貧乏揺すりをしているのは自覚している。向かいに座るおばさんが「はしたない」みたいな目で私を見ているのも自覚している。だけど今の私にそれを何とかできるほどの余裕は、残念ながら持ち合わせていなかった。電車が目的の駅に着いてドアが開く。私はやけにギクシャクしているだろう動きで駅を後にした。

「頑張って」
「うん!やれるだけやってくるよ!」

…と、陽気に言っては見たものの、望みは薄い。繰り返し脳内で英語の文法を並べ、鳴くよウグイス平安京と呟き、左手をパーにして右手でその左手に思いつく限りの漢字を書き綴るという、器用と褒められるべきなのかただの変人なのかわからない感じで試験会場に向かった。やばい。緊張する。死ぬ。



「お、終りました…」
「どうだった?」
「…死力は尽くしました」

試験会場の中では、かじかんだ手を必死に温めながら、佳主馬さんの助言を繰り返し頭に思い浮かべて、深呼吸して、その繰り返しだった。試験が始まる頃には、いい感じな緊張状態で、問題に集中することができたし、それなりによくできたと思う。だけど受かったかと聞かれると…自信がない。合格発表までこんなとんでもない雰囲気で過ごさないといけないのかと思うと気が滅入った。がっくりと項垂れると、佳主馬さんに頭をわしゃわしゃされた。私は犬か、犬なのか。

「まあ、あんた頑張ってたし、大丈夫だと思うよ」
「か、佳主馬さんが優しい…!」


あんなに優しい言葉をかけてもらっておいて、「受かりませんでした」なんて報告に行った日には私の命は終わりを迎えるだろう。佳主馬さんだってきっと私に気を使ってくれたのだ。あの、女王様の地位にもっとも近しいような佳主馬さんが…!…ということがあったのだ。合格発表の日はぜんぜん眠れなかった。お守りを握り締めて合否を確認しに行く。この後すぐ佳主馬さんの家に行く手筈なのだ。合格してますように、合格してますように!ごうかく……



「うわああああああ佳主馬さああああ!」
「うわ、うるさい。」
「わっわわわわわたしいぃ!」
「まあ合格してただろうね」

佳主馬さんは当然の事を言うような顔で私にそう言った。そして仕事の書類をぶちまけた私を怒りもしないで、佳主馬さんは笑ってわたしの頭をわしゃわしゃした。

「おめでとう」

スッと、ぐちゃぐちゃで今にも爆発しそうだった頭の中が静かになった。おめでとうと言う言葉で、やっと自分が合格したんだと自覚したような気持ちだった。そうか、合格したのか…。じわじわと身体の中心から嬉しさのようなくすぐったさのような、凄く熱いものがこみ上げてくる。涙腺もゆるゆるで、とうとう涙が零れそうになった時、

「俺が教えたのに不合格とかありえないからね」

その佳主馬さんの女王様発言で、涙はぴたりと止まった。その言葉が、「どうせギリギリだったんだろ?俺が折角仕事の時間割いてまで教えてやったんだ余裕で合格しろよアアン?」と言っているのがわかったからだ。佳主馬さんの優しい微笑が、今となっては私を責めているようにさえ感じられる。だがしかし、そんな佳主馬さんも、なんだか今の私には嬉しく感じられた。


イコールの隙間は不一致のままで
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