私は高杉先生を普通の保険医として見ていたし、先生だって私を普通の生徒として扱っていただろう。確かにそう思っていた。

保健委員の私は今日も今日とて保健室に足を運んだ。健康監察のボードを持って、キュッキュと音を立てるリノリウムの廊下を歩いていた。気に入っているブラウンのカーディガンの裾をさり気なく伸ばしながら歩く静かな廊下は私のお気に入りであった。何故かあまり生徒の通らない廊下にある保健室はとても静かだ。ノックもせずにがらりと音を立てて保健室に足を踏み入れると、そこでコーヒーを飲んでいた高杉先生が訝しげに眉を顰めた。憎らしいほど整った顔が歪む。私はそ知らぬふりでいつもの場所に健康監察ボードを置いて、いつも座っている病人用ベットに腰掛けた。

「ノックしろや」
「しても先生何も言わないじゃないですか。だったらしなくても同じです」
「俺が驚くだろうが」

あのヤクザがガンを飛ばしているような表情が先生の驚きだったのだろうか。なんと可愛げの無い驚き方だろう。可愛らしいうさぎのマグカップを両手で持ちコーヒーを啜る先生はなんとも奇妙だ。だけど先生はそのうさぎのマグカップを気に入っているらしい。先生はこんな恐い顔をして、存外かわいいものが好きだったりする。

「つーかお前、友達いねえのか」

毎日毎日こんなとこ来る奴なんてお前しかいねーぞ、先生の目は確かにそう言っていた。サボリに来る連中だってこんなもの静かな気味悪いところ毎日なんて来たくないだろう。だけど私にしてみたら、その静かさがいいのだ。ぎゃあぎゃあろくでもないことで騒ぐクラスメイトに無理して付き合うくらいならこの保険医の癖に目つきが悪くてワイン色のシャツなんか着こなしちゃってる高杉先生といたほうが何倍も楽なのだ。

「目つきが悪くて悪かったな」
「先生ってイケメンなのにそんな目つきしてるからモテないんですよ」
「は、ガキにゃ興味ねえ」
「当然です。もしあったら今頃先生は刑務所暮らしでしょうから」

そう言って私は当り前の顔をして先生のくさまんマグカップにココアをいれた。先生はまた不機嫌そうな顔をしたけど、そんなことは無視だ。再びあまり軟らかいとは言えないベットに腰かけ、熱いココアを両手で持って冷ましていると、先生がコーヒーが空になったのかマグカップを持ったまま立ち上がった。そして流しにマグカップを置いてゆるゆる私に近づいてくる。なんだ、そんなにくまさんマグカップが気にっているのか。先生はじっと私の目を見て私の手からくまさんマグカップを取り上げた。あ、と声を洩らす間もなく、マグカップを健康監察ボートの上に置いた先生は私を押し倒した。視界が暗転してまっしろな天井と先生の白衣が私の目によく映える。

「ガキには興味ないんじゃ?」
「お前はガキじゃねえだろ」
「立派な女子高生ですが?」
「実年齢の事を言ってんじゃねえ」
「じゃあ、何を?」

返事のかわりのつもりなのか先生は私に噛み付くようなキスをした。


繊細なあなたの指が好き



そう、例えば今わたしのカーディガンを脱がしている所とか。



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