今日も私は三味線の律に合わせて唄を詠む。毎日形の変わる月のように、読む唄も日々違っていた。変わらないのは、一つだけ。毎日この場所で、この時間に二人きりで唄を詠む、それだけだ。
毎日のように人を殺す私には、人を慈しむような感情はもう亡かった。別に好かった。ただ、愛し方を知らなかったから。だから、こんなにも愛してもらっているのに気付いていなかった。

「ねえ」
「………」
「私、わからない」

三味線の音がなくなった。耳が痛くなる程、静かな夜に聴こえるのは、私の決して綺麗とは言えない声だけ。わからない、と言っても私は、そもそも何がわからないのかも解らないし。何をわかっていて、何を解っていないのかも、決して解ってはいなかった。解らない事が多すぎて、なにも解らなかった。
こんなことは自分の問題だということは、解っている。でも、こいつに訊けば答えが視えてくるような気がしたのだ。そう、気がしただけ。核心はない。

「わかんねェってことが、解ってんならそれで十分だ」

ぶっきらぼうに言われたその言葉が、あたしの予想通り。曇りの空から日が差すように、私に何かに気付かせたたのも事実。でも、こいつの言葉の深さに、新たな「わからない」が産まれてしまったことも、覆しようもない、事実だった。

雲の切れ間から日が差すように気付いた事のなかに、こいつの視線の柔らかさがあった。私と同じように、否。私以上に毎日のように人を殺してきたこいつには、人を愛する心がまだ有ったのだ。私は、持っている事が辛くて捨ててしまった。人への愛を。

「ねえ」
「………」
「三味線を、弾いてよ」
「…あァ」

滑るように流れていく律が、これほど綺麗に聴こえた事は、今迄あっただろうか。きっとない。人を愛することは、私はまだわからない。でもきっと、私は晋助を愛していると思う。

「月が、綺麗だ。」

私は今日も、こいつの唄を



詠む
旋律が耳を食む

(聴いているのはこいつだけ)


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thanks=んむ


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