「ね、冬獅郎」

蛍はどうして光るんだろうね、そういって笑った顔、が。酷く綺麗だったことは記憶に新しい。

人は、死ぬ

それを教えてくれたのは、俺よりも早く死んだ部下達であり。過去の友であり。お前だった。
死の宣告をされてから、よく笑うようになった。
でもその元々細い肢体が痩せ衰えて行くのを、隠れて泣いているのを見ているうちに。その笑顔の裏で、お前がどれだけ苦しんでいるのかが、わかって。

俺も、苦しんだ。
お前は強かった。意欲的に治療に勤しんで、どんな苦しいことにでも耐えた。
俺にはわからなかった。どうしてそこまで生きようとするのか、こんな世界で生きていくことに、その苦しみほどの、それ程の意味があるのか。
いっその事、死んだ方が幸せなんじゃないだろうか。
いつしかそんなことを考えるようになってしまった。

「冬獅郎」

名前を呼んでくれる声が、明日も聞ける保証はない。俺に向けてくれる笑顔を、明日も見せてくれる保障はない。

「なあ、」
「どうしたの?最近ヘンだよ。冬獅郎」

俺の声に、明日も応えてくれる保障は、ない。

ある日、俺が訊いた訳でもないのに、教えてくれた。

「人は、死んでしまうから。生きている時が綺麗なんだよ」

そんなこと、誰に聞いたんだろう。
本格的に病が進行して、四番隊に強制的に入院することになった。酸素マスク越しに見る苦しそうな笑顔が、俺の涙を引きずり出す。

「死ぬと解っていても、生きている私達は。きっと神様から見ても、綺麗だよ。」








ぱたぱたと白い廊下を白い足が走り抜けていくのが見える。白い機械が白い器具につながれているのが見える。真白な顔で白い着物をきたあいつの姿が見える。白があいつの吐く血で赤く染まっていくのが見える。酷く、美しかった。

「冬獅郎、わたし。」

ヒューヒューと苦しそうな息をしながら俺に弱々しく手を差し伸べる。俺はその手を力強く握った。凄く冷たい。
もうすぐ死んでしまうのが解って、悲しかった。最期にお前が頼ってくれたのが俺で、嬉しかった。

「わたし、幸せだったかな」


ピー、それまで小刻みに鳴っていた機械が命の終わりを告げた。
死なないでくれ、俺はお前になにを言えるわけでもなく。死なせてしまった。死なないでくれ。言えたらどんなに楽になっただろう。死なないでくれ、俺は、お前がいないと。

お前が居ない世界は濁って見えた。



ふと朦朧とした世界のなか。妙に冷静な頭で窓を見たら、外には綺麗に手入れされた庭があって、その池の周辺に一匹の蛍が光っていた。
小さく光る蛍は、まるでつい先程までのお前そのものに見える。

俺が光を求める理由はこの世界にとっては酷く小さくて、


「幸せだな」

擦れた声が出た
お前がいない世界で心からそう言えるまで、俺は生きていこう。お前みたいに、光ってみたいんだ



小さな光りは俺の心には眩しすぎた


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くしゃみ様の俺得企画に提出。
ありがとうございました!
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