私は佳主馬が好きなんだ。何と無しにそう思った。もう付き合っている私がそんなことを今更再確認するのも変な話だけど、本当にそう思ったものは仕方ない。この私一人しか居ない空間が、急に寂しい場所に感じた。いつもここに居て、いろんなことをした思い出の場所であるにも関わらず、だ。私の人生は佳主馬に上書きされてしまった。もう思い出なんて意味がない。佳主馬がいないと、なんの意味もない。これほどまでに佳主馬を想う私はやっぱり普通の人間じゃないのかもしれない。でも普通って私には解らない。私が普通に佳主馬を好きだったら、こんな気持ちにならなくて済んだの?訳のわからない焦燥に頭をかきむしろうと手を伸ばしたら、私の背中越しに扉が開く音がした。はっとして振り返る。
思いっきり佳主馬を抱きしめた。もうぎゅうと力強く、細い佳主馬の体を折ってしまいそうな程強く抱きしめた筈なのに、佳主馬はそれ以上の力で私を抱きしめて離さない。息苦しいほどの力が私にはどうしようもなく心地よかった。私の鼻が丁度佳主馬の肩口あたりに埋まって、思いっきり息を吸うと佳主馬の良い匂いがした。こんなこと言ったらキモイとか言われそうだから絶対言わないけど、でも、佳主馬にならそんな風に扱われてもいいような気さえする。私はそうとう末期だ。佳主馬が好きで好きでもう大好きでどうしようもないけど、佳主馬はきっとそこまで私のことなんか好きじゃないんじゃないだろうかって時々考える。佳主馬はとっても素敵な人だし実力があるし人間性も申し分ない。佳主馬があんまりに完璧すぎるから私は置いていかれそうで凄く寂しい。そんな事を思って震える息を吐くと、佳主馬が私を抱きしめる力が強まった。沢山の力をいれているからなのか、はたまたもっと違う理由で、微かに震える佳主馬は少なくとも今だけは不完全で、とても私を安心させてくれた。顔を見てはにかんでキスしたい衝動に駆られたけど、抱きしめられたこの腕を離したくないし離してほしくないと想った。願わくば、この幸せがいつまでも続きますように。私は目を閉じて、佳主馬の心音を静かに聴いていた。
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