もう随分時間が経ってしまったと思う。今考えてみれば馬鹿な話だった。あなたも今のわたし見たいに、思い出しては笑ってくれていると嬉しい。そして間違っても、もう二度と私のせいであなたを苦しませたりなんてしないように。

喜びの裏には常に悲しみがあるのだと、気づいてしまったことは決して後悔していない。「もう昔のことだろ?」ちょっと寂しいだけ、それだけ。こうして思い返している時点で、私は未練タラタラな訳だけど、だからこそ気持ちはあの頃とちっとも変わってない。今までずっと大変な人生を歩いてきたから、これからは幸せになってほしいだけ。「太く短く」生きるのに悔いを感じてしまうほど、長生きしたいと思うほど幸せを感じて欲しい。それだけ。私がしてきた事が、いまあたなにどんな影響をもたらしているのか私には想像もできないけど、マイナスの方向に進んでいなければ、それで私は満足だ。胸を張ってそう言える。

「好きだよ」「ああ、俺も」

久しぶりに感じる江戸の空気に、小さく溜息を吐いた。鞄の中にくしゃくしゃになって詰められた手紙がどうしても気になってしまう。大分この町も変わってしまって、当時の面影なんてちっとも残ってない。それが嬉しいような、やっぱりちょっと寂しいような。曖昧な気持ちで、あなたを探して町を歩く。見つからないように、だけど見つけて欲しい。いつあなたの心が変わってしまったのか。もう戻ってきてはくれないのか。いくら前を向こうとしてもやっぱり付きまとってくる浅墓な期待に、もう疲れた。私のすぐ横を、当然の顔をして通りすぎる天人にほんの少し違和感を感じてしまう。それはきっと私が、あの戦争の最前線で戦う人たちのごく身近にいたからだと思う。



戦争があって、先生が死んで、全てが変わった。大切な人を失う感触などもう二度と感じたくなかった。血なまぐさい肌を刺すような風を浴びて、真赤な血を無理やり止めるために、傷だらけの肌にきつく包帯を巻く。そんな仕事を永遠とこなす私は、その頃頭がおかしくなってしまいそうだった。勝つ見込みのない戦争、日に日に減っていく仲間、光の見えない未来。もうやめたい、なんどもそう思った。だけど私がやめたら、今よりもっと沢山の人が死んでしまう。私ができることをしないで、そのせいで人が死んでしまうのはどうしても嫌だった。だから毎朝早起きして、少ない食材でなるべく腹が膨れるように工夫して飯を炊いて、見るに堪えない傷に包帯を巻いて、大切な仲間の屍を埋めていった。女の私にはそんなことしかできない。それでも飯を掻き込む人たちは、それはそれはおいしように食べてくれるし、少ない器具やなんども繰り返し使われているほころびた包帯で傷の手当をすればありがとうと言ってくれる。仲間の死は共に悔やんでくれた。比較的少人数のこのメンバーの中に、一時的に加わったのが、白夜叉をはじめとするあの4人組だった。剣の腕だけでなく、侍としての精神もずばぬけていた彼らは、なんと私と同い年で、年上に囲まれていた私はすぐに彼らと打ち解けた。そして、だんだんとその中の1人と仲良くなって、そして。

「好きだよ」「ああ、俺も」

あなたは真っ暗な雲から刺す一筋の光のように、私を導き、時には目に痛いほどの光で私を叱咤したりしてくれた。私にとってとても大切な人だった。幸せになってほしいと思った。できれば私が幸せにしたいと思った。だけどそれは所詮、青い男女間に置ける青い恋愛”もどき”だったのだ。熱が冷めればやがて離れていってしまう。私は凄く好きだったのに。私の気持ちはどうしようもなく一方通行だった。だんだんあなたが冷めて行くにつれて、私は子どもみたいにあなたに執着して。今考えてみれば実に馬鹿な話だった。


思い出しただけでも涙が出てきそうだった。だけど街中で泣くわけにも行かない。京で女医のようなものをやっている私がここに来たのは、真選組の専属医者になるためだ。これからは、あの人たちを裏切った幕府の元で、沢山の医療器具に囲まれ、新品の包帯を巻いて生活する。私が雇われた理由は、女で、しかも刀傷の手当に長けているからだ。女であると、幕府の上の人たちや真選組隊士達に気に入られやすいらしい。たしかに男だらけの場所に、女が1人居れば大分違うだろう。それは自らの経験で知っていた。ただ、江戸に来るということは、またあなたに会ってしまうかもしれないということ。
今、あなたに生きる理由はありますか。今、あなたに守るべきものはありますか。今、あなたに…

「…お前っ」

今、あなたに愛しい人はいますか?

「ぎん…、」

私はわき目も振らずに走り出した、否、逃げ出した。もう二度と会えない。そう思っていたから。姿を探していたはずなのに、ちっとも気づかなかった。何年ぶりだろう。あの頃よりもがっしりしているから、きっとあの頃よりいい環境で、おいしいものを食べられているのだろう。綺麗な着物を着ているから、もう血にぬれるようなことはしていないのだろう。久しぶりにあった銀時からは、甘い匂いがした。今は大好きな甘いものも、いっぱい食べられてるんだね。じわじわと涙が溢れてきて、今と昔の銀時のギャップに、もう私は泣くしかないと言わんばかりに、ここが町の中心であるにも関わらず大声で泣いた。思い出してよ、私はあなたが好きだよ。終らないでよ、私はまだ銀時が大好きだよ。

何十年後かに「君」と出会っていなかったアナタに向けた歌



ねえ、ねえ。忘れちゃったの?一度紐解かれた思いは、手紙に綴られる手間も無駄になるように、不本意ながら私の口から漏れ出していく。ねえ、私の声は銀時にちゃんと届いてる?
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -