瞼を瞑ると、星も月も無い夜空の様な景色が視界一杯に広がる。胸いっぱいに息を吸えば、血生臭い匂が身体に摂り込まれて行く感じがして、気持ち悪い。耳に届く音は無い。音を立てるようなものは全て俺が殺した、から。



いや違う。一つだけ、まだ音の出るものが在る。沈黙のかなに俺の声が広がって何にぶつかるでもなく消えた。夜空は微動だにせずただ俺の目の前に存在している。ああ、まただ。
そっと夜空とさよならをすれば、真黒とは少し違う、藍罹った世界。少し視線を降ろせば真赤な足元が見える。それに伴って、赤く染まった自分の身体が見える。血が固まって着心地が悪いこの衣を早くどうにかしたい。ゆっくりと足を動かすと、妙な位すんなりと動く足。身体が軽くなったように感じる、が、妙な圧迫感が在る。自分がこの世界に否定されているような――。
息が、酷くし辛い。ひりひりとまるで塩を擦り込まれている様な妙な空気、痒い。まるで海の中に居るようだ。いや、海とは少し違う。深海だ。真っ暗な、深海。底には誰にも見られることの無い真赤な珊瑚礁。俺は、泳ぐのに疲れてしまった魚だ。俺は、深海魚じゃない。こんな暗く淋しい世界じゃあ生きていけない、死んでしまう。でも、どうしても上に泳ごうとは思えない。だからただ水底すれすれの場所を放浪するだけ、餌も酸素も少ない場所で、ただ息を潜めて死を待つだけ。

だが、深海には必要不可欠な、あるものがここには無い。無くてはおかしい物。当り前すぎて誰も気づかない、必要なものが、ここには欠けている。
ざり、ざり、相変らず不自然に軽い足を動かして歩き出す。どこに?あいつはもう、いないんだ。

  ぼくの
  世界は
  深海だ


俺が死ねば、ほうら深海のできあがり。音ひとつ無い、奇麗な暗闇のできあがり
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