冬の影もかなり薄くなってきた今日この頃。寒かった頃ははやくさんさんとふりそそぐ日光を浴びたいと身を縮めていたにも関わらず、急に顔をだした強い日差しに顔をしかめてしまった。様々なものが活動を開始し、白に閉ざされた冬から開放されるこの季節は、無意識に人々を興奮させた。ちらちらと眩しくて邪魔くさい直射日光を諦め、いつもの椅子に掛けて目を瞑る。瞼の薄い皮膚越しに感じる日の光。少し肌が熱に痛い気もするけど、これはこれでいいかもしれない。あと3日もする頃にはこんな天気にもすっかり慣れてしまうだろう。要するに、何事も慣れだ。わかってる、解ってはいるけれど。
「お前、ちゃんと愛情表現してるか」
最も意外な人物からそう言われたのは、まだまだ肌寒かった先週のことだった。きっちり着こんで外に出たにも関わらず、冷え切った風は思うままに俺を痛めつける。定春の散歩紐を持つ手を着物の中に押し込め、なんとか通常通りのルートを進んでいた。しかし途中で気が変わったらしい定春は、通常とは異なった道を選ぶ。真選組屯所の方向。この時点で嫌な予感しかしない。そして大抵、嫌な予感と言うのははずれないものだ。屯所の外に出て煙草をふかしていた真選組鬼の副長…土方十四郎は、朝早くから犬の散歩に精を出す俺を視界の端に捕らえると、呆れたように白煙を吐いた。そんなことをされて文句を言わない俺ではない。当然つっかかった。本来ならこれだけで職務妨害としてしょっ引かれてもおかしくない。だけど土方はそんなことをする男じゃないのを、俺はきちんと把握している。
「人の顔みて溜息ってなんだよオイ」
「るせーな」
それからぎゃんぎゃん幼稚な内容の言い合いを男2人で続けた。しばらくして収集がつかなくなったのとただ煙草をふかす為だけに外にでた土方には寒すぎる空模様に土方は先ほどのように溜息をする。そしてあの1言。その直前のいい合いが「ま、嫁もいねーお前にはわかねーだろうけど?」だった事も相まって、俺は口を噤んだ。「俺は背中で語るタイプなんだよ」「その猫背でか?」それから女に対する男の定義について語り合うという名の喧嘩が始まったのは言うまでもない。まあ、火事と喧嘩は江戸の華、なあんて言われるご時勢だ。一般人と役人が言い合ってたって誰も気に止める奴なんて居ない。とうとう俺が拳を固めたその時、土方はすましたような顔で言う「ちゃんと繋いどかねーと俺が盗るぞ」。土方は何事も無かった様に…いや、忌々しげに煙草を足で踏み潰して屯所ののっぺりした壁に吸い込まれていった。俺はその場に停止。定春が大人しくしていた事に今更気付いて小さくおどろいたりなんかしていた。――要するに、動揺していたのである。

それからおおそよ1週間。俺はいつもの定位置に座りジャンプ片手にぼへっとしていることしかできていない。それ以外どうすればいいか解らないのだ。あの後家に帰って待っていたいつもの笑顔。こんなに綺麗なものを手放すなんて絶対に嫌だった。大切にしたい。だからこそ。だからこそ、それを行動に表すのに躊躇ってしまうのだ。軽い男だなんて思われたくない。だけら俺は脳内でシュミレートしてみる。愛情表現する俺としない俺に対する反応。すればきっと、顔を真赤にして恥ずかしがって喜ぶんだろう。困ったようにふやけた口角と、とびきり嬉しいことがあった時の目じりの下がった瞳。だけど言わなかったとしても、怒られる事も泣かれる事もないだろう。笑顔と平穏…俺はとある人物に応援を要請した。

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