遠距離恋愛、とでも言おうか。
別にそこまで距離が離れてる訳じゃない、電車で3時間ぐれーで行ける。大して将来やりたいことがある訳でもねェ俺は地元に残って、あいつは将来の希望を空にはためかせながら他県の大学に行ったんだ。それだけ
そんで今日は特に用事があるわけでもねえし、ちょっと声が聞きたくなったんだ。それだけ、本当にそれだけだから。
「・・・」
通話ボタンを今にも押そうとスタンバっている親指が微かに震えている。なんでだ、俺はただちょっと久しぶりにあいつに電話をしようと…。いつっもメールで済ましてるし、電話をかけて来るのはいっつもあいつからだったからたまにはおれからしてやろうかな、なんて思っただけであって。いや、別に、緊張なんてしてねェよ?俺は。大人な男だから。
さあ、それでは、通話ボタンを押す、おす、お…「てれてれってれー!」誰だよ、俺の着信ア○パ○マ○の顔が交換される時の音楽に設定した奴。誰だよ、こんな大事な瞬間にメールよこしてきやがった奴。ディスプレイを見てみるとなんとそれが高杉でビビッた。高杉はあいつの隣の県の専門学校に行ってんだなあ、電車で三十分だっけ、あいつのとこに行くのに。羨ましいなあ、オイ
"お前今日厄日かもな"
は?意味不明。厄日って何、厄日って。俺なんか今日悪いことあんの?もしかして、これから電話かけて別れ話…と、か…
俺は焦って居た堪れなくなって急いであいつに電話を掛けた。そもそも高杉になにが解るんだよ…もしかすると、今日なんらかの理由であいつにあって「もう銀時なんかやめて俺にしろよ」的なセリフを言っちゃったとか!?高杉とあいつ妙に仲いいんだよなあ!どうしよう!俺どうしよう!
プルル…プルッ「もしもし?」
僅か1コールで出たあいつの声は妙に上擦っていた。そうかそんなに俺からの電話は破壊力あるか。もしかしてかけない方が良かった?いまなんかしてた?俺に言えないような…たかすぎと……
「おーい、銀時。どした」
「あ、いや別に」
どうやら今は一人らしい、良かった。ひとまず
「変なの。銀時から電話かけてきてくれたのに」
そういってお前は笑った。その笑顔が見れないのが無駄に悔しい。
「そういえば今日ね、晋助にあったんだよ」
高杉、殺してやろうかと思った。一瞬だけ、本気で。
「へ、ヘェ〜。それで、どうした訳」
「一緒にお茶してね、買い物手伝ってもらった。」
馬鹿野郎オオオォォォ!!!それハタから見たら普通にデートだから!これだからお前は…いやでも、そう鈍い感じのところも好き…って、違う違う。ったく、本当に、気をつけろよな。高杉がお前のこと好きだなんて一目瞭然じゃねえか。もう怒りを通り越して切なくなってきたよ、どうにかしてくれよもう。だってお前は俺の彼女だろ。彼女ってのはいつも彼氏の傍に居るわけだろ。でもお前は将来のために頑張ってて…それでも俺はいつでも傍にいたくて……それで…
「はあ…」
「どした?」
「俺、重症だわ…」
自分のあまりの滑稽さにもう自分で呆れるしかない。俺ががっくりと項垂れていると、電話の向こうから笑い声が聞えてきた。ちょっと俺の気分も向上する。お前が笑ってくれてんなら、いいや。
「それでね、今日ね、銀時に貰った指輪、外して出かけたんだ。」
「え、なんで」
「今日授業で汚れそうだったから」
嬉しいような悲しいような微妙な気分だ。でも"大人な男"を目指す俺は大人しく話を聞いてやることにした。
「そしたらね、遅刻するわケータイ忘れるわ傘持ってないのに雨降るわで大変だった。
なにこれ、銀時の怨念とか?」
「違いますゥーお前が指輪外すのが悪いの」
そういうとまたカラカラと楽しそうに笑う。そしてまた今日買ったぬいぐるみだとか好みの甘味の話とかを始める。きっとその笑顔はばかみたいにかわいくて、その笑顔のまわりにあるものはみんな全部お前のお気に入りで、キラキラと輝いているんだろう。
「でね、そのいちごプリンが…」
「ああ(…)」
羨ましいとはちょっと違う。先ほどまでの妙なテンションはどこへやら、俺は今なんとなく気分が沈んでいた。本当に、今日の俺はどうかしてる。
お前が目にするものを俺は見ることが出来ない
だったら、
俺にしか見せれないモンをみせてやりてェ
「なあ、こんど休みがかぶったら、一緒にどっかいこうぜ」
「え!?いいの!?」
「たりめーよ。銀さん今ちょっと財布に余裕あるからどこにだって行けるぜ」
「んー、でも、銀時の部屋でいっしょにマッタリしたい」
正直ちょっと意外だった。こいつのことだから「水族館いきたい!」とか「遊園地がいい!」とか言ってはしゃぎまわると思ってたのに。成長したのか
「折角あえるんだから、銀時を堪能したいの」
「堪能って…なんかエロくね?」
「もー銀時っていっつもそういうこと考えてるでしょ」
「んなこたァねえよ」
嗚、解った気がする。俺は距離が離れてるってだけで不安定で、傍にいないことは心まで離れていってしまうことだと思ってた。傍にあって見えるものしか俺にとっては無意味なものになってしまうと思ってた。
でも違った。
俺は現に傍にいない見えないお前に救われている。お前の発言に一喜一憂してる。
ずっと一緒にいたら、こんな気持ちを失ってしまうなら、俺は、
「ちゃんとエロ本隠しといてよー」
「ばっおま…そういうこと言わないの。女の子でしょーが」
「あはは」
あはは、じゃねえっつーの。まじで隠しとかなきゃ。掃除もするしエロ本もこの際捨てる。だから、会えたその日には愛しく尊い、お前の、
俺にそのばかみたいにかわいい笑顔をちょうだい
「銀時がそんなコト言うなんて…今日なんかあったの?」
「んーまあな。ちょっとした進化?」
「そっか!銀時にいいことがあったならあたしも嬉しい!」
「ああ、ありがとな」