かつかつ、階段を登る音が響く遅くなってしまったなぁ、とか急がなくちゃ、とか考えながら必死に階段を昇るとあいつ専用の着信音が響く。慌ててメールを開いてみたら「遅い」の一言、あたしはそれに返信を打たずにケータイを閉じた。お気に入りのキリンのキーホルダーが揺れた。

ばん、勢い良くさびた扉を開けると寒そうにみを縮めている学校一の不良の姿が、「遅い」と鼻を赤くして呟く姿にくすり、と笑みがこぼれた。それにしても寒い、高杉の横に座り込む。高杉は突っ立ったまんま、視線だけ学校の外の夕日の沈み始めた綺麗な景色を見つめていた。そういえばあの日もこんなくらい寒かったなぁ…

「思い出すなァ」
「え、」
「お前とあった日」

おんなじことを考えていた、そう思うと何故だかちょっと嬉しくて、びゅうびゅう風が吹いているのになぜだか少し暖かい気分になった。あの日のことだったらあたしはとても良く憶えている。まずあの日は、具合が悪かった。次の授業が数学と言うこともあり保健室に行く事に決めたあたしは保健室に付いて絶望した。ドアに貼られた張り紙「保険医本日出張のため不在」教務室にいる先生を呼びに行くのもなんだったし、それでも教室に戻るのも嫌だったので屋上にサボりに行く事にした。屋上は寒くて、時間を潰すためにちょっぴりケータイをいじっていたらチャイムが鳴ったので帰ることにした。

「あ、ない!」
「え、なにが?」
「妙ちゃんに貰ったキリンのストラップ」

妙ちゃんは気にしないで、と言ってくれたけどあたしはあのストラップを諦めることができなかった。だから戻ってきた道をひたすら走り屋上へと戻る。ストラップを落とした心当たりは此処しかなかったからだ。勢い良く扉を開けると人がいた。派手な格好の、カッコイイ男子生徒。「よォ」なんて声を掛けられたから「よォ」って返してしまった。すると咽の奥から聞えるような笑い声が聞えてきた。あたしは恥ずかしくなってきてさっさとストラップを取って帰ろうと当たりを見回した。

「なにしてんだよ」
「探し物」
「…あァ、コレの事かァ?」

男子生徒が片手に持っているのは黄色い塊、キリンのストラップだった。あたしは「あ!」と一言叫ぶとそれを取るために男子生徒に駆け寄る。すると手を上にあげられて取れなくなってしまった。

「俺ァ、3年Z組の高杉晋助」
「は?」
「明日も此処に来い」

ポイッと投げられるように渡されたストラップを慌てて掴む。するともう其処には男子生徒、もとい高杉はいなくなっていた。

「おんなじクラスだったんだ…」


暫く思い出に耽っていたら夕日が大分沈んでいた。ふと高杉のほうを見ると夕日に黄色く染められた横顔が酷く綺麗に感じた。

「綺麗だなァ」
「なにが」
「夕日と、お前」

にやり、今までに見たことがないような妖艶な笑い方をされる。顔を真っ赤にしてカッチカチに固まったあたしを見て高杉はいつもと同じ笑みを一つ、いつも見てるはずなのに心臓が違う音の立て方をする。カタ、ポケットからケータイが落ちた。キリンのストラップが揺れる。



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