彼は普通の真選組隊士にしては線の細く繊細な指で掴んだジョッキを叩きつけるようにテーブルに置いた。ビールが少し零れて手が濡れるのも構わずはあ、と熱っぽい溜息をこぼす。私は彼を形容しがたい微妙な気持ちで見つめていた。まあ、彼の気持ちはわかる。やけ酒に走ってしまうのも頷ける。だから止められないのだ。「ひどいれすよねえ!」と呂律の回らない口で同意を求める彼に、私は「そうですね…」と曖昧に笑うことしかできなかった。そして彼はまた飲み屋のおじさんにビールを頼む。おじさんも呆れた顔でビールを注いでくれた。

「アンタも大変だねえ」
「あは、でも可哀相だから今日は朝まで付き合ってあげることにしたんですよ」

私がおじさんと軽く話している間に、とうとう彼は落ちてしまった。朝まで付き合うと言った途端にこれだ。案外彼は真選組の中で一番私を振り回す人かもしれない。苦笑いを浮べ彼の財布から紙幣を引っ張り出してお勘定を済ませ、おじさんと一言二言交わしてから彼と肩を組んで飲み屋を後にした。ここからだったら屯所よりも私の家の方が近いな。どっちも大して変わらないような距離だったけど、いくら線が細いとは言え大人の男を引きずりながら歩く距離は短いに越したことはない。私は髪を振り乱して彼の足を引きずりながら自宅へと向かった。

そうして自宅に到着し、彼…もとい山崎さんをベットに放り投げた。明日は肩こり確定だ。すっかり硬くなった肩の筋肉を回してほぐしながら溜息を吐いた。いくら冗談とは言え、あれは酷すぎる。今日の昼間の事を思い出してまた私は溜息を吐いた。本日、2月6日は彼山崎退の誕生日だ。それを真選組隊士全員+万事屋の方々などで完全スルー。本当ならそのことですっかり落ち込んだ山崎さんに明日ちゃんと誕生日会を開いてあげる予定だった。が、年末年始の多忙やその他諸々のストレスを抱えていた山崎さんは一気に爆発。唯一の部下である私をひっつかまえて飲み屋に直行と言う訳だ。たまに驚く程冷酷になるけど、その時以外は案外可愛らしい人だと思う。やや火照った寝顔も可愛らしい。思わずケータイで撮影してそのまま土方さんにメールを送る。「かなりの勢いで飲み続けてかなり勢いよく眠っちゃいました」返信は土方さんにしては早く来た。若いくせに機械に弱い土方さんはメールの返信もスローペースだ。沖田さんとかなんて凄いと15秒くらいで返ってくる時とかあるのに。「たたき起こして屯所連れて来い」なんとも鬼副長の言いそうな事だ。でも、鬼の…なんて言われておきながらちゃんと隊士の事をよく見ている、頼りになる副長だという事を、真選組の皆はよく解っている。ほくそ笑んでケータイを思い切りぱちんと閉じる。狙い通り山崎さんはその音に反応して眉間にシワを寄せ唸った。

「起きて下さい」
「酔ってる人間に起きろなんて…ひどい…」
「あら、じゃあしなくていいんですか?」
「なにを……」
「お誕生会」

今の今までとろんと空を見つめていた山崎さんの目が、一度瞬きして完全に覚醒した。きっと今わたしはにやにやしているんだろう。真剣な時でもふざけているように見えてしまいかねないタレ目が、まっすぐ私を見た。口はだらしなく開いている。

「…する、けど」

ビールのために

「これから騒ぐのはキツイ」
「頑張ってください!」
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