いやだ


行かないで


いかないで


逝かないで





ごぷり、と溢れる血は止まることを知らず

あなたの紫色の着物と私の膝を紅く染めた

つい先ほどまであなたが握っていた刀は今は視界の端に転がっていて

しんと静かな廃屋の壁はその赤に不釣合いなほど真白で

すべてが
おわってしまいそうで


「いかないで」


私の頬を、僅かな力で撫でる腕は

かつての力強さを微塵も感じさせないほど、冷たく震えていて


「待ってる、から」


あなたにしては信じられないほどの弱い発言に

私の両目から溢れる雫は、あなたとの差を感じさせるほど熱くて


「一緒に、つれていって」


私の頬を撫でる手が、とうとう落ちた。

近づく別れを否定したくて、もう力が入っていないその手を

両手で必死に持ち上げて

血の付いたそれを頬にこすりつけるように宛がった。


「おまえは…」


もう焦点すら定まっていない目が、怖い

別れが

抗えない別れが

すぐそこに来ている


「…しんすけ、様」


冷たい手を、必死に温めようとする私は莫迦だろうか

死ぬことが出来れば、晋助様は

先生に逢う事ができるんだから

ひきとめては、いけない、のに


「おまえは…だめだ」


瞳孔がゆっくりと開いた

ああ、あ、あ

冷たい手を、そっと胸にそえた

今、もう、

あなたは、ここに居ない

体はあるのに、

つめたい


温かすぎるその愛しさに溺れては駄目ですか


いまあなたは幸せですか


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