端麗で道を通れば誰もが振り向く美しさを持っていて、運動神経も抜群。
勉強はやらないからいつもちょっと危ういけど、本当はやればできる子。モデルの仕事と部活で毎日忙しくて大変だけれど、本人は充実していると言っている。


そんな完璧涼太くんは、どこかおかしい。


誰も知らないことだけれど、昔から私の髪の毛に並々ならぬ執着をしている。
始めは幼い頃に遊びで美容室の真似事をした時。
私の家の洗面台で、私がお客さん役で美容師役の涼太くんに髪の毛を洗ってもらった時だった。


「…名前の髪の毛綺麗……」
「涼太くん?…どうかした?」
「う、ううん!」


この時「食べちゃいたい」と小さく呟いた言葉を聞き流した私は、その後問い詰めなかった事を後悔する事になる。







「名前、おいで」
「うん」


涼太くんの私の髪への執着が始まって数年。
中学生になった涼太くんはモデルになって、ヘアメイクさんにヘアケアの仕方を教えてもらっているらしい。
朝のセットは勿論、昼放課にも髪を弄り、夜は家に上がり込んでシャンプーとヘアケアを施して帰っていく。
昼放課の今も、いつものように膝の上に私をのせて熱心に髪を弄っている。


「あ、ちょっと毛先がパサついてる。今度のオフに毛先だけ切るっスよ」
「うん」
「あー、名前の髪最高…流石俺が手入れしてるだけあって手触りとか香りとかたまらん…」


後から長くて逞しい腕で抱き締められると、耳元で涼太くんのうっとりとした声が聞こえる。多分髪に頬擦りしてる。
いつものことだから好きにさせておいて、私は重要な話を口に出す。


「あのね涼太くん、そろそろ前髪も切りたいの」
「ん、りょーかいっス。絶対自分で切ったり、他人に切らせちゃ駄目だから。触らせるのも駄目、男なんて論外。名前の髪は俺だけが触っていいし、俺だけが切って良いんだから。ね?」
「わかってるよ」


涼太くんが髪に執着を示すようになってから、私の髪は私を含め涼太くん以外が勝手に切ることを禁止されてしまった。
以前美容師を目指している従姉妹に切ってもらった時、それを知った涼太くんは烈火の如く怒りをあらわにしたのだ。自分で前髪を切った時も物凄い怒って私の首を絞めた。その時流石に首を締めた事は直ぐに土下座する勢いで謝られたけど…。多分次に他人に髪を切らせたら私はキレた涼太くんに殺されるかもしれない。


「名前、名前」
「なに涼太くん」
「俺ね、名前の事大好きっス」


そう言って涼太くんは私に唇を重ねる。
ここで間違えていけないのは、私を"女の子"としてではなく"お人形"として好きということである。
愛情の口づけではなく、愛玩の口づけ。
幼なじみの私は涼太くんに対して媚びないし、セックスも誘わないし、束縛もしない。全て涼太くんから与えられるものを受け止めるだけ。涼太くんの望むことをするだけ。



前に私に興味をもった赤司くんに「人形のように生きて満足か?」と問われた。



満足だよ。だって、涼太くんが満足である限り私の命は繋がっているから。
涼太くんが満足ではなくなった時、その時私は殺される。

私の上で息を乱す涼太くんをぼーっと眺めながら、頭の中で赤司くんにそう答えた。





ヤンデレイエローは毛フェチのようです