あたしは知っていた。否、知ってしまっていた。山崎があたしに優しい日は、そう。彼が人を殺した日。そういう日は気持ちが昂っていて、むやみに人を傷つけかねない。なのに彼が優しいのは、きっと罪悪感から。彼は本当に優しいから、人を殺してしまったことを償うために、あたしを死者の代わりにする。思いっきり労わって、あたしを癒してくれる。

「ねぇ」
「ん?」
「…ううん、なんでもない」

いいんだ。これでいいんだよ、たとえこのときに、どんなに優しい顔で山崎が笑っていてもそれはあたしに向けられたものじゃないとか、「あたし」を認識したくなくて絶対にあたしと目を合わせるようなことはしないだとか、山崎はそれを隠してるんだけど、あたしもそれに気付いてないフリをしてるんだけど、ほんとうは気付いていて凄く苦しくなるとか、そんなこと、どうでもいい。だってあたしは存在するだけで山崎の心の痛みを和らげられるんでしょう?だったら、あたしは、

「ね、山崎」

山崎に言ったら楽になるかな、山崎は無理でも副長とか沖田隊長とか、誰かしらにでも言ってしまえばこの胸の苦しみは消えてなくなるだろうか、言ってしまえたら、言ってしまったら、この空間の意味がなくなってしまうような気がする。だって山崎はあたしを選んでくれた。どんな形でも、あたしを。

「どうしたんですか?今日はなんだかおかしいですよ」

そう言って山崎がふわりと笑う。嗚呼その瞳にはどれだけの苦しみや悲しみが渦巻いているのだろうか、優しい彼は、それを堪えているのだろうか。無意識に、自分を殺しては居ないだろうか。どうやったら彼を、山崎退を救えるのだろうか。なんて真剣に考えるあたしは、どうかしてるのかな

「いつもありがとう」

思わず口から出た言葉、自分でもびっくりする位優しい声で出た。まるで山崎みたいな声だった。あたしはそれが凄く嬉しかった。山崎と目が合うと、やっぱり少し哀しそうな表情をした。そうだった。この時間彼を目を合わせては、ダメ。こんな日は甘えてあげたらいい。そうすればきっと山崎も、満足できるんじゃないかな、じゃあもうちょっと我侭を言ってみよう。きっと困ったように笑って、あたしの願いをかなえてくれる。

あとキスをして欲しいな

この胸の痛みを堪えるくらい造作もないよ

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企画「切り出せない」様に提出。
なんだか全体的にカオスになりましたがとりあえずこの話で一番苦しいのは山崎ではなくヒロイン。山崎はヒロインが苦しんでるのを知ってて、それでも自分の傷を癒すために彼女を利用してしまっているんだと思う。でも彼は優しいから、それを苦しみと勘違いしてしまうヒロイン。結局悪循環なんだな

100208
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