幼馴染のレッドは凄く強い。同じくグリーンは凄く賢い。私は普通。劣等感を抱かないなんてことはなかった。ふたりが徐々に名をあげていくにつれて、何のとりえもない自分を情けなく思ったり、見当違いの逆恨みをしたりもした。だけど、昔からちっとも変わらないふたりを見ていたら、そんな自分が馬鹿らしくなってしまって、今ではなんの問題もなく平和に暮らしている。
ジムの運営やらなんやらでいつも忙しいグリーンが、今日マサラの町に帰ってくる。自分の家に寄ってからうちに来るって言っていたから、きっともうすぐ来るだろう。私は別にいつもどおりの調子でインターホンが鳴るのを待つ。いくら久しぶりの再開だって言っても、あからさまに喜んで迎えるのはなんとなく嫌だ。だから昔みたいに、出迎える。
「うっす」
「あ、おかえりー」
ついボロが出てしまった。少し恥ずかしいけど、あからさまに照れるのはもっと恥ずかしいので、知らんぷりしてグリーンにコーヒーを淹れた。ブラックコーヒーって、なんだかグリーンによく似合ってる気がする。
「リザードンたち元気?」
「マサラに帰ってお前んち寄るって言ったらすげー喜んでたぜ」
そう言うとグリーンはおもむろにモンスターボールを取り出し、リザードンを出した。身体の大きいリザードンが、元々広くない部屋を占める。
「はあ…リザードン可愛いよリザードン…」
凄く大きいリザードンを抱きしめる。ヒトカゲの時からよく抱きしめていた。リザードンとくっついてるととても落ち着く。腕をいっぱいに伸ばしてリザードンを撫でると、リザードンだって気持ち良さそうに目を瞑る。
「はあ…癒される…」
ぶっちゃけ、リザードンはグリーンよりも私のことの方が好きだと思う。いや、グリーンとの信頼関係はちゃんとあるんだけど、なんて言うか…グリーンがお母さんで私は恋人みたいな感じ。そう、そんな感じ。そんな話をグリーンにしたら、何故かグリーンはたちまち不機嫌になり、リザードンをモンスターボールに戻してしまった。
「なにしてんの」
「いいだろ別に、俺のポケモンなんだから」
一体どうしたんだろう。ジムの運営がうまくいってないのかもしれない。グリーンの顔を覗きこむと「こっちみんな」って声を荒げてそっぽを向いてしまった。耳が若干赤い。何故?
「グリーン?」
「なんだよ」
グリーン本当に不機嫌だ。「ねー、グリーンてば」「うるせーな」「なんで機嫌悪いの?」「悪くねーよ」嘘だ。絶対にグリーンは何かに対して不機嫌になっている。一体何で?元々ストレスが溜まっていて、それを私が何らかの行為で強めてしまったとか…?ううん、そんなことしてる筈ない。じゃあもっと別な…私は名探偵ばりに推理をしてみる。
私はリザードンと仲良くしていた。リザードンにとってグリーンはお母さんでで私は恋人みたいだねって言った。グリーンの機嫌が突然悪くなる。顔が赤い…?
見えてきた気がする。なんだ、そういうことだったのか。
「ねえ、聞いてよ」
「うわ、おま、ちけーよ!」
昔みたいに抱きついてみる。するとちょっと赤みがかかっていた顔がもっとじわっと赤くなって、不機嫌だったのも忘れてすっかり照れている。昔から変わらない。とっても恥しがり屋だ。幼馴染なんだから照れることなんて無いのに。
「ほんとかわいいよね。グリーンって」
「はあ?」
私はきっと一生グリーンに勝つことはできないけど、肩を並べて笑うことはできる。グリーンを導くことはできなくても、きっと後押しすることはできるはずだ。いくら成長しても、ちゃんと私の幼馴染でいてくれる。きっとこれからグリーンは(もちろんレッドも)今まで以上に強くこの世界に名を馳せてゆく。そうなっても変わらずに、私の幼馴染でいて欲しい。
抱きしめて欲しいと言って欲しい
「そしたらグリーンもリザードンみたいにぎゅーってして頭撫でてあげるよ」
「ばっ…い、いらねえよ」
「またまたー」
「も、わかったから離れろ…!その、む…」