最初から分かってた。だから、余計に悔しい。
「もうやめろ」
人生最大の大怪我をした。心の。
「元々こういう約束だったからな」
刀傷深いの2個小さいの10個位。
前歯が欠けた。伸ばしていた染めた事のない髪を無様に切られた。
それが女に対してくることかと言いたくなる位ぼっこぼこに殴られた。そして蹴られた。
おかげで私の顔面は非常に残念な事になっている。
それに付け加え昨日からずっと泣いてるから眼も腫れてる。まあ殴られてもともと眼も半分しか開かないのだけど。
「いや」
歯を食いしばった。痛みが走る。自分の力で上体を起こしていられるのも限界だ。
枕に頭を埋めると、頭の奥のほうがじりじり痛んだ。
「我侭言うな。近藤さんも言ってただろ」
「いや」
声を出すだけで咽がひりひりする。熱がでてるな、これ。
「総悟、呼んでよ」
「呼んでも結果は変わらないぞ」
たまたま、たまたまその日靴を新調して履き慣れてなくて、刀の手入れをサボって切れ味が悪くて、攘夷浪士の頭の趣味が総悟に寄っていただけで。
いつもなら
「いつ、いつもと違うことが起こるかわかんねえんだ。お前はそれを忘れた。クビにするにゃそれで理由は十分だ」
いや
そんな事言わないで。私を傷つけないで。
土方さんが私を傷つけないように言う言葉の全てが私の急所に刺さる。
昔から、なんにも変わってない。
我侭を言って、みんなを困らせて、調子に乗って、失敗する。
「私が男だったら、そんなこと言わないでしょ」
悔しい。
「…なあ」
「いや」
「俺は」
「いや」
「お前を守りたいんだよ」
「いや」
「なあ…」
「いや…っ」
もどかしい。怪我なんかしてなかったら、この場から逃げ出してしまうのに。
「頼むから…っもう失いたくないんだよ」
いつもいつも、いつまでも
「土方、さん」
ずっと想ってた。土方さんを。
土方さんの傍に居たくて江戸に来た。
それでも土方さんが想うのはミツバお姉ちゃんで。
私はずっとみじめだった。
だから、せめて居場所がなくならないように頑張った。
いま、土方さんに頷いてしまえば、私の居場所がなくなってしまう。
私はいつも、間違ってばかり。
「土方さん、どうして私は、いつも皆の二番目なの…」
「そんなこと」
「じゃあ、どうして…」
どうして土方さんは、そんな目をしてるの。
めんどくさい、みたいな。
それだけじゃないとしても、なんとなく鬱陶しそうな。
このまま私が我侭ばかり言ったら、どんどん土方さんから遠くなる。
今この立場に居るのが、総悟とか、ミツバおねえちゃんだったら、土方さんは怒鳴ってでもやめさせようとするでしょ。
わかってるよ。
土方さんのこと、きっとミツバお姉ちゃんよりも。
…それは、言いすぎかな。
「ごめんね…土方さん。迷惑ばっかりかけて。」
「そういう意味じゃない」
「うん。ごめんね。私、真選組やめる」
ほっとした顔しないで。これ以上私を突き放さないで。
「真選組止めて、武州に帰る。帰って、お姉ちゃんのところに行くよ」
お願いだからさ、土方さん。
「…行くなよ」
私を笑って送り出して