足が棒みたいにつっぱってうまく前に進めない。いつもぼうっと過ごしていたけど、まさかここまで体力が落ちているとは思わなかった。ぜいぜいと犬のような息を繰り返して、私は力なくドアを開る。そこは見慣れた教室で、どうして私の足はがくりと折れ、そのままその場に崩れ落ちてしまった。コツコツと静かに革靴の音が近づいてくる。ゆっくり近づいてくる音が、私の頭の中を激しくかき回すようだった。
「どうして逃げるんちゃ」
そりゃ逃げるわ!という私の叫びは坂本には届かず、距離をじりじりと詰めてくる坂本。いやいやいやいや、本当にないから!ありえないから!
「負けたのはおんしろ」
「いやっでででもさすがにこれは…」
教室の入り口付近で、銀時と晋助と小太郎がこっちを見てニヤニヤ笑っていた。あとで覚えてろよ…!
「恥ずかしがるから恥ずかしいんちゃ。恥をふてればなんちゃじゃない」
「そっそうは申しましてもですね…」
混乱してしまって舌がうまく廻らない。崩れ落ちた格好のままでずるずると窓の方に後ずさる。坂本は至極楽しそうに距離を詰めてくる。恐い、怖い…。坂本の右手に持たれている黒い布が、私の恐怖心をかきむしった。
「たかがメイド服ぜよ」
「されどメイド服ゥウ!」
いくら声の限りに叫んだところで、私の気持ちなんて坂本にちっとも伝わらないんだ。もうあきらめたほうがいいのかと、ちらっと思った。
「…いいんじゃ?」
「え?」
坂本のサングラスがきらりと光る。もう私としては嫌な予感がバリバリしてきて汗が吹き出てきた。思い出されるのはかつて坂本におごってもらった洋服やアクセ、食事など諸々……
「金返せ」
「すまっせんっしたァァアアア!!」
もう土下座で許しを請うしかない。坂本大明神の背後では三人の男共が腹を抱えて笑い転げている。
「ほんなら、ヤ「着ます!着ますうう!」
はじめのちょっとシリアスっぽい描写はどこへやら、今日もわたしたちは平和です。
死神はNOと言った