「それは…犬か?」
「ちがいますよー犬ではありません」

私が赤と白の玉から出現させた生物に、たったさっきまでそこで書類処理に精を出していた土方さんは目をまん丸に見開いた。土方さんのこんな顔は嫌いじゃない。

「これはイーブイという生き物です。かわいいでしょ?」
「い、いーぶい?」
「はい。"しんかポケモン"と言うたくさんの未来をより取り見取りのとっても羨ましいポケモンです」
「は…お前、ポケモンて…マジ?」
「はい、マジです!」

なんだ、土方さんもポケモンやってたんだ。トッシーが初代赤のバグで遊んでいるのは何度か見たけど、まさか土方さんもポケモンマスターのひとりだったとは。じゃあイーブイくらいわかるだろ。

「…で?そのゲームのキャラクターがなぜここに?」
「狭い路地をパトロールしていて、あやしいいでたちの天人商人から5万円で購入したのです!」
「おま…っまたひとりで見回りいったんか!」
「当然です。私は真選組の副長補佐ですから!」

そこは胸をはる場所じゃねえ!土方さんのシャウトは屯所中に鳴り響いた。

「ベドベドンとかポッポとかいろいろいたんですけどね、一番土方さんに似合わないイーブイにしました」
「なんでだよ」
「可愛い小動物と戯れる土方さんが見たいからです」

どうせ怒られるんだ。ありのまま思ったことを言えば、土方さんは怒鳴るでもなくがっくりと頭を垂れた。きっと私を叱るのを諦めたんだろう。他の隊士じゃこうはいかない。女っていろいろ得だなあ。ちなみに今イーブイは土方さんの周りでぴょこぴょこ動き回っている。土方さんも些かやさしい目でイーブイを見ている気がする。

「…ですので土方さ「断る」…え?」

まだ何も言ってないのに。土方さんは目をかっぴらいてあたりをきょろきょろと見回す。そして私の肩をつかみ耳元で囁く…というにはちょっと色気が足りない感じで「そんなところ総悟にでも見られてみろ。副長としての面子が丸つぶれだろ」…たしかにそれは一理ある。じゃあイーブイと土方さんと遊ぶ事は叶わないのか。私はあからさまに落胆し、溜息を吐いた。

「な、なんだよ」
「じゃあもういいです…。申し訳ありませんでした。土方さんに可愛い生き物でリフレッシュしてもらおうと思ったんですけど…ひっく」
「あー土方いけねーんだ、女泣かしてらぁ」

一体どこから現れたのか知れないが、沖田君が悪い事をしている子どもを見つけた子どものような声をだす。「これは他の隊士にも教えてやらねーと」「待て待てえ!総悟!これは…」「じゃあ遊んでやりゃあいいじゃねえですかィ。別に俺ァその写真を撮って隊士共に見せたりしやせんぜ」「…わあったよ。」

計画通り!

私は沖田君と顔を合わせ、土方さんに見られないようにほくそ笑んだ。

「ブイー!」
「おわ…っ暴れんなコラ」

はじめは居心地悪そうにイーブイと戯れていた土方さんも、30分もするとすっかりイーブイに癒されている。わたしはそんなふたり…ひとりと一匹?を見て癒される。これってすごくいい循環だと思う。これからもちょくちょくイーブイと土方さんと遊ぼうと思う。

「沖田君、隊士の人たちに回す土方さんとイーブイの隠し撮り写真、協力してあげたんだから一枚ずつ頂戴ね」
「約束だからねィ、しょうがねえや」

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