成分分析結果、きみの優しさと好奇心とひだまり



学生と言うのはとても難しい。たとえば私みたいな二年生だったら、先輩に目を付けられないような、そして後輩に馬鹿にされないような制服の着こなしをしなければならない。そのラインは非常に曖昧で、しかも同級生で「アイツが私のことパクってる」とか言う噂が流れたりもするから本当の本当に大変だ。髪型もスカートの長さも靴のメーカーも色ですら。先輩に気に入られてたりする人は、もう少し派手な服装を許されたりもするけど、今のところ私は平均よりもほんの少し地味な感じを装って過ごしている。先輩から見れば「ああ、そんな奴いたな」という感じで後輩から見れば「ちょっと大人しくて優しそう」という印象を与える位。だからそんなに目立つわけでもないし、いじめの標的になるほど地味って訳でもない。我ながらベストなポジションに付いているつもりだ。このままこの高校では、数人の友達と今のまま過ごしていたいと思う。思うのだけど、先生曰く「思春期の女子高生がそんな地味な学校生活を送っていて良い訳がない」そうで、「お前は今学期中に同じクラスの男子に恋をする」というお告げを頂いた。大概変な先生だ。煙草を吸っていると思ったらそれは先から煙のでるペロペロキャンディーだったり、ジャンプと甘いものをこよなく愛していたり、授業は大抵自習で配られるプリントもよく分からない教材会社のものだったり(の割りに生徒に人気があり、先生の持っているクラスの生徒の国語の成績はけっこう良かったりする)とちっとも生徒に示しの付かない先生である。そんな先生の言うことだから、ちっとも真に受けていなかった。なのに、

「先生がプリント運べだと」
「あ、うん。わかった」

私は今、同じクラスの男子に恋をしている。
しかもどういうわけかそれは先生が「あいつあたりいいんじゃない?」と私に指導してくれた相手であって、しかもしかもその人は先生の謎のはからいにより1学期から日直が一緒だったりしている相手で、しかもしかもしかも1学期はなんとも思ってなくて「他の男子と違ってなんか大人っぽいよな」位の印象しかなかったのに。先生の言葉を真に受けたつもりは断じてない。だけど、授業中視界に移る彼の横顔とか、休み時間に友達と話してる時の笑顔とか、そういうのがちらちらと視界に留まって、心臓がそのときだけやや大きめに鼓動を響かせる。はじめは先生の言うとおりになるのがなんだか嫌だったからそんな自分の気持ちに知らん振りしていたけど、もうそういう時期は過ぎてしまったようで、日々先生の好奇の視線と彼への思いにぎゅうぎゅう挟まれながら学校生活を送っている。

「失礼します。坂田先生、国語のプリント取りに来ました」
「おー、じゃあこれ頼むわ。あとちょっとお前、話あるから。土方先に行け」
「はい」

彼、もとい土方君はひとつ返事をして、サッとプリントを持ち国語準備室を後にしてしまった。残された私は坂田先生を睨む。

「先生」
「まあまあ、そう怒るなよ」
「怒ってなんかないです」
「まあまあ、結構良い感じじゃん。思いのほか両思いだったりするかもよ」
「…そんな訳ないじゃないですか。今だってサッと行っちゃったし」

自分で言って少し悲しくなるけど、事実なのだ。私は土方君にちっとも、なんとも思われちゃいない。むしろ嫌われてるんじゃないだろうか。話しかけても「おう」とか「ああ」とか「先に行っといてくれ」とかばっかりで、ちっとも話が続かない。避けられているような気もする。だから私の初恋は、失恋決定なんだ。

「分かってねえなあ。あの頃の男ってのは好きな女が傍に居るのがとんでもなく恥ずかしいモンなんだよ」
「…よくわかんない」
「まあ、高校生なんてそんなモンだ。気長にいけ気長に。俺が土方にうまいこと言ってやるよ」
「止めてください」

第一、もしも奇跡が起こって私と土方君が付き合うことになったとして、先輩や後輩からの目はどうなると言うんだ。土方君は剣道部の副主将で、先輩からも後輩からも同級生からもモテモテだ。つまり私とは遠い存在。そんな土方君と付き合ったりしたら、今の平和な毎日が音を立てて崩れてしまうことはまず避けられない。

「それに私、別に両思いになりたいなんて思いません。」
「でももーちょっと仲良くしたいとか思うだろ?」

先生がにやりと目だけで笑って私を見た。確かに、それはそうかもしれない。頷くかでら俯くと、先生はとっても面白そうにからからと笑った。

「青いなあ」
「もう…ほっといて下さい」

私をからかってばかりいる先生にもう呆れてしまって、「もう帰ります」と入り口の方へ身を翻すと、先生は慌てて「じゃあクラスの連中に自習で俺は行かねえって言っといて」と声を荒めに言った。「どうして来ないんですか?」「先生にもいろいろあるのよ、まあ、言うなれば密会」「先生、女性と関係があったんですね」「まあ、先生も大人だから」やっぱり先生って少し凄い。国語準備室の壁に掛けられている時計の針が始業時間までもう僅かだったので、私は慌てて部屋を出た。また、先生のおかしそうな笑い声が聞えた。
やっぱり、いくらやったって先生には叶わない。いつもふざけているように見えて、たまに今の私じゃ決して見ることのできないような大人な世界の匂いを私に嗅がせる。私は、実のところちょっと先生に憧れているのだ。
そんなことを考えて、ちょっといい気分になっていると始業のチャイムが鳴ってしまった。慌てて教室の方へ走ると、入り口に男子の姿があった。サボリがちな沖田君かな、いやいや沖田君は黒髪じゃない。あれは…

「あ」
「…土方君」

目が合う。身体が硬直して、声が出ない。急にのどが渇いたような感じがして、何も考えられなくなる。心臓がどくんと鳴った。

「授業始まっても、お前来ないから、銀八になんかさせられてんのかと、思って」
「そっ、そっか。心配してくれたんだ、ありがとう」
「べっ別に心配したとかそういうんじゃ、ねえよ」
「えっそ、そっか…ごめん」
「ああ謝んじゃねー」
「ええっごめ、……」
「……」
「……」


先生、土方君の顔がいつもより緊張しているように見えるのは、やっぱり先生の言葉が当たってるからですか?



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