どんよりと湿った、今にも雨が降り出してしまいそうな死んだ色の空はうまい具合にあたしの心理状況を表している。低い音を立てて高い場所で蠢く雨雲は遠い場所にあるはずなのに、手を伸ばせば届きそうな程に近く感じる。

「ねえ、銀時。今日も沢山の仲間が死んだ」

死んだ人間は、成仏して空の世界へ行くそうだ。だったら死後の世界はあたしのとても近くにあると云う事なのだろうか。強ち間違ってはいない、毎日続く攘夷戦争に嫌気が差した。でも同志達のように死んでしまいたいとは思わない、否、思えない。死ぬのは怖い。戦争が始まってから、そう思うことが多くなった。死にたくない、死にたくないからあたしは人を殺す。今にも死にそうな仲間を見殺しにする。死なす、のだ。死を恐れている筈なのに。

「あたしも何時か死ぬのかなあ」
「そりゃ、そうだろ」

人はいつか死ぬのだ、それは人間に留まらず何者にも当てはまる公式。仏さまだって死んだのだ。一度は。そして人間は死後の世界をいかに心地よく過ごすか、なんて事を考え始める。気が早い生き物だ。今を精一杯生きるという選択肢は人間には無いのだろうか。等と抜かしたところであたしも結局は人間で、でも死んだ後の世界の事なんて解らなくて。怖い。もしかしたら先に死んだ同士や、殺した天人なんかがあたしを待ち構えていて「よくも殺したな」とか言いながらあたしを地獄に突き落とすかもしれない。
そうなるとは限らない。でも、そうならないとも限らないのだ。

「怖いか」
「……うん」

返事をするのに時間が要った。それを認めてしまうのは癪だったし、格好悪いと思ったから。でも銀時は清々しそうに笑っていて。ぽろりと自然に流れ出た涙を隠すこともせず大人しく髪を撫でられたあたしはやっぱり銀時には叶わないのだ。剣の強さも、魂の強さも。いつの間にか雲の切れ間から顔を覗かせた陽の光りは温かくあたしを照らしてくれた。いつの間にか雲もいつも通り遠くにあって、手を伸ばしても届きそうにもなかった。強引に涙を拭って立ち上がると、見えるのは一面の赤。今では雲の蠢く音に変わって背後からは大量の天人の足音が聞える。なぜだか倦怠感は無い。死に慣れてしまった訳でもない、やはり死ぬのは怖い。でもそれが定めなら受け入れようとは思う。後ろに向き直ると、やはり沢山の天人が見える。再び銀時の手が高等部に乗せられて、髪をくしゃくしゃにされる。今更どうってことないけど、これも慣れない事の一つだ。銀時の、ぬくもり。銀時の顔は笑っていて、でも決して卑しいような笑みではない。純粋な、先生といた頃のあの笑顔だ。

「せいぜい死なねェようにこの戦争生き抜こうじゃねーか」

おーけー戦友

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