「俺、戦争に行こうと思う。」

私はその言葉に目をまるくした。そうせざるをえなかった。小太郎も晋助も同じように、目をまん丸に見開いて、銀時を見た。銀時はいつもの死んだ魚の目で、座って談笑していた私たちを少し距離を置いた場所から見下ろしていた。その顔は無表情そのもの。小さな小屋の外では心地よい風と桜の花弁がからからと音を立てて農作業に勤しむ人たちを励ますように舞っていた。

「本気で言っているのか」
「ああ」

あまりにも現実離れした戦争という文字。でも戦争は確かにこの地球ではじまっていた。天人がここまで来るのもきっと時間の問題だろう。確かに私はびっくりしたけど、別に行きたくないと感じた訳でも、行きたいという訳でもなかった。銀時が行くと言ったんだから、きっと私達は行くのだろう。そんな感じ。
にも関わらず小太郎は訝しげに眉を顰め、銀時を戒めるように一瞥した。晋助も、まるで面白くないことのあたような不機嫌な顔で銀時のほうを見ていた。銀時の右手には、ずっと銀時が大切にしている先生の刀。

「お前はその刃で、人を殺すつもりなのか?」

晋助の顔は、明らかに銀時を責めていた。どうして?銀時はまるでそれが解っていたみたいに変わらない無表情だ。銀時は、ただぼうっとこっちを見ていた目でちらりと私を見て、その無表情を弱く微笑ませた。ぎくりと、悪戯がばれた時のように心臓が飛び上がる。いつのまにかこの空間はなんとも言えないピリピリした空気を孕んでいる。私はそれが、たまらなく嫌だった。

「ああ。」

銀時は、肯定した。先生が銀時だけに遺した刀で命を斬ることを。私は、いろいろ思うところはあるけれど、銀時がそれを決めたのなら、私が言うべきことは何もないと思った。だけど、晋助や小太郎は違った。どうしても、先生の刀で命を斬ることを否定したんだ。争いが産むものを私たちに教え、揺るぎ無い程の愛情を私たちに恵んでくれた先生の、その人が残した、大切な人を守るための刀。私たちがいくら手を伸ばしたってそれはいつも銀時の手の中にあるのだ。それで、銀時は命を絶つ。小太郎と晋助は、どうしてもそれが許せないんだ。私にはその気持ちが十分に伝わった。銀時もきっと解っている。銀時のさっきの弱い笑みがフラッシュバックする。銀時は、何を考えて何を思って、戦争に行く事を決めたんだろう。

「俺の守るべきものをを守るために」

わたしがこわいと思うこと

銀時は何故か、少し嬉しそうだった。小太郎と晋助ににらまれても、それでも幸せそうな目を私に向けた。語りかけられている。銀時に、私が。身体の中心からはじけるように汗がにじみ出てくる。心臓が激しく脈打って、頭ではひたすらに「何か考えて、言わなくちゃ」という思いだけが先走っている。お前ならわかってくれるだろ、俺にはできないからこいつらにわかるように説明してやってくれ。そう言われているような気がしてならなかった。事実銀時はそう言いたかったのだろう。急に顔色を変える私に、そのことに気づいていない小太郎と晋助はまた銀時を睨む目に力を込めた。私は絶対に、銀時を傷 つ け て は い け な い 。



今の私は、その時私が何を言ったのか、何を思ったのか、どんな顔だったのか。何一つ記憶に残っているものはない。

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