※高杉死んじゃった設定





今日は命日だ。彼と、ある意味私の。いやでも、死んだのかどうかよく分からない。もしかしたらあの状況の中生き延びたかもしれないし、やっぱり本当に死んだのかもしれない。奴が死ぬようにはどうしても思えないけど、後に現場から掘り出されたという折れた煙管は、間違いなく高杉の持ち物だった。無念だったのだろうか、彼は、この世界を変えることなく
死んでいった高杉は、無念だっただろうか?
そんな訳あるか、私は自分で自分に怒った。奴は死ぬと分かってたはずだ。そもそも、高杉に無念なんて言葉、似合わなすぎる。ここから私の妄想、奴は、きっと世界をぶち壊すとかきっとどうでも良かったんだ。ただ、先生を奪った世界に生きている自分が厭で、それを否定する方法がこれしかなかっただけで、目的とかそういうのは全部後付けで、ぶっちゃけ、高杉もいつか死ぬ日を待っていたのかもしれない。だって、そうじゃなかったら、あんな目で人を殺したりしないだろう。だから、後悔したり悲しかったり、諦めそうになったりするのは全部この世界が本当は残酷なだけじゃないって知ってる私の仕事で、高杉はただ憎んで派手に壊していれば良かった。私はそんな高杉が、とても愚かしくて好きだったような、憎くて憎くてたまらなかったのか、今ではよく分からない。

刺した。真選組副長土方十四郎の、右の掌を。そして、私はわき腹を土方に刺された。もともと叶わない相手だったから、土方の手を奪えたのは嬉しい誤算だった。私は本当なら、そこで土方に殺されるはずだったのだ。とどめを刺したかったけど、腹から血はとまらないし、一度刃を抜いたらきっとこいつはまた刀を握ろうとするだろうから、私はこのまま土方の上に被さってことが終るまで動かないことが仕事だと思った。土方は生き延びるだろうけど、それでいい。どうせ私は、真選組から正規に指名手配されてるような人間じゃないのだ。ここでくたばったって、土方にはなんともないだろう。そう思ったから、意識を失う前に口から言葉が零れ出た。

「なんでだよう…私だって、好きで、生きてるんじゃ、ないやい…う、ぎ、んと、き」

一生の不覚だ。きっとそれを聞いた土方は、どうせもう戦うことの出来ない女を殺すのは忍びなくて、いやもしくは生きて償えという気持ちで、わたしを銀時の元に送りつけ、そのごかぶき町内で会ってもしらんぷりを決め込んでいるのだろうか。
結果的に、私は最後に逃げ出して、高杉はきちんと死んだ。
どういうつもりだ。コンチクショウ、殺してやる。私を生かした土方なんか、献身的に私の腹の穴を治した銀時なんか、死して尚私を離さない高杉なんか。みんな、みんな大嫌いだ。
だけど私の刀は銀時に没収されてしまったし、土方にそんな隙はないし、高杉は既にどこの馬の骨とも分からないようなやつに殺されている。なんにもうまくいかない。いっそ自害しようか。ここの台所にある包丁で、首を切って、心臓を刺す。痛いだろうなあ、血が出るんだろうなあ平和の象徴のようなこの家が、真赤になる。私の血で、叫び声で、銀時の、絶望を見るような瞳で。ああ、いいなあ、いいなあ

「おい、お前、思ってることだた漏れなんですけど」
「…うーん、ごめん。どうかしてる」
「別に俺は気にしねーけど。お前、昔からそうだったし」
「…そんなことないよ。私も昔は戦争を嘆く健気な女の子だったよ」
「どの口でんなこと言ってんだ」
「はは…」
沈黙。
嫌いだ。人間なんか、大嫌いだ。
「ごめんね、私、銀時の不幸を望んでる。ごめんね、でも私、銀時のこと、嫌いじゃ、ないんだよ」
「わかってらァ」
そろそろ、限界かもしれない。人間として生きるのは。ずっと前からぞっとするほど感じていた違和感。どうして私が平和に生きてるんだろう。素敵な人間が沢山死んだのに、どうして私なんかが生き残って、ここで平和に生活してるんだろう。駄目だ、こんなんじゃ、私、駄目になる。
「銀時」
「ん、わかってら」
「ありがとう。もう、出て行くよ。」
私は立ち上がり、銀時に背を向けたまま歩き出した。寝室に置いてある折れた私の刀。それだけを手にとって万事屋を後にした。息が出来ないほどの視線を感じながら。


こんな刀を剥き身でぶら下げていれば、きっと通報されて真選組の輩が来るはずだ。死へのカウントダウンはもう始まってる。久しぶりの高揚感が体中を支配する。
「ちょっとあなた」

きた

「屯所まで来てもらっても…」
振り返ると、そこに居たのは忘れもしない土方十四郎だった。
身体が勝手に動く。土方の目が見開かれる。折れて無意味に鋭利になった刀の先端が黒い布に吸い込まれていく。黒が濃くなる。血だ。景色が全てスローモーションに見える。これじゃあまだ土方は死なない。もっと、もっと

しかし、次はなかった。土方十四郎は素早く身体から私の刀を抜き、距離を取った。
想定内。この男がそんなに簡単に死ぬわけがない。
「お前…ッまだ刀を握れたのか」
「私を弱々しい女なんかと一緒にするんじゃない。握るさ。どんなことがあっても、生きたくて生きてるんじゃあないが、もう少し死ぬわけにはいかないんでね。」
「…殺す気か、俺を」
「無茶言わないでよ。こんな傷だらけの、しかも女が、真選組副長様サマの首なんて取れる訳ないでしょう」
私と土方十四郎の周りでは、平和にボケた人間たちが阿鼻叫喚で喚き散らしている。逃げていく。みんな、みんな。私の大切だったものたちも。
「私はね、誓ったんだ。幸せになんて生きてやらない。絶対に、何があっても死ぬときは自分の意思で死ぬ。」
「お前、何言っ」
「殺せよ、早く、私を。そうしないと、ここに居る民間人、ひとりずつ、殺すよ」
言い終わるのが早いか私は走り出した。蜘蛛の子を散らすように逃げていく人間のなかから、逃げ遅れた子どもの首を捕まえる。刃を向けると、母親らしきものの叫び声が聞えた。
同時に、腹に刀が貫通した。土方十四郎だ。目論見どおり。
「…殺人未遂、現行犯だ。お前には生きて、罪を償って貰わないととならない」
「ヒヒッ、無理だね。私はここで死ぬ。」
突き刺さった刃は、急所を的確に外していた。私はその刺さった刃を握りしめる。
「お前は、その腹の傷と一緒に一生私を忘れずに生きていく」
手からも血が出た。こんなに自分の血に塗れるのは初めてかもしれない。
「…最期に、銀時に、伝言を頼む。」
もう、痛いとかそんなこと何も分からない。ただ、やらなければならないことをするだけだ。力の入らない手で刃を握りなおす。口から自然と笑みが漏れた。視界が翳む。辛うじて子どもの頭と土方の表情だけが目に映る。

「……ありがとう」


目を閉じればきみが浮ぶ。
だから今日は、眠れない。



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