私は先生が好きだ。そのことは先生も知っている。黙って受け止めてくれるのは先生の優しさで、答えを教えてくれないのは大人のずるさだ。私は自分が幼くて物事の分別がつけられていない可能性を自覚しているし、先生を困らせるようなことをするつもりはない。今は今のままで十分幸せだ。卒業を考えると胸が痛むけれど。

木製の引き戸を三回ノックする。戸の向こうから間延びした声が聞こえるだけで、私の心臓は縮こまる。戸を開けるだけで手は喜びに震え、瞳は期待で僅かに潤んだ。

先生は私をちらりと見て、ペンを置いた。

「先生、クッキー焼いてきたの、お裾分け。ほとんど神楽ちゃんが食べたけど。」
「えーマジで?先生甘いもの好きだってリサーチしてくれちゃったの?うれしー」

ナチュラルにほぼゼロになる距離。白い髪と白い白衣から、大人のにおいがした。
先生はずるい。先生を頭の中で呼ぶたびに私の心は悲鳴をあげる。クラスメイトじゃ与えてくれない大人の刺激を、簡単に私にぶらさげる。

「先生、」
「バレたら先生捕まるのかなぁ、ユウワクしてるのはお前なのにな」

私と先生の秘密は、白くはためくカーテンに隠されて、誰の目にも触れることはない。


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