今日のラッキーカラーは青!なんて軽快に喋るアナウンサーは、あたしが今日と言う日をどれだけ拒んでいたか知らない。青いハンカチをセーラー服のポケットに閉まって、あたしは家を出た。





「これで、卒業式を終了します」

教頭の平淡な言葉と共に一気に、皆が堪えていた涙を溢れさせた。あたしなんかもう顔中涙でぐちゃぐちゃだったけど。

「なあ、」
「!…ぎん、ちゃ」

あたしは高校生活を思いっきり楽しんだと思う。馬鹿みたいに騒いで、笑って、泣いて。一丁前に恋愛なんてしてみたり、しかも相手は担任の先生で。あたしは、世界に一つしかないこの3Zの皆が大好きだ。
でもそれも今日で終わり、だって今日は卒業式だったから。もう卒業式も終わり、あたし達は3Zではなくなった。それが堪らなく、哀しい。嫌だ。卒業なんて、したくない。したくなかったよ。

「明後日から、だろ?」
「うん」
「暫く会えなくなるな」
「うん」

あたしは卒業して、二日後。つまり明後日、アメリカに留学する。二年程の予定で、帰ってこれるのは年に数回だろう。そりゃあ、嬉しくないといったら嘘になる。留学の為に必死に勉強したし。
でも、それでも。3Zの皆から、銀時から離れるのは苦しかった。昨日までは一緒に居るのが当たり前だったのに、明日からは、一緒にいるのが特別になってしまうんだから。にぎりしめた青いハンカチが、一層哀しさを引き立てているようだ。
ざわざわ、ざわ。神楽ちゃんと妙ちゃんが、泣きはらした目で、最高の笑顔で写真を撮っている。土方君は、沖田君にからかわれ、必死に冷静を保とうとしてるけど、やっぱり目は赤かった。かく言う沖田君だって、若干涙目だった。

「ちょっと、来て」
「え、ちょ。銀ちゃ、」

銀ちゃんに腕を掴まれて、走った。教え子の卒業式にもよれよれの白衣を着ているのは、らしいというか、なんというか。安心できるような、寂しさを引き立てるような…レロレロキャンディーの煙も、心成しか切なげだ。
走り付いたのは校舎裏。卒業式ということもあって誰も居ない。振り返った銀ちゃんは、真剣な表情をしていて、こんな引き締まった顔は滅多に見ないものだから、あたしの心臓はどくりと特別大きく脈打った。

「あのな、」
「うん」
「俺…一応公務員だし」
「うん」
「給料もそれなりだし」
「うん」
「そのー…なんだ、」
「うん」

「結婚、してください」

ぼろ、大粒の涙が頬を滑っていくのを感じる。でもそれは他人事のように感じられて、只今は嬉しさと幸福感に胸を打ちひしがれていた。頭を下げている銀ちゃんが伸ばしている腕には、藍色のお決まりのケースがあって、そこには小さくて可愛い指輪があって、今日は悲しい日のはずなのに、こんなに幸せていいのかと。思わず疑ってしまった。

「うん、こちらこそ…よろしっ」

ぎゅうう、と本当に音がしそうなほど、きつく。銀ちゃんに抱きしめられていた。涙が止まらない。嗚咽を漏らしながら銀ちゃんに縋り付くと、するりと握り締めていたハンカチが落ちた。タイミングよく銀ちゃんがハンカチを掴んで、あたしの涙を拭いてくれた。ああ、ああ。
愛しい人。愛しい場所。愛しい。いとしい。

でも今は、暫しの別れの時。

「もっと銀ちゃんに釣り合うような素敵な女になって、帰ってくるよ」
「浮気すんなよ」
「銀ちゃんよりいい男なんていないよ」










(そりゃそうか)

-----
企画に提出

100312

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -